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森林の消尽と近代空間の形成「満洲」の成立

「満洲」の成立 森林の消尽と近代空間の形成

A5判 586ページ 上製
価格:8,140円 (消費税:740円)
ISBN978-4-8158-0623-1 C3022
奥付の初版発行年月:2009年11月 / 発売日:2009年11月上旬

内容紹介

赤い夕日と凍てつく大地、森を切り裂く鉄道と疾駆する馬車、特産の大豆と独自の紙幣、大商人と移民、廟会とペストなど、生態系から経済・政治・宗教まで、相互のダイナミックな連関を解き明かし、中国本土とは異なる社会システムとその形成過程を初めてトータルに捉えた画期的著作。

前書きなど

「満洲」に暮らしたことのある日本人は必ずと言ってよいほど、そこに沈む夕日の赤さを口にする。その夕日の赤さはしかし、戦後の「満洲」研究では無視されていった。本書に結実した我々の共同研究の動機は、比喩的に言うならば、この夕日の赤さの復元にあった。

この地域には、どのような人々の暮らしがあり、それがどのように生態環境と相互作用しており、それがどのような政治的経済的な社会関係を生み出していたのか。現場に暮らす人々が身体で感じた「満洲」らしさとはどのようなものであったのか。この「感じ」を学的手法をゆるがせにすることなく復元すること、これが我々が目指すものである。

外部から与えられた概念によって現実を歪めて認識するような歴史研究が批判されるようになって久しく、人々の関心は実証的研究に強く傾斜している。しかし個々の事実を如何に丹念に発掘し描写したところで、それは第一歩を踏み出したに過ぎない。歴史の理解に到達するためには想像力の駆使が不可欠である。事実の探究のなかから想像力を作動させる努力を続けるなかで、我々はなんとかおぼろげながらひとつの全体像に到達しえたように思う。本書の目的は、二〇世紀初頭、山海関の北東、アムール川の南、ウスリー川の西、遼河流域を中心とする地理的空間に成立した「満洲」社会の形成過程とその運動特性を、この地域の生態系との関係において明らかにすることにある。ここで「満洲」社会というのは、同時代の日本人が漠然と「満洲」と呼称していたこの地域において、漢人を中心として成立した社会のことを指す。また本書では、特に必要のある場合を除き、満洲の「 」を外す。「満洲国」に関しても同様とする。……

[「はじめに」冒頭より]

著者プロフィール

安冨 歩(ヤストミ アユム)

1963年 大阪府に生まれる
1991年 京都大学大学院経済学研究科修士課程修了
    京都大学助手、ロンドン大学政治経済学校(LSE)滞在研究員、
    名古屋大学助教授、東京大学助教授を経て
現 在 東京大学東洋文化研究所教授、博士(経済学)
著 書 『「満洲国」の金融』(創文社、1997)
    『複雑さを生きる』(岩波書店、2006)
    『生きるための経済学』(NHKブックス、2008)他

深尾 葉子(フカオ ヨウコ)

1963年 大阪府に生まれる
1987年 大阪市立大学大学院前期博士課程東洋史専攻修了
    大阪外国語大学助手・講師・准教授、大阪大学准教授を経て
現 在 大阪大学大学院言語文化研究科教授、博士(経営学)
著訳書 ヴァーツラフ・スミル著『蝕まれた大地―中国の環境問題―』
    (共編訳、行路社、1996)
    『黄土高原の村―音・空間・社会―』(共著、古今書院、2000)
    『黄砂の越境マネジメント―黄土・植林・援助を問いなおす―』
    (大阪大学出版会、2018)他

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに

序 章 バイコフに捧ぐ[深尾葉子]

第I部 密林を切り裂く鉄道

第1章 タイガの喪失[永井リサ]
はじめに
1 清朝における生態保全システムとその崩壊
2 満洲森林調査と森林開発 1895~1930年
3 日本による森林調査・開発
4 ロシアによる森林調査
5 中国による森林調査
6 鴨緑江森林開発の経緯
おわりに

第2章 鉄道・人・集落[兼橋正人・安冨歩]
はじめに
1 鉄道ネットワークの形成過程
2 人口のマクロ構造
3 都市集落分布から見る経済システム
おわりに――交通手段の変遷と地理構造の固着化

第3章 凍土を駆ける馬車[永井リサ・安冨歩]
はじめに
1 満洲の馬車
2 馬車材の生産と流通
3 馬車生産拠点の移動
4 蒙古馬の流通
5 馬車の台数から見た馬車輸送システムの形成
6 考 察

第4章 タルバガンとペストの流行[原山煌]
はじめに
1 タルバガンとはどんな動物か
2 野に満ちるタルバガン
3 毛皮原料としてのタルバガン
4 タルバガンの暗部――ペスト媒介獣として
5 モンゴルにおけるタルバガン狩りの知恵
おわりに――タルバガンの不幸

第II部 すべての道は県城へ

第5章 県城経済
 ――1930年前後における満洲農村市場の特徴――[安冨歩]
はじめに
1 定期市の分布
2 満洲の農村流通機構――スキナー・モデルとの違い
3 県城一極集中の理由
4 考 察

第6章 県流通券[安冨歩]
はじめに
1 満洲事変以前の私帖
2 満洲事変下の県流通券発行
3 考 察
附論 黒田明伸の「支払協同体」論について

第7章 廟に集まる神と人[深尾葉子・安冨歩]
はじめに
1 廟会の期日と市場機能
2 郷村の廟と廟会
3 大石橋迷鎮山の娘娘廟会
4 考 察

第III部 新たな権力構造の創出

第8章 国際商品としての満洲大豆[安冨歩]
はじめに
1 満洲から華中・華南への流れ
2 満洲大豆と日本
3 満洲大豆とヨーロッパ
4 世界の大豆貿易の概観
5 考 察

第9章 営 口
 ――張政権の地方掌握過程――[松重充浩]
はじめに
1 西義順破綻の背景
2 張奉政府による西義順負債整理策の展開
3 西義順破綻処理をめぐる張奉政府側の施策意図
おわりに
附論 張作霖・張学良地方政権史研究における到達点と課題

第10章 奉 天
 ――権力性商人と糧桟――[上田貴子]
はじめに
1 「満洲」物流モデル――南満を例として
2 奉天総商会の歴史
おわりに

第IV部 比較の視点

第11章 山東の小農世界[深尾葉子]
はじめに
1 山東の郷村市場
2 鉄道敷設とその影響
3 葉タバコ栽培の普及と山東市場社会構造
4 産地の分布とその社会経済要因
5 商品作物の分布域の違い

第12章 スキナー定期市論の再検討[安冨歩]
はじめに
1 スキナーの伝統中国の農村市場モデル
2 中心地理論的ファサードの問題点
3 考 察
附論 「農村」という言葉のもたらす認識障害について

第13章 中国農村社会論の再検討[深尾葉子・安冨歩]
はじめに
1 共同体/市場の二項対立
2 共同体と市場の混合理論
3 中国村落論の系譜
4 考察――市場と共同体の混合理論から見た近代「満洲」社会

終 章 森林の消尽と近代空間の形成
 ――樹状組織の出現――[安冨歩]
はじめに
1 人口と市場機構
2 異なった流通機構の成立した理由
3 県城経済機構の政治や文化との相互作用
4 権力性商人
5 営口の掌握
6 タルバガンとペスト
7 生態的多様性の利用と消耗
8 大 豆
おわりに

あとがき
図表一覧
索 引


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