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異法融合の秩序学法のクレオール序説

北海道大学大学院法学研究科研究選書6
法のクレオール序説 異法融合の秩序学

A5判 318ページ 上製
価格:5,720円 (消費税:520円)
ISBN978-4-8329-6760-1 C3032
奥付の初版発行年月:2012年06月 / 発売日:2012年07月中旬
発行:北海道大学出版会  
発売:北海道大学出版会
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内容紹介

本論集は、文化的背景や制度的構制を異にする法どうしが遭遇し相互に接合しそして変容するという融合過程が古代から現代に至るまで様々な地域で広範に存在していると捉え、その機序を、特に様々な法的アクターとそれらの主体的営為による接合の動態において分析し把握することを目的としている。
<法のクレオール>(the creole of law)とは、異なる法体系・法文化の遭遇と各社会内での法の相互浸透、そしてさらなる法の変成と次なる新たな遭遇という連鎖的な法の形成過程であり、それらの現象をその動態に即して活き活きと捉えようとする視座でもある。それが企図するところは、特にポストコロニアルな文脈に限定されない、より普遍的な法の相互作用たる、法の移植・継受や流入などと呼ばれてきた法の相互浸透の一環としての法の変成の動態である。本書においては、この動態を一般的に広く名指すのに「異法融合」という用語を用いることとし、そこで新たな法が形成されてゆく過程そのものについて<法のクレオール>という視座を発見論的に用いて探求を進める。
本論集は、基礎法学の12人の研究者による、理論的・経験的・歴史的あるいは比較論的な省察により、この異法融合における<法のクレオール>を介した法的な活動主体性の様態、多面的な伝播/拡散の過程における相互連関、そして法変容の価値的志向性に関して示唆を与えることを目的とする。そして、このような研究関心が、今や人間社会の全体に係るグローバリゼーションの大きな動きの中、様々な社会の法が示しつつある動態的展開の把握と理解について、構造的・制度的な観察や比較にとどまらず、より有機的で動的な主体的視座を開拓し、法の展開や変容を新たに捉える方向を示すものである。


著者プロフィール

長谷川 晃(ハセガワ コウ)

1954年 秋田市に生まれる
1977年 東北大学法学部卒業
1982年 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了
現在 北海道大学大学院法学研究科教授

主要著書
・権利・価値・共同体(弘文堂,1991年)
・解釈と法思考(日本評論社,1996年)
・市民的法秩序のゆくえ(編著)(北海道大学出版会,1999年)
・公正の法哲学(信山社,2001年)
・ブリッジブック法哲学(共編著)(信山社,2004年)
・新訂市民社会と法(共著)(放送大学出版振興会,2012年)

尾崎 一郎(オザキ イチロウ)

1966年生まれ
 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了
 北海道大学大学院法学研究科教授

松村 良之(マツムラ ヨシユキ)

1947年生まれ
 東京大学法学部卒業
 北海道大学名誉教授

齋藤 哲志(サイトウ テツシ)

1979年生まれ
 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了
 北海道大学大学院法学研究科准教授

水野 浩二(ミズノ コウジ)

1973年生まれ
 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了
 北海道大学大学院法学研究科准教授

田口 正樹(タグチ マサキ)

1965年生まれ
 東京大学法学部卒業
 北海道大学大学院法学研究科教授

今井 弘道(イマイ ヒロミチ)

1944年生まれ
 京都大学大学院法学研究科博士課程中途退学
 浙江大学光華法学院特聘教授

中村 民雄(ナカムラ タミオ)

1959年生まれ
 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了
 早稲田大学法学学術院教授

会沢 恒(アイザワ ヒサシ)

1971年生まれ
 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程中途退学
 Northwestern University School of Law LL. M. Program修了
 北海道大学大学院法学研究科教授

桑原 朝子(クワハラ アサコ)

1974年生まれ
 東京大学法学部卒業
 北海道大学大学院法学研究科准教授

林田 清明(ハヤシダ セイメイ)

1951年生まれ
 九州大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学
 北海道大学大学院法学研究科教授

鈴木 賢(スズキ ケン)

