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結成と模索歴史としての日教組 上

歴史としての日教組 上 結成と模索

A5判 336ページ 上製
価格:4,180円 (消費税:380円)
ISBN978-4-8158-0972-0 C3037
奥付の初版発行年月:2020年02月 / 発売日:2020年02月上旬

内容紹介

過剰な期待と歪んだ批判の狭間で、実像とかけ離れたイメージが作られてきた日教組。膨大な非公開史料や関係者へのインタビューに基づき、学術的にその歴史を徹底検証──。上巻では、戦後の労働運動での立ち位置から、独自の教育理念や「教師の倫理綱領」の作成まで、初期の模索を跡づける。

前書きなど

日本教職員組合(以下、日教組)ぐらい、実像とかけ離れたイメージや言説がおびただしく作られ、巷間に流布しているような組織は珍しいだろう。

一方には、対抗的な教育運動に関心を寄せる教育研究者や活動家が、過大な期待を日教組に寄せ、その結果歪んだ像が作られてきた面がある。日教組の活動の中に体制変革の担い手としての潜勢力や兆候を読み取ろうとし、日教組の実像、特に決議機関(大会や中央委員会)による運動方針の決定などとは無関係に、「日教組の運動のあるべき方向」などが語られてきたりしたわけである。たとえば教育学者は、しばしば原理主義的な議論を、そのまま日教組の運動と結びつけて、「これが必要だ」という論陣を張ってきたから、それが日教組についてのイメージを歪めてきた面があっただろう。

もう一方には、右翼や保守的な勢力による一面的な(あるいは捏造的な)日教組像がある。この保守の側からの日教組批判言説には、おおむね共通して、問題のある二種類のレトリックが採用されている。一つには、日教組の運動方針やその他の公式文書を恣意的に深読みし、文書の中に書かれていないものを読み取って説明してしまうという歪曲である。その典型が、「教師の倫理綱領」(一九五一年草案作成、五二年大会決定)をめぐる右翼の側からの攻撃である。「倫理綱領」の文章の中に書かれていない意味を読み込み、「社会革命の闘士を育成する社会主義政党の私立学校の教育方針」だ、というふうな批判がくり返されてきた。それは妄想に満ちた一方的で過剰な読み込み……

[「はじめに」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

広田 照幸(ヒロタ テルユキ)

1959年生まれ
1988年 東京大学大学院教育学研究科修了
南山大学文学部助教授、東京大学大学院教育学研究科教授などを経て
現 在 日本大学文理学部教授、日本教育学会会長
著 書 『陸軍将校の教育社会史』(世織書房、1997年、サントリー学芸賞)
    『教育言説の歴史社会学』(名古屋大学出版会、2000年)
    『ヒューマニティーズ 教育学』(岩波書店、2009年)
    『教育は何をなすべきか』(岩波書店、2015年)
    『教育改革のやめ方』(岩波書店、2019年)
    『大学論を組み替える』(名古屋大学出版会、2019年)
    『士族の歴史社会学的研究』(共著、名古屋大学出版会、1995年)
    『現代日本の少年院教育』(共編著、名古屋大学出版会、2012年)など

古賀 徹(コガ トオル)

日本大学通信教育部教授

宇内 一文(ウナイ カズフミ)

常葉大学健康プロデュース学部准教授

布村 育子(ヌノムラ イクコ)

埼玉学園大学人間学部准教授

高木 加奈絵(タカギ カナエ)

東京大学大学院教育学研究科博士課程

松嶋 哲哉(マツシマ テツヤ)

日本大学経済学部非常勤講師

長嶺 宏作(ナガミネ コウサク)

帝京科学大学教職センター講師

徳久 恭子(トクヒサ キョウコ)

立命館大学法学部教授

冨士原 雅弘(フジワラ マサヒロ)

日本大学国際関係学部准教授

香川 七海(カガワ ナナミ)

日本大学法学部助教

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに

第I部 結成と模索

序 章 日教組の歴史を検証する
……………広田照幸
1 日教組の歴史をどう見ていくか
2 本巻の視点と構成

第1章 総評結成前の立ち位置の選択
……………広田照幸/古賀徹/宇内一文
はじめに
1 日教組内部の人事・方針決定の様子
2 労働戦線の中における日教組の立ち位置
おわりに

第2章 1949年度中央執行委員の分類
……………布村育子/高木加奈絵/広田照幸
はじめに
1 執行部の交代や分裂を経験しなかった日教組
2 職能団体的志向性の存在
3 1949年度日教組中執の分類のための作業
4 分類をもとにした事例分析の例
おわりに

第3章 労働戦線分裂と政治情勢変化の中で
……………高木加奈絵/古賀徹/宇内一文/松嶋哲哉/長嶺宏作
はじめに
1 国内・国際的な労働戦線の状況と分析の視点
2 労働戦線分裂の情勢分析と路線選択
3 1949年前半の混乱する労働戦線と路線選択
4 1949年後半の労働戦線の決定過程
5 塩原大会の議案の作成
おわりに

第4章 法的地位の変化とその影響
……………德久恭子
はじめに
1 公務員制度改革をめぐる4つの立場
2 公務員制度改革をめぐる政治過程――労働組合から職員団体へ
3 労働組合と職能団体という2つの顔
4 投影される日教組
おわりに

第5章 マッカーサー書簡、政令201号と日教組
……………高木加奈絵
はじめに
1 マ書簡、政令201号発出の背景と労働戦線の状況
2 マ書簡・政令201号への積極的な対応
3 方針の見直し
おわりに

第6章 スローガン「教え子を再び戦場に送るな」の誕生
……………布村育子
はじめに
1 当事者の証言
2 「教え子」フレーズの登場
3 フレーズの活用
4 「教え子」スローガンの誕生――第8回定期大会
おわりに

第7章 「教師の倫理綱領」の作成過程
……………広田照幸/冨士原雅弘/香川七海
はじめに
1 倫理綱領草案の作成
2 草案の修正過程
3 倫理綱領の普及
4 「解説」の作成
おわりに

結論に代えて
……………広田照幸
1 「日教組=共産党支配」像の誤り
2 主流派をどう見るか
3 交渉力を奪われていった中での闘い
4 日教組独自の理念の形成
5 1950年代の日教組を理解するために

初出一覧
参考文献
索引
執筆者一覧

【下巻主要目次】
第II部 混迷と和解
序 章 社会の変化と日教組
第1章 1980年代の労働戦線統再編の中で
第2章 「400日抗争」の過程
第3章 1989年の分裂
第4章 文部省との「歴史的和解」の政治過程
第5章 1990年代の路線転換と21世紀ビジョン委員会
第6章 1995年の運動方針転換への合意形成過程
結論に代えて
あとがき
初出一覧
参考文献
索引
執筆者一覧


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