大学出版部協会

 

電子ペーパー

デジタルプリンタ技術
電子ペーパー

A5判 212ページ 並製
価格:2,860円 (消費税:260円)
ISBN978-4-501-32640-1 C3055
奥付の初版発行年月:2008年06月 / 発売日:2008年06月下旬

前書きなど

 「ディスプレイで本が読めるか」とうい従来からの疑念が電子ペーパーの概念の原点にある。ディスプレイ技術はテレビ用技術として発達し,テレビ番組を見る道具としては大きな満足感を提供するものとなっているが,テレビから派生してコンピュータ用の表示装置となったものは,文字表示装置としては疲労などの点で多くの不満点を残している。すなわち,「本気で読むなら紙」というのがこれまでの現状である。電子ペーパーは,このような現状を打破し,「本気で読める電子媒体」をめざす概念である。そのような背景もあって,電子ペーパー技術は印刷・プリンタ技術とディスプレイ技術の境界領域に属するものと位置づけられる。デジタルプリンタ技術シリーズの一冊として本書が出版されることも,そのような位置付けに根ざしている。
 当技術シリーズは教科書的な内容をめざしたものであるが,電子ペーパー技術はいまだ揺籃期にあることから,本書は成熟期を迎えた技術分野の教科書とは正確を異にし,発展途上の技術の最前線を記述したものとなっている。また,本書には電子ペーパーがこれからどのような市場でどのように普及する可能性があるかという,技術以外の面での内容をも多く掲載されている。すなわち,本書は成熟・未成熟を問わず,電子ペーパーに関して現時点で考えられるあらゆる技術,応用,展望についての網羅をめざしたものであり,電子ペーパー分野にこれから取り組もうとする方,まさに取り組んでおられる方,技術を利用したい方など,電子ペーパーに関心をもつあらゆる読者の期待に応えられるものであると信じている。
 なお,薄型の表示技術として広くとらえたときの電子ペーパーの概念の全体像のなかには,巻き取り型テレビなどを実現するためのフレキシブルな液晶やELの表示技術もふくまれるとも考えられるが,本書はこのような動画映像の鮮やかな表示を主目的とする技術をあえて本書の守備範囲外と割り切っている。これは,冒頭に述べたように本書がペーパー電子技術による「読める電子媒体」の実現をめざす方向性に傾注した性格をもつことによる。
 本書は理系・文系の枠組みを越えた多くの執筆者の合作になるものであり,多様なテーマに対し多様な視点での内容が盛り込まれている。理工系の専門書としてはやや異質な感をもたれるかもしれないが,本書の目次構成は電子ペーパーがよって立つ分野,および関係者の専門領域の多様さを象徴するともいえる。
 電子書籍の普及を大きな目標にもつ電子ペーパーに関する本が,依然として紙で出版されることは自己矛盾ともとらえられるが,揺籃期にある本技術が,成熟した紙メディアのゆりかごを借りて成長し,やがては紙メディアに頼らない形でその専門書類が出版されるようになることが近未来の夢である。本書がそのような夢の実現に向けての一助となることを願っている。
 2008年5月
 面谷 信


目次

第1章 電子ペーパーの定義・分類と表示方式
 1.1 電子ペーパーとは
 1.2 本書で扱う電子ペーパーの範囲
 1.3 応用分野と表示技術の交差関係
 1.4 電子ペーパーの目標と課題
 1.5 電子ペーパーに用いられる表示技術
第2章 着色物質の移動・回転による反射型ディスプレイ技術
 2.1 電気泳動表示方式
 2.2 粒子移動方式
 2.3 ツイストボール方式
第3章 各種の反射型ディスプレイ技術
 3.1 液晶方式
 3.2 エレクトロクロミック方式
 3.3 MEMS方式
 3.4 エレクトロウェッティング方式
第4章 書き換え表示技術と消色技術
 4.1 サーマルリライタブル方式
 4.2 インク消色方式
第5章 電子ペーパー用駆動回路技術
 5.1 駆動技術の分類
 5.2 各駆動方式における駆動技術
 5.3 駆動回路のフレキシブル化
第6升 電子ペーパーのヒューマンインタフェース
 6.1 検討の背景
 6.2 紙とディスプレイの作業比較実験
 6.3 実験結果のまとめ
第7章 電子ペーパーの用途展開
 7.1 用途概論
 7.2 電子書籍
 7.3 電子新聞
 7.4 オフィス・産業用途
 7.5 広告・掲示用途
 7.6 携帯電話・時計・その他の応用分野
第8章 未来の電子ペーパーに期待すること
 8.1 はじめに—伝えるということ—
 8.2 書籍の手触りを楽しむ
 8.3 今すぐにでもほしい電子ペーパーの機能
 8.4 「ルイカ」という名にこめた思い
 8.5 電子ペーパーのユニバーサルデザイン
第9章 電子ペーパーの展望
 9.1 グーテンベルク技術の恩恵と限界
 9.2 デジタル技術の課題
 9.3 電子ペーパーとユビキタスの関係
 9.4 電子ペーパー技術の展望


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