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司書・司書教諭のための「情報」入門インターネット時代の学校図書館

インターネット時代の学校図書館 司書・司書教諭のための「情報」入門

A5判 186ページ 上製
価格:2,640円 (消費税:240円)
ISBN978-4-501-61970-1(4-501-61970-8) C3000
奥付の初版発行年月:2003年02月 / 発売日:2003年02月下旬

内容紹介

情報化社会での学校図書館と司書の役割を提言

 学校の情報化が進められ,平成13年度末までに全学校がインターネットに接続された.それに伴い,学校図書館へもインターネット端末が導入され,学校図書館の情報化も進められてきている.平成10年に旧文部省より出された報告書においても,「学習情報センター」としての学校図書館整備強化が挙げられている.こうした流れの中で学校図書館における司書教諭の役割は大きくなるが,学校図書館法の一部改正により平成15年度から一定規模以上の学校図書館に司書教諭が必置となる状況においても,司書教諭に対する認識および司書教諭の情報化に対する認識は高いとはいえない.このような状況を鑑み,今後の学校図書館と司書教諭のあるべき姿を具体的に提言した一冊.今後学校図書館で行われるであろうインターネット学習について,情報の検索・評価・収集・提供,著作権処理等の観点から解説した.

前書きなど

 1998年に改訂された新学習指導要領が,2002年より施行された.この新学習指導要領による教育改革の目玉は,自ら学び考える力を育成する総合的な学習であり,こうした新しい学びの方法を強力に推進するための仕掛けが,学校図書館の充実による学習情報センターの実現である.これが,学校図書館法の一部改正(1997年)により,2003年度から一定規模以上の学校に司書教諭が必置になることと相まって,いよいよ現実のものとなる.この新たな制度の始まりに対して,大きな期待と関心を寄せるものである.
 もちろんこれにはさまざまな問題が伴っていることが知られている.専任の司書教諭として発令される例が少ない,これまでの5年間の準備期間における司書教諭講習はいかにも安直な促成栽培にすぎない,すでに一部地域で制度化が進んでいた学校司書との関係があいまいである,などである.しかし,ともかくも法制定から50年でようやく学校図書館本来の機能を果たす基盤がつくられつつあることは評価したいと思う.
 司書教諭が何をする職種であるかについては法制定以来の議論がある.司書教諭は英語でいえばティーチャー・ライブラリアン(teacher librarian)(『図書館情報学用語辞典』丸善)と表現されていて,教師であるとともに図書館員であるというわけである.そのなかで,教師としての側面については読書指導や図書館利用教育における指導的側面について議論されてきているし,図書館員的な側面については資料の選択や組織化,提供などのサービス的側面について明らかにされてきている.
 しかしながら,図書館学はアメリカから導入されたもので,従来から整理技術を除くと理念や概念の検討が中心となることが多く,それを実際にどのように適用するのかが十分に示されていなかったことは事実である.学校図書館の業務におけるサービスの専門性についても同様である.教員的な側面については経験的に知られていても,図書館員的な側面の専門性についての理解は十分ではない.まして,司書教諭について兼任の勤務形態が一般的であるということになれば,実務的に指導的な側面を押さえておけば,あとは理念的な部分さえ把握していればそれですんでしまうというような安易な理解が一般的ではないだろうか.
 だが,指導的側面と図書館員的な側面は,司書教諭がもつべき知識や技能の表と裏の関係を形成していて,どちらか一方だけでは不十分である.学校図書館にかかわる指導をするためには,図書館における資料や情報の利用に関するかなり突っ込んだ知識がなければならない.現在はメディアが多様なものへ変化している時代であり,必要とされる知識や技能について現状に即して明確にしていく必要があるだろう.
 以上のようなイメージを漠然と抱いていたときに,1990年代末の同じ時期にハワイ大学に留学して図書館情報学を学んできた3人の日本人女性から,彼女たちの学んできたライブラリアンシップ(librarianship)というものが日本には浸透しておらず,また代わりになるような理念や職業意識も見当たらないという実に率直な感想を聞く機会があった.これは私も常々感じていたことで,日本では図書館という建物あるいは施設,制度,資料,それから奉仕の概念はあっても,それらを統合する専門知としてのライブラリアンシップにあたる言葉はないし,それに相当する知識や技術は共有されていないのではないかと思われる.
 そのなかのひとり,中村百合子さんが学校図書館に関心をもっていたことから,他の2人北村由美さん,坂井千晶さんとともに日本の学校図書館の今後についてより実践的に研究しようということになった.おりしも情報教育や総合的な学習の時間の開始,学校へのインターネットの導入といった学校の情報化における学校図書館の変革が求められる状況に直面しており,ライブラリアンシップの先進国である米国で彼女たちが見聞きし,学び,感動したことを伝えて,日本の学校図書館,ひいては教育の改革に寄与することを話し合った.
 我々だけでは頼りないところがあったので,学校図書館の専門家として堀川照代さんに加わっていただき,より専門的な見地からのアドヴァイスをもらいながら研究を進めることになった.さらに他のいくつかの専門的な側面については,芳鐘冬樹,古賀崇の両君がそれぞれの関心を生かしながら研究に参加してくれたおかげで補うことができた.
 幸いにも,松下視聴覚教育研究財団の2001年度の研究開発助成を受けることができたので,2002年1月26日にシンポジウムという形で,この研究の中間的な成果を学校図書館にかかわる専門家,研究者,そして現場のかたがたに聞いていただき,さまざまなご意見を頂戴することができた.
 本書はこういう過程を経て最終的にまとめ上げたものである.その最大の特徴は,アメリカ的なスクール・ライブラリアンシップ(school librarianship)の考え方を日本に導入し,司書教諭のリカレント教育に生かそうというところにある.その際に,インターネット導入に向けての学校図書館司書教諭の役割に焦点を絞り,司書教諭がもつべき専門的知識と技術がどのような範囲のものであるかを明らかにしようとした.情報リテラシーの概念からはじまって,情報ネットワークの概念,インターネットの導入における学校図書館の位置づけおよび管理方法,情報源の評価,情報検索の技術と検索結果の評価,インターネット利用における著作権の問題など多岐にわたる内容を記述した.とりあえず,司書教諭を対象にしているが,これは学校図書館の専任職員を念頭においていることを意味しているのであり,制度的な問題は棚上げにしていることをご理解いただきたい.
 今は,本当に学校図書館が必要なのか,学校図書館専門職が必要なのかが再び問われていると考えられる.司書教諭の配置が決まったものの,おそらく多くの学校において司書教諭は教科や学級担任としての職務を免除されず,司書教諭としての職務に専心することは非常に難しいという状況であり,これまでの校務分掌としての図書(館)主任の置かれていた状況とあまり変わりがないかもしれない.そうしたなかで,しっかりと専門的な知識と技術を身につけることが学校図書館の可能性を最大限に引き出す道であり,また,学校図書館に専門職を置く必要性が社会的に認知される鍵であろう.本書がそうした方向での専門性を明らかにする手がかりになれば幸いである.
 付録Aとして掲載したのは,シンポジウムの際に,アメリカ海軍横須賀基地内の高等学校のスクール・ライブラリアンをしているジャネット・マーレー女史によって行われた特別講演の邦訳である.これをここに掲載したのは,アメリカの学校図書館員の現在の地位が一朝一夕に獲得できたのではなく,先人の研鑽と努力があっての結果であること,また,インターネットを使うようになってもライブラリアンシップの本質には変化がないと考えていることがよくわかるからである.彼女はきわめて情熱的にこれを語ってくれて当日の聴き手に大きな感銘を与えた.本書に掲載することを許可してくださったマーレー女史に感謝申し上げる.
 最後に,シンポジウムに御参加いただいて活発なご意見をくださったかたがた,特に,コメンテータをお務めの小林路子(市川市教育センター),村山功(静岡大学教育学部),森田盛行(全国学校図書館協議会)の各氏に御礼申し上げたい.執筆にあたって,そこで出た議論をできるだけ取り入れるようにしたつもりである.また,本書の編集にあたり行き届いた配慮を示してくださった東京電機大学出版局の松崎真理さんにも感謝の気持ちを表したい.
2003年1月
根本彰


