『刻された書と石の記憶』

[hanmoto isbn=”978-4-903281-20-9″ type=”osusume”]

 公園、史跡などのそこかしこにある石碑に、あなたはどのくらい注意を払って
いるだろうか? 待ち合わせの目印、毎朝のウォーキングの距離の目標、台座に
腰掛けて弁当を食べる場所……、こんな程度にしか思われていない石碑も多いこ
とだろう。
 いつでもそこにある石のカタマリでしかなかった石碑。そんな石碑が、実は奥
深い面白さを抱えていることを、本書は気づかせてくれる。
 石碑を見るときの着目ポイントは、碑の形式、そこに書かれた碑文の書と内容、
書を石の面に再現する刻、刻の味を決める石の素材などである。本書では武蔵野
にある3つの異なるタイプの碑を例にとる。それらは国木田独歩、太宰治にもゆか
りがあり、石碑調査は武蔵野文学散歩の趣から始まる。
 しかし、舟雲という号を持つ書家であり、書道・書道史の研究者でもある著者
の石碑探求は単なる文学散歩では終わらない。拓本を採り、碑の形式、揮毫、刻
のルーツを分析する。畳1畳大の採拓をものともせず、石切場まで車を駆る一方で、
拓本の1文字ずつの筆法を分析する。石のカタマリにここまで情熱を注ぐ著者に、
読者は圧倒されるだろう。そして、気がつくと自らも石のカタマリをおもしろい
と思い始めている。本書の豊富な写真、図版もぜひ楽しんでいただきたい。