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認知と指示 定冠詞の意味論

認知と指示 定冠詞の意味論

A5判 340ページ 上製
価格:4,400円 (消費税:400円)
ISBN978-4-87698-589-0 C3080
奥付の初版発行年月:2012年02月 / 発売日:2012年02月下旬

内容紹介

冠詞は難しい……中級以上の欧米語の学習者なら誰でも思う。定冠詞は「唯一性」を意味すると既存の言語学は言うが,そうは見えない例外は山のようにある。言葉が置かれる「場」に着目する認知論的方法を用い,「いかなる場・解釈領域を背景として名詞句は解釈されるのか」を分析することで,冠詞の用法に明確な説明を与える画期的研究。

著者プロフィール

小田 涼(オダリョウ)

現在 京都大学非常勤講師
1976年 京都府生まれ/1998年 京都大学総合人間学部卒業/2000年秋から2002年秋まで ストラスブール・マルク・ブロック大学に留学,DEA(言語科学)取得/2002年秋から2004年秋まで フランス政府給費留学生としてパリ・ソルボンヌ大学に留学/2009年 京都大学にて博士(人間・環境学)の学位を取得

主要論文
「認知フレームによる定名詞句の唯一性」『フランス語学研究』第39号,pp. 29—43,2005年(日本フランス語フランス文学会の学会奨励賞受賞論文)。
「定名詞句のいわゆる直示的用法について」『フランス語フランス文学研究』第90号,pp. 139—153,2007年。
「djのさまざまな用法とその統一的解釈」『フランス語学研究』第45号,pp. 19—36,2011年。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

凡 例

序章 冠詞を理解する, とはどういうことか
1 「冠詞は難しい」
2 冠詞の機能と「定」「不定」
3 英語の冠詞とフランス語の冠詞
  (i)不定冠詞/(ii)定冠詞/(iii)部分冠詞
4 定名詞句とは
 4.1.定と不定の形態的分類
 4.2.定と不定の統語的特徴:定性効果(definiteness effect/effets de dfinitude)
 4.3.狭義の定名詞句と不定名詞句,指示形容詞句
5 本書の目的と構成

第1章 悩ましき定名詞句—先行研究の仮説と本書の立場—
1 定名詞句を説明する二つの説
 1.1.唯一性(uniqueness/unicit)からのアプローチ
  1.1.1.指示説
  1.1.2.同定可能説
  1.1.3.存在前提説
 1.2.親近性(familiarity/familiarit)
 1.3.前提の調整
 1.4.その他のアプローチ
 1.5.定名詞句の悩ましき用法
2 領域の限定
 2.1.不完全確定記述(incomplete definite description)
 2.2.談話領域の限定
3 定名詞句の用法の分類と本書の仮説
 3.1.談話モデル
 3.2.定名詞句の用法の分類
 3.3.指示対象の存在前提と調節
 3.4.本書の仮説
 冠詞の魔法—シロアリのジョニー君は本が好き

第2章 先行詞のない定名詞句の用法—認知フレームを用いた新しい解釈—
1 先行研究の検討—唯一性条件の不完全さ
 1.1.唯一性条件に違反する定名詞句
 1.2.Birner & Ward(1994)—唯一性条件は定冠詞使用の必要条件ではない
 1.3.Epstein(1999a, 1999b)—定名詞句は役割関数である
 1.4.Abbott(2001)—伝統的に一つしかないものを表わす用法
2 認知フレームにおける唯一の役割
 2.1.認知フレーム(cognitive frame)— 文化的に規定される知識のネットワーク
 2.2.認知フレームにおける役割 — the waiterは役割になるが,the waiter with blue eyesは役割にならない
 2.3.Martin(1986)による内包説 — 内包を表わす単数定名詞句
 2.4.認知フレームの可変性 — the hospitalを支えるのは「怪我の治療」フレーム
 2.5.場所性—なぜ「場所」を表わす名詞句が多いのか
 2.6.現実世界と認知フレームとのずれ
 2.7.連想照応的用法との接点
 2.8.慣用化のプロセス
3 まとめ
 「出口EXIT/SORTIE」の標識に冠詞がつかない理由