目次

第1部 背景:学校図書館の一大変革期
 第1章 学校図書館へのインターネット導入と司書教諭
 1.1 学校図書館へのインターネットの導入の必要性
  1.2 インターネットの導入に関する司書教諭の使命
  1.3 司書教諭の継続的学習の必要性:米国の先例から学ぶ

第2章 情報活用能力の育成と学校図書館
  2.1 情報活用能力とは何か
  2.2 情報活用能力のとらえ方
  2.3 インターネット時代の情報活用能力
  2.4 情報活用能力育成への取り組み
  2.5 学校の情報化と司書教諭

第2部 インターネット導入に必要な知識と技術
 第3章 インターネット導入と方針の決定
  3.1 インターネット導入を前に
  3.2 利用・提供方針の決定から利用ガイドラインの作成と活用へ
  3.3 有害情報対策としてのフィルタリング・ソフトの活用

 第4章 インターネットの検索技術
 4.1 インターネットによる情報検索と司書教諭
  4.2 検索の準備過程
  4.3 検索の実行:検索結果の評価と検索戦略の修正
  4.4 インターネットの検索技術の指導
  4.5 インターネット検索実践編

 第5章 検索システムの評価
  5.1 司書による検索システム評価
  5.2 検索エンジンの特徴
  5.3 検索エンジンの評価
  5.4 評価方法の指導
  5.5 有料検索システム評価への応用
  5.6 司書教諭による検索システム評価の社会的還元

第6章 インターネット上の情報の評価
  6.1 司書教諭の役割
  6.2 インターネットの特徴とその情報評価
  6.3 インターネット上の情報の評価技術を利用した業務・サービス

第7章 司書教諭の著作権への責任
  7.1 学校図書館における著作権理解の重要性
  7.2 著作権の現状
  7.3 インターネットの活用と著作権
  7.4 著作権をめぐる流動的な動向
  7.5 司書教諭の役割

付録
 付録A ジャネット・マーレー講演要旨:学校図書館でテクノロジーの道を切り開く
  A.1 パイオニア精神
  A.2 テクノロジーを使って情報を整理・組織化する
  A.3 テクノロジーを使ってコミュニケーションを円滑にする
  A.4 リサーチ・スキルの教授

 付録B 今後の学習のために:各章の執筆者からお勧めの資料

 付録C 学校図書館の電子化に向けて:司書教諭のためのチェックリスト

索 引


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