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「裸の大将」の神話を超えて山下清と昭和の美術

山下清と昭和の美術 「裸の大将」の神話を超えて

A5判 536ページ 上製
価格:6,160円 (消費税:560円)
ISBN978-4-8158-0762-7 C3071
奥付の初版発行年月:2014年02月

内容紹介

芸術と福祉の交差点へ――。「特異児童」や「日本のゴッホ」など、次々と綽名=イメージを与えられてきた美術家・山下清。その貼絵が大衆に愛され続ける一方、芸術の世界にも福祉の世界にも落ち着く場所のなかった彼の存在を通して、昭和の美術と福祉と文化の歴史を新たに問い直す。


目次

序 章 「日本のゴッホ」 と 「ホンモノのゴッホ」 のすれ違い

日本で初めてのファン・ゴッホ展と事件になり損なった小さな出来事
もうひとつの 「ゴッホ展」 と一枚の写真
本書の構成
本書の特色と先行研究
美術と福祉の交差点、もしくは、Y字路

第1章 山下清誕生、物語の前史としての大正末期~昭和初期

八幡学園入学までの山下清の略史と彼の障がい
修業時代の式場隆三郎~精神科医 —— 評論家としての地位確立の道のり
『白樺』 と美術館設立運動
大正末期の不良児童問題と特殊教育
大正末期の障がい者アートへの関心

第2章 「特異児童」 清君のデビューをめぐる喧騒 昭和10年代前半

誰が山下清を 「発見」 したのか
山下清の発見と初めての展覧会
いかにして山下清は世に知られていったか —— 展覧会と新聞・雑誌報道の概略
八幡学園における造形活動
『特異児童作品集』 が意味するもの —— 美術と福祉のはざまで
「特異児童」 の展覧会と社会福祉
久保寺保久と特異児童作品展
美術雑誌の反応 —— 特異児童画と児童画教育の問題
『みづゑ』 と美術家たちの座談会 —— 美術への転換は果たされたのか
小林秀雄の批判のインパクトはどこにあったのか
特異児童作品展の余韻 —— 戸川行男の 『特異児童』
昭和10年代の洋画檀と安井曾太郎の位置

第3章 昭和10年代の喧騒の陰で —— 式場隆三郎と 「病的絵画」

二つの疑問
山下清の学園脱走と特異児童作品展の喧騒
式場隆三郎と戸川行男
式場隆三郎と 「狂人の絵」
式場隆三郎とファン・ゴッホ
山下清の放浪と戦時下の社会事業

第4章 「日本のゴッホ」 誕生前史 昭和21~28年
      —— 敗戦直後の福祉と美術と新たな 「ゴッホ・ブーム」

戸川行男と空白の昭和20年代
「特異児童」 と 「日本のゴッホ」 の距離
敗戦直後の 「日本におけるゴッホ」 と式場隆三郎
戦後の文化復興期における日本のファン・ゴッホ
戦後の 「ゴッホ巡礼」
ファン・ゴッホ生誕百年記念展覧会
新たな 「ゴッホ・ブーム」 とその立役者
「ゴッホ・ブーム」 と式場人気の行方

第5章 「日本のゴッホ」 の誕生と迷走 昭和29~30年

山下清はなぜ 「日本のゴッホ」 なのか
「日本のゴッホ」 の有効性と限界
迷走する 「日本のゴッホ」 —— 「山下清君を守る会」 と空白の二年間
『山下清画集』 にみる 「日本のゴッホ」 の迷走と式場の逡巡

第6章 「放浪の特異画家」 への転生と放浪の制度化 昭和31~33年

「日本のゴッホ」 から 「放浪の特異画家」 へ
昭和29年の 「特異な」 放浪
山下清作品展にみる福祉の位置
作品展における 「日本のゴッホ」 から 「放浪の特異画家」 への方針転換
山下清作品展の全国巡回と放浪の制度化
式場隆三郎の転身 —— 式場病院火災と 「癒し」 としての山下清
陶芸制作のはじまり
フェルトペン (マジックインキ) による素描
作陶の旅と放浪の制度化
戦後の民芸復興のなかの山下清
日本への回帰 —— 「日本のゴッホ」 の数奇な転生

第7章 山下清作品展と戦後昭和の美術

「日本のゴッホ」 と戦後十年の 「空白」
諸刃の剣としての天才説 —— 「イディオ・サヴァン」 と児童画の問題
柳宗悦の山下論と戦後の民芸
画壇の画家たちは山下清をどう見たか
高橋義孝の山下論と美術批評の混乱
「1956年度 美術界の問題をめぐって」
美術批評の終焉

第8章 「ホンモノのゴッホ」 は日本に何をもたらしたのか
      —— 昭和33年の 「フィンセント・ファン・ゴッホ展」 をめぐって

フィンセント・ファン・ゴッホ展をめぐる 「感想」
「ゴッホ神話」 と 「日本のゴッホ」 の解体
白樺派のファン・ゴッホ解釈への批判
小林秀雄のファン・ゴッホ観への批判
「式場ゴッホ」 への悲観
「ホンモノのゴッホ」 が奪い去ったもの

第9章 「放浪の特異画家」 から 「裸の大将」 へ

徳川夢声 「問答有用」 対談とその影響
映画 『裸の大将』 をめぐって
虚像と実像の混交
大衆は山下清に何を求めたのか
加速する芸人化
「裸の大将」 への転生 —— なぜ山下清は芸人化したのか
昭和30年代の美術と大衆

第10章 大衆のなかの芸術家

ペン画の変化と第二の制作時代の意味
山下清と昭和のツーリズム
日本の 「大衆的」 風景と 「郷愁」
「日本の風物」 から 「世界の風物」 へ
ヨーロッパ旅行と山下清の成熟
戦後の 「イディオ・サヴァン」 たちと山下清
欧州旅行以後の山下清の仕事と式場隆三郎の戦略
貼絵の洗練と過去の再生産
式場隆三郎の死と静かな晩年
大衆のなかの芸術家
没後の追悼記事と新たな神話化

終 章 平成の山下清

美術館での山下清展
山下清とアウトサイダー・アート


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