第3章 属格をともなう定名詞句の用法—the wing of the planeとa wing of the planeはどのように異なるのか—
1 属格をともなう定名詞句についての問題提起
  —the wall of the kitchenと言うなら,台所に壁は一つしかないのか
2 英語の属格表現とフランス語の属格表現
  —属格を表わす形態素(痴)のある英語とないフランス語
3 英語の属格型定名詞句
 3.1.Poesio(1994)による定名詞句の「弱解釈」
 3.2.Barker(2005)による定名詞句の「関数構成」
4 フランス語の属格型定名詞句についての先行研究
 4.1.長沼(1998)—定名詞句の内包的用法
 4.2.Corblin(1987, 2001)—弱定名詞句の成立条件
5 属格型定名詞句の唯一性—「椅子の脚につまずく」のか「椅子の脚を赤く塗る」のか
 5.1.関係性からのアプローチ—「飛行機の翼」と「映画」と「ペンギン」の違い
 5.2.本質的関係名詞—「机の角」と「椅子の脚」,「ギターの弦」と「ソナタの楽章」
  5.2.1.属格N2が定名詞句のthe N1 of [+DEF] N2/le N1 de [+DEF] N2の弱解釈
     —椅子のどの脚につまずいたのか
  5.2.2.属格N2が不定名詞句のthe N1 of [−DEF] N2/le N1 de [−DEF] N2の弱解釈
  5.2.3.身体部位を表わす名詞—コード化された行為とコード化されていない行為
 5.3 偶然的関係名詞と非関係名詞—弱解釈の決めては属格名詞の定性にある
6 属格型定名詞句と認知フレーム
 I)主要部N1が本質的関係名詞
 II)N1が偶然的関係名詞または非関係名詞
 序数詞1:千里の道も一歩から—a first step/un premier pas

第4章 いわゆる直示的用法—「意味解釈のフレーム」からのアプローチ—
1 「値踏みの場の理論」とその妥当性—先行研究の検討
 1.1.本当に直接に指示しているのか?—問題提起
 1.2.Kaplan(1977)による「値踏みの場」
 1.3.Kleiber(1987)による「値踏みの場」の理論
 1.4.Kleiber(1987)に対するDe Mulder(1990)の批判
 1.5.東郷(2001b)
 1.6.本書の立場
2 値踏みの場に代わる「意味解釈のフレーム」
 2.1.意味解釈のフレーム
 2.2.認知フレームが想定される場合
 2.3.認知フレームが想定しにくい場合
 2.4.二種類の現象文と意味解釈のフレーム
 2.5.知覚動詞の特殊性
 2.6.行動要請のモダリティ
3 まとめ—意味解釈のフレームと定名詞句の間接指示性
 序数詞2:「最後の一服」はthe last cigaretteかa last cigaretteか

第5章 照応的用法—カメラワーク・メタファーと意味解釈のフレーム—
1 問題提起—矛盾する先行研究の主張
 1.1.さまざまな照応—忠実照応と非忠実照応
 1.2.即時反復のパラドクス — 定名詞句le Nで受けなおすか,指示形容詞句ce Nで受けなおすか
 1.3.Corblin(1983)—対比という条件
 1.4.春木(1986)—指示対象の確立という条件
 1.5.Kleiber(1986a)—「値踏みの場」を介した照応
 1.6.井元(1989)—指示対象から注意をそらす
 1.7.問題点—矛盾する先行研究
2 仮説
 2.1.カメラワーク・メタファー
 2.2.意味解釈のフレーム
 2.3.意味解釈のフレームの確立
 2.4.先行研究と意味解釈のフレーム理論
3 検証:忠実照応と非忠実照応
 3.1.意味解釈のフレームの展開と慣性の法則
 3.2.新情報の付加と意味解釈のフレーム
 3.3.話し手の主観・視点を表わす指示形容詞句ce N(=this N)
 3.4.二つの名詞句が並列されている場合(un N1 et un N2/a N1 and a N2)の照応
 3.5.照応的用法の定名詞句と唯一性
4 まとめ
 定冠詞theがないとアメリカthe USAはバラバラになる?

終章 発話の領域・状況と認知が冠詞を決める
1 定名詞句の分析とは,何を明らかにすることなのか(第1章)
2 認知フレームと定名詞句(第2章)
3 属格型定名詞句をどう理解するか(第3章)
4 いわゆる直示的用法の定名詞句をどう理解するか(第4章)
5 照応的用法の定名詞句の使用条件(第5章)
6 さまざまな定名詞句の用法の共通点
7 定名詞句の特定的用法と総称的用法
8 発話者の目を通して描きだされた世界としての冠詞

参考文献
あとがき
索引(人名・事項)


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