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誘導モータのベクトル制御技術

誘導モータのベクトル制御技術

A5判 344ページ 上製
価格:5,280円 (消費税:480円)
ISBN978-4-501-11710-8 C3054
奥付の初版発行年月:2015年04月 / 発売日:2015年04月中旬

内容紹介

誘導モータの駆動制御技術について、基礎事項から最先端の応用事例を解説。応用事例は、センサレスベクトル制御、鉄損失を考慮した諸技術を網羅。本書のみで、体系化された誘導モータ駆動制御技術を理解できるよう構成。

前書きなど

 エネルギーの効率利用が地球規模で求められている。第一の理由は地球温暖化の抑制・防止であり,第二の理由は化石エネルギーの漸減・枯渇である。
 最近,気象報道に関し,「異常気象」という表現が消え,「記録的」,「最大級」,「観測史上」,「経験のない」といった表現が用いられるようになり,併せて,甚大な自然災害が全世界から報道されるようになった。これは,地球温暖化に起因する異常気象が常態化したことを意味する。2014年9月に各国首脳により開催された国連気候変動首脳会合(気候変動サミット)は,地球温暖化の危機が差し迫っていることを示している。
 先進諸国においては,電気エネルギーの約50%が機械エネルギーに変換され利用されている。電気・機械エネルギー変換を担っているのがモータであり,その中核はメンテナンスフリーで高速回転が可能な交流モータである。代表的な交流モータは,誘導モータ(induction motor,IM)と永久磁石同期モータである。国内産業用モータの約70%が誘導モータであり,エネルギーの効率利用には,誘導モータ駆動の効率化が必須である。本認識のもと,2013年には省エネ法が改正され,2015年4月より,「かご形誘導モータのプレミアム効率(IE3)達成」が法的に義務づけられた。誘導モータの高効率を求める法制化は,我国のみならず,欧米も同様である。
 誘導モータは,駆動速度範囲の広いモータとして有望である。米国テスラモーターズ社により2008年に販売開始された衝撃的性能を備えた電気自動車「ロードスター」に利用されているモータは,かご形誘導モータである。可変変速機は利用されず,固定ギア比の減速機で,ゼロ速高トルク発進から200[km/h]超の高速に至る広範囲駆動を実現している。誘導モータ以外の現状交流モータで,このような性能を得ることは難しいように思われる。
 誘導モータは,省レアアース・脱レアアースモータとしても有望である。2011年8月のレアアース高騰は,国際政治的要因が主とはいえ,レアアース依存の永久磁石同期モータのリスクを広く産業界に認識させた。この苦い経験を契機に,レアアースを一切必要としない誘導モータが再評価されている。
 以上のように,誘導モータは高いポテンシャルを秘めたモータである。しかしながら,誘導モータの利用は,ただちに「高効率な電気・機械エネルギー変換機の採用」を意味するものではない。特に,電力変換器(インバータ)を介した可変速駆動では,そうである。真に効率的なエネルギー変換には,これにふさわしい駆動制御技術が必要である。モータは,電気自動車への応用に見られるように,トルク発生機でもある。誘導モータを介して所要の高速トルク応答を得るには,相応の駆動制御技術が不可欠である。誘導モータ駆動制御技術の中核が,「ベクトル制御技術」である。
 誘導モータのベクトル制御技術に関し,駆動制御の原理から最先端までを体系的に解説した書籍は,世界的に非常に少ない。国内では,皆無である。往年の研究者・技術者ならば,国内外の学術論文誌などを通じ,先端技術を入手することはできる。しかし,本分野へ新規参入する学生・技術者は,ベクトル制御技術の原理・基礎の習得にさえ,不要・不合理な困苦と時間とを求められる。
 本書は,このような現状を打破し,かご形誘導モータの先端駆動制御技術を広く万民のものとすべく,執筆されたものである。本書は,以下の特長をもつ。
 (a)本書は,誘導モータの駆動制御技術に関し,原理から最先端までを段階的かつ体系的に解説している。たとえば,原理に関しては,単相電気回路から説明を起こし,最高難度のセンサレスベクトル制御技術,鉄損考慮の諸技術までを体系的に解説している。
 (b)本書は、本書のみで,体系化された誘導モータ駆動制御技術を理解できるように構成されている。本狙いを達成すべく,各章の前段には,適時,予備的な知識・技術を整理している。また,理論式の展開・導入は,紙幅の許す限り丁寧に行っている。なお,「読者は大学電気系学部卒レベルの基礎学力を有する」ことを想定している。
 (c)本書は,平易な理解を目指し,多数の図面を用意している。
 (d)本書は,技術の実践的修得を重視し,先端技術の解説に際しては,設計の実例と詳細な実験的データを与えている。
 (e)本書は,新規参入者による独修を可能とすべく,適所に「Q/A欄」を設け,彼らが抱き易い疑問に回答を与えている。また,専門用語には,技術開発の国際化を考慮し,対応の英訳を与えている。
 (f)本書は,上記(a)~(e)項から賢察されるように,大学院生教育はもとより,往年の専門家のための実践的な「座右の書」としても役立つよう,配慮されている。この一環として,各章ごとに基本文献が整理されている。
 全13章からなる本書を,1セメスター・15週の大学院教育における教科書として利用する場合,教育時間配分の基本は以下のとおりである(1週講義を1とした)。
 第1章「モータと駆動制御の概要」・・・・・・・・・・・・0.5
 第2章「数学モデルの構築と特性解析」・・・・・・・・・・3.0
 第3章「ベクトルシミュレータ」・・・・・・・・・・・・・0.5
 第4章「ベクトル制御系の基本構造と制御器設計」・・・・・1.0
 第5章「センサ利用ベクトル制御Ⅰ(状態オブザーバ形)」・1.0
 第6章「センサ利用ベクトル制御Ⅱ(すべり周波数形)」・・1.0
 第7章「効率駆動と広範囲駆動」・・・・・・・・・・・・・1.0
 第8章「適応機能を備えたベクトル制御」・・・・・・・・・1.0
 第9章「センサレスベクトル制御Ⅰ(状態オブザーバ形)」・1.0
 第10章「センサレスベクトル制御Ⅱ(直接周波数形)」 ・・1.0
 第11章「モータパラメータの同定」 ・・・・・・・・・・・1.0
 第12章「応用例(センサレス電気自動車の開発)」 ・・・・1.0
 第13章「鉄損考慮を要するモータのための諸技術」 ・・・・2.0