1960年生まれ
 北海道大学大学院法学研究科博士課程修了
 北海道大学大学院法学研究科教授

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに…長谷川晃  
1. 法のクレオールと法的観念の翻訳…長谷川晃  
Ⅰ はじめに――法のクレオールの視座が照射しようとするもの  
Ⅱ 法のクレオールの概念(1)――クレオール過程とクレオール状況の複合 
Ⅲ 法のクレオールの概念(2)――法のクレオールにおける主体性  
Ⅳ 法のクレオールと法的観念の翻訳  
2. 日本における法文化の変容と法のクレオール…尾崎一郎  
Ⅰ 「文化」対「制度」?  
Ⅱ 文化の概念  
(1) 構築物としての文化  
(2) 行為,制度,イデオロギー(思想)  
(3) 「『法嫌い』の神話」  
Ⅲ 社会秩序の法化と法文化  
(1) 受動的で道具的な法の拡大  
(2) 法と社会のずれ  
Ⅳ 法の普遍性と法文化の変容  
(1) 法の普遍性と社会からの乖離  
(2) 自然と作為  
(3) 法のクレオール(あるいはcultural convergence)の「実行」か,自然の摂理への「回帰」か  
3. 人々は法律用語をいかに概念化するか
――「権利」,「Hak」,「Right」…松村良之  
Ⅰ 問  題  
Ⅱ 「権利」という言葉について  
(1) 日本語とヨーロッパ語  
(2) 「hak」  
Ⅲ 日  本  
(1) データソース  
(2) 質問項目の選択  
(3) 分  析  
(4) 因子の解釈  
Ⅳ インドネシア  
(1) データソース  
(2) 分  析  
(3) 結果と解釈  
Ⅴ 米  国  
(1) 調査概要  
(2) 分  析  
Ⅵ インドネシアおよび米国のデータの特徴  
(1) インドネシアのデータの特徴  
(2) 米国のデータの特徴  
Ⅶ 3カ国データを比較して  
(1) 日本とインドネシア  
(2) 米国のデータから見る  
Ⅷ 終わりに  
4. フランス古法時代の一法格言に関する覚書
――取消・原状回復をめぐって…齋藤哲志  
Ⅰ 放棄条項と取消状  
(1) 放棄条項  
(2) 取消状の生成  
Ⅱ 取消状と原状回復  
(1) ローマ法の「フランス法」化  
(2) 原状回復への類比  
5. 訴訟法書・公証手引書における「職権と当事者」
――12・13世紀「法生活の学問化」の一断面…水野浩二  
Ⅰ 問題の設定  
Ⅱ 「実務的」文献における効用フレーズの叙述  
(1) 学識法レベルでの認識の始まり  
(2) 訴状での記載方  
(3) 効用フレーズの位置づけ  
Ⅲ 効用フレーズ使用の具体相  
(1) 「一の事実(カウサ)から複数の訴権が導かれる」場合  
(2) 訴権の欠缺の代用  
6. 中世後期ドイツの学識法曹と政治・外交活動
…田口正樹  
Ⅰ 20世紀後半におけるローマ法継受研究の展開  
Ⅱ 大学と学識法曹  
(1) ドイツ外の大学でのドイツ人学生の勉学  
(2) ドイツにおける大学の設立と法学教育体制  
(3) 大学後のキャリア  
Ⅲ 政治・外交分野における学識法曹  
(1) 教皇庁との交渉  
(2) ドイツにおける政治の法学化  
7. ヴェーバーの「解釈的理解」と近代・近代法批判
――アーレントとガダマーの間?!…今井弘道  
Ⅰ アーレントの「政治的判断力」と「賢慮」  
Ⅱ 「規定的判断力」・「反省的判断力」と「解釈学的循環」  
Ⅲ ヴェーバーの「政治的判断力」  
Ⅳ ヴェーバーの歴史的意識と政治的展望  
Ⅴ ヴェーバーの「心情倫理」とLegalism  
Ⅵ 法律的判断と政治的判断  
Ⅶ ヴェーバーの「責任倫理」と「客観的可能性」  
Ⅷ ヴェーバーのpragmatischな歴史理解・社会理解  
Ⅸ まとめに代えて  
8. EUのなかのイギリスにおける
憲法の主体的なクレオール…中村民雄  
Ⅰ はじめに  
Ⅱ イギリス憲法におけるEU法の受容  
(1) 国会主権の原則とEU法の優位性――異質な法の遭遇  
(2) 加盟時の立法者の対応と残る問題  
(3) 1970-80年代の裁判官の対応  
(4) 立法者の対応  
(5) 2000年代の私人の反発と裁判官の対応  
(6) 1960-2000年代までの学者の対応  
Ⅲ むすび  
9. 米国憲法訴訟の“外部”へのまなざし…会沢 恒  
Ⅰ はじめに  
Ⅱ 連邦最高裁による実務の展開  
(1) 論争の始まり  
(2) 遡  行  
(3) その後の展開  
Ⅲ 「アメリカ」の自己イメージとトランスナショナルな典拠の参照  
Ⅳ 結  
10. 近世前期の裁判物にみる上方都市の社会構造
――「民事裁判」をめぐって…桑原朝子  
Ⅰ 序  
Ⅱ 日中の裁判関連テクストと「民事裁判」  
Ⅲ 町人のコミュニティーと「民事裁判」  
Ⅳ 近世前期の町をめぐる意識構造  
(1) 『板倉政要』にみる町人のコミュニティー  
(2) 『本朝桜陰比事』にみる町人のコミュニティー  
(3) 連句の座と町人のコミュニティー  
Ⅴ 結  
11. 法のナラティヴと法的推論――志賀直哉『范の犯罪』を素材に
…林田清明  
Ⅰ はじめに  
Ⅱ ナラティヴとしての法  
Ⅲ 法の物語と隠された物語  
(1) 志賀直哉『范の犯罪』  
(2) 法解釈と物語  
Ⅳ 物語を裁く  
Ⅴ おわりに  
12. 中国における個別事例を通じた規範変革運動の展開と
その意義――中国法のあらたな段階…鈴木 賢  
Ⅰ はじめに  
Ⅱ 「影響性訴訟」とは何か?  
Ⅲ 影響性訴訟概観(2005~2009年)  
(1) 訴訟の類型  
(2) 地域的な分布  
(3) 特徴的性格  
(ⅰ)インターネットによる議論空間形成,影響拡散 /(ⅱ)弁護士層の積極的介入 /(ⅲ)各種メディアによる報道 /(ⅳ)市民の熱心な参加・討論 /(ⅴ)法学者の関与,提案,建議 /(ⅵ)社会的影響 
Ⅳ 若干の具体例  
(1) 留置所“かくれんぼ”事件  
(2) 命の値段事件  
(3) 映画「色・戒」一部カット事件 
Ⅴ むすびにかえて  
あとがき…長谷川晃  
索  引  
執筆者紹介  


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