阪大リーブル64
黄砂の越境マネジメント 黄土・植林・援助を問いなおす
価格:2,530円 (消費税:230円)
ISBN978-4-87259-446-1 C1336
奥付の初版発行年月:2018年09月 / 発売日:2018年09月上旬
黄砂は砂漠から飛んでくるという思い込み、植林への思い込みの枠組みをはずす。人の動きと自然現象は予測不可能だが無秩序ではない。人の営みが作り出す景観と、その空間構造にある生活世界の理解なくしては成し得ない「境界を越える」黄土高原の緑化マネジメントを提唱する。
PM2.5とともに、様々な問題を起こす黄砂と発生地に対し、いかに思い込みで黄砂問題を見ていたか、思い込みの枠組みを外されます。思い込みがどこからやってきたのか、どうしたら気づくのか。著者の25年に及ぶ現地調査の成果は様々な失敗と成功に満ちており、本書はラストに向かって開発援助がいかに思い通りに進まないか、なぜ進まないかを論じ、自然現象と人の営みに対し、なすべきことを提案して締めくくられます。
""""……もう一つの重要なことは、環境問題は境界を越えて発生するということだ。常に、空間的な拡散と移動を前提としている。
われわれをとりまく環境は、陸も海も空も明確な境界などなく、すべてが連続した空間である。人間は、地球上の空間を切り分けて境界を作りだし、ルールを設け、自らの生産や消費や採掘や採取といった経済活動を展開する。地球環境で暮らす生物のなかで人間のみが空間を区切ってルールを決め、所有や権利といった形で資源に対してアプローチし、因果関係を限定しようとする。それは自己の「欲求」を満足させるためであり、システムの中で得られる利益を目論んだり、あるいは単に無自覚であったり無知のまま行動を積み重ねる場合もある。
しかし物質や生物は、その境界を越えて移動し、拡散する。環境問題への対処は、常に境界を越えること、自らの知見や領域を越えて他者と協働し、解を見出す、というプロセスを含んでいる。
本書で取り扱う黄砂問題はまさにその「越境する」環境問題の一つの典型である。……""""
目次
第1部 黄砂・黄土・植林をめぐるバイアス
「エコ」は地球にやさしいのか?
第1章 日本の黄砂情報と黄砂をめぐる誤解
1.日本に飛来する黄砂
2.「黄砂」という名称がもたらした誤解
3.発生機序と粒子に関する誤解
4.発生地域に関する誤解
5.軽視できない黄砂発生の人為的要因
6.日本は被害者であるという誤認
第2章 黄砂とは何か、どこから来るのか
1.黄砂粒子の「かたち」
2.黄砂の発生地域
第3章 砂漠緑化の功罪
1.砂漠に木を植えたら緑化できるのか
2.人の経済活動が再生産プロセスを破壊する
3.破壊活動としての植林
4.マニュアル型の植林
5.「最適樹種」という考え
第2部 黄砂の発生する地域における人と自然の関わり
中国内陸部で「緑を回復する」とは?
第4章 里山としての黄土高原
1.人の営みが創りだす景観
2.「禿山に一本の木」が語る歴史・文化・社会
第5章 黄土高原の空間構造がつくるコミュニケーション・パターン
1.侵食谷フラクタルが生み出す生活世界
2.中心地の立地と河谷構造
3.噂の伝わりかたと共有される厚い語り
4.時代の流れにも変わらぬ語りの空間
第6章 黄土高原における「交換」と人間関係の形成プロセス
1.人々の関係を支える交換のネットワーク
2.「相夥」と「雇」
3.農民間の相互作用のモデル
第7章 人間のコミュニケーションが生み出す「緑」
1.朱序弼をはぐくんだ「陝北」という土地柄
2.利益を顧みず働く人を支える「相場感」
3.庿会活動を支える境界なき柔構造
4.「会長」の互酬性と廟の事業展開
5 廟の祭りのマネジメント
第8章 「利益」を顧みない人々の手法
1.朱序弼と庿会植林
2.「境界を越える」緑化マネジメント
第9章 開発援助プロジェクトの予測不可能性
1.意図せざる結果
2.開発援助プロジェクトにおける手法の問題点
3.参加型開発の意義と問題点
4.黄土高原における援助プロジェクトの失敗例
5.当初のもくろみとまったく異なる効果を生み出した事例
第10章 黄土高原で経験した「枠組み外し」の旅
1.住民へ働きかける有効なコミュニケーション手法
2.複雑なプロセスを単純なシステムに置きかえる誤謬
3.黄土高原社会の動的変化を記述する
4.枠組みをはずし境界を越えるマネジメント