 誘導モータの動特性は,交流モータの中で最も複雑・難解である。この点を考慮し,誘導モータ駆動制御装置設計の礎となる第2章の教育には,3週を割り振った。
 著者は,長期構想のもと,「誘導モータの駆動制御技術の体系化」に十数年にわたり奮闘してきた。地球温暖化に立ち向かう技術立国での本格的専門書出版の使命と意義にご理解を示され,長期構想の最終段階に当たる本書出版にご尽力を下さった東京電機大学出版局に対し,衷心より感謝申し上げる。

2014年10月16日 ミッドスカイタワーにて
新中新二


目次

第1章 モータと駆動制御の概要
 1.1 目的
 1.2 誘導モータの概要
 1.3 誘導モータ駆動制御系の概要
 1.4 駆動領域と定格
第2章 数学モデルの構築と特性解析
 2.1 目的
 2.2 数学の準備
 2.3 電気回路の準備
 2.4 誘導モータの動的数学モデル
 2.5 三相信号を用いた5パラメータ動的数学モデル
 2.6 最少パラメータによる動的数学モデルと特性解析
第3章 ベクトルブロック線図とベクトルシミュレータ
 3.1 目的
 3.2 構築の準備
 3.3 ベクトルブロック線図
 3.4 ベクトルシミュレータ
第4章 ベクトル制御系の基本構造と制御器設計
 4.1 目的
 4.2 制御系設計の準備
 4.3 ベクトル制御の原理とベクトル制御系の基本構造
 4.4 固定子電流制御
 4.5 正規化回転子磁束制御とトルク制御
第5章 状態オブザーバ形ベクトル制御
 5.1 目的
 5.2 状態オブザーバの基礎
 5.3 一般座標系上の最小次元D因子磁束状態オブザーバ
 5.4 固定座標系上の推定器を用いたベクトル制御
 5.5 準同期座標系上の推定器を用いたベクトル制御
 5.6 一般座標系上の同一次元D因子磁束状態オブザーバ
第6章 すべり周波数形ベクトル制御
 6.1 目的
 6.2 すべり周波数生成を介した電源周波数の決定
 6.3 ベクトル制御系の設計例と応答例
第7章 効率駆動と広範囲駆動
 7.1 目的
 7.2 非電圧制限下の最小総合銅損駆動
 7.3 電圧制限下の最小総合銅損駆動
第8章 適応ベクトル制御
 8.1 目的
 8.2 適応ベクトル制御系の構造と特徴
 8.3 適応同定系
 8.4 性能評価試験
第9章 状態オブザーバ形センサレスベクトル制御
 9.1 目的
 9.2 一般座標系上の推定器
 9.3 固定座標系上の推定器を用いたセンサレスベクトル制御
 9.4 準同期座標系上の推定器を用いたセンサレスベクトル制御
第10章 直接周波数形ベクトル制御
 10.1 目的
 10.2 直接周波数形回転子磁束推定器
 10.3 周波数ハイブリッド法
 10.4 センサレスベクトル制御系の設計例と応用例
第11章 モータパラメータの同定
 11.1 目的
 11.2 同定の一般原理
 11.3 電圧と電流の直接関係
 11.4 無負荷試験と拘束試験とによる分割同定
 11.5 同時同定
 11.6 回転子の抵抗と速度の同時同定
第12章 センサレス・トランスミッションレス電気自動車
 12.1 目的
 12.2 システムの基本設計
 12.3 駆動制御装置の開発
 12.4 ST-EVの実現
 12.5 フィールド試験
 12.6 公道走行と公開展示
第13章 鉄損考慮を要するIMのための諸技術
 13.1 目的
 13.2 動的数学モデル
 13.3 ベクトルブロック線図とベクトルシミュレータ
 13.4 ベクトル制御系の構造と設計
 13.5 効率駆動と広範囲駆動
 13.6 等価鉄損抵抗の同定
参考文献
索 引


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