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ごっこ遊びと芸術フィクションとは何か

フィクションとは何か ごっこ遊びと芸術 Mimesis as Make-Believe: On the Foundations of the Representational Arts

A5判 514ページ 上製
価格:7,040円 (消費税:640円)
ISBN978-4-8158-0837-2 C3010
奥付の初版発行年月:2016年05月 / 発売日:2016年05月下旬

内容紹介

ホラー映画を観れば恐怖を覚え、小説を読めば主人公に共感する――しかし、そもそも私たちはなぜ虚構にすぎないものに感情を動かされるのか。芸術作品から日常生活まで、虚構世界が私たちを魅了し、想像や行動を促す原理を包括的に解明するフィクション論の金字塔。

前書きなど

私の出発点は、絵画、小説、物語、戯曲、映画、といったものを単純に観察することである。例えばスーラの『グランド・ジャット島の日曜日の午後』や、ディケンズの『二都物語』、ヒッチコックの『北北西に進路を取れ』、イプセンの『ヘッダ・ガーブラー』、モーツァルトの『魔笛』、ミケランジェロの『ダヴィデ像』、エドガー・アラン・ポーの『告げ口心臓』といった作品を、それが人生と文化に対してもっている重要性に十分注意しながらよく見るのである。私たちは、こういう作品が何から作られていてどう作用するのか考えてしまうし、それを不思議に思わないわけにはいかない。こういう作品はどんな目的に役立っているのだろうか。どういう手段で目的を達するのだろうか。また、人々が作品を理解し鑑賞する多様な方法や、個人や集団の歴史の中でこうした作品がどのような位置を占めているのかについても、思いを巡らせる。そして、より専門的見地から接近しても、こういった作品にはさらなる魅力がある。これらは実に不思議な問題を提示するのだ。そしてその問題は、形而上学の理論や言語の理論にとってしばしば破壊的なものとなるのである。

これから探究する範囲は、出発点ほど簡単には決められない。私たちが探究するのはどんなカテゴリーに当てはまる事物なのだろう。私が付けた副題では、「表象芸術(representational arts)」の探究が約束されている。私はこの約束をそれなりに守るつもりでいる。上に例示した作品は、私には表象芸術の典型だと思われる。だが、このカテゴリーがどの方向にどこまで広がっていくのかは確定していないのだ。さらに上の例は、「虚構(fiction)」の作品の中心的な例としても認められてよい。虚構という概念も私たちの探検する領域を確定する上で、ある役割を果たすことになる。「表象芸術」と「虚構」という二つの語句は正しい方向を指してはいるが、漠然と、おおまかに正しいだけなのである。

表象芸術という概念は、その最前線をちょっと調べてみるだけで、非常に問題の多い概念であることが分かる。シドニー・……

[「序章」冒頭より]

著者プロフィール

ケンダル・ウォルトン(ケンダル ウォルトン)

Kendall L. Walton
アメリカ合衆国の哲学者・美学者。1939年生まれ。コーネル大学で博士号を取得。ミシガン大学で教鞭をとり、現在は同大学名誉教授。主著である本書のほかに、Marvelous Images: On Values and the ArtsIn Other Shoes: Music, Metaphor, Empathy, Existenceなどの著作がある。

田村 均(タムラ ヒトシ)

1952年、名古屋市に生まれる。1977年、京都大学文学部卒業。1984年、京都大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。現在、名古屋大学大学院文学研究科教授。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

凡 例

序 章

第I部 表象体

第1章 表象体とごっこ遊び
1 想像の働き
2 想像を促す事物
3 想像活動のオブジェクト
4 自分自身についての想像
5 小道具と虚構的真理
6 小道具を介さない虚構性――夢と白昼夢
7 表象体
8 非写実的な芸術
9 虚構世界
10 ごっこ遊びという魔法

第2章 フィクションとノンフィクション
1 ノンフィクション
2 虚構と現実
3 言語的戦略
4 虚構と断定
5 発語内行為のふりをすることと発語内行為を表象すること
6 発語内行為としての虚構制作?
7 混合体、中間形態、多義性、不確定性
8 伝説と神話
9 真理と実在についての覚書
10 二種類のシンボル?

第3章 表象の対象
1 対象とは何か
2 表象体と一致関係
3 決定する要因
4 表象と指示
5 対象の使い道
6 反射的表象体
7 対象は重要ではない
8 非現実の対象は?

第4章 生成の機構
1 生成の原理
2 直接的生成と間接的生成
3 含意の原理
4 直接的生成の機構
5 愚かな問い
6 いろいろな帰結

第II部 表象体の鑑賞体験

第5章 謎と問題点
1 ヒロインを救い出す
2 虚構を恐れる
3 虚構性とその他の志向的特性

第6章 参加すること
1 子どもたちの遊びへの参加
2 参加する者としての鑑賞者
3 言語的な参加
4 参加に関する制約
5 聴衆への脇台詞
6 見られないものを見ること

第7章 心理的な参加
1 虚構として恐れること
2 心理的に参加する
3 悲劇のパラドックス
4 サスペンスとサプライズ
5 参加することの眼目
6 参加なき鑑賞

第III部 様相と様式

第8章 絵画的描出による表象
1 描出体の定義
2 絵を見ることと物を見ること
3 描出の表現様式
4 写実性
5 様相横断的な描出
6 音楽的な描出
7 視点(描出体における)
8 結論

第9章 言語的表象体
1 言語による描出
2 語り
3 二種類の信頼性
4 言葉にならない語り
5 不在の語り手と消された語り手
6 物語を語る語り手
7 仲立ち
8 語りによる表象体の視点

第IV部 意味論と存在論

第10章 架空の存在者をしりぞける
1 問題
2 虚構世界の内側で虚構世界について語ること
3 通常の言明
4 非公式のごっこ遊び
5 他のさまざまな形
6 論理形式

第11章 存在
1 暴露と不同意
2 存在と非存在についての主張

謝辞
訳者解説

参考文献
図版一覧
索引


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