『芸術と服飾 あやなす景色』

[hanmoto isbn=”978-4-901734-28-8″ type=”osusume”]

 議論の大筋からは一見、取るに足らぬ単調なあらわれのようでいて、ときとし
て服飾描写が陰翳深い相貌をあらわすことがある。作品を読み、そこにすっくと
立ち上がってきた服飾を歴史的、社会的、文化的、美的(感性的)文脈において
とらえてみる。本書で示そうとしたのは、ある時代、ある社会に生きた人びとの
喜びや悲しみ、快楽や苦痛、欲望や虚栄など、さまざまな心情と結びついて細や
かな景色を紡ぐ服飾の、問題の深さや面白さである。
 本書は序と結び、六つの章で構成される。
 序「ユルスナールの靴」はほかでもない須賀敦子氏の著作から、その「きっち
り足に合った靴」に執筆の所為に代え服飾の機微や肌理がたどられる。
 つづく六章では、西洋近世から近代において女性を魅了し、それゆえその描写
にもなんらかの意味が認められた真珠、マフ、扇の三つの装身具ごとにそれぞれ
二章ずつ、三つの切り口からアプローチする。
 その一「寓意の主題」、第一章「光の粒」では、真珠の画家ヨハネス・フェル
メールの作品をきっかけにヴァニタスについて再考し、第二章「真珠ものがたり」
では、貴くも妖しい真珠がいかに時代を越え興味深いテーマであったのか。
 その二「エロスとの対話」、第三章「毛皮のポエジー」ではヴェンツェル・ホ
ラーやトマス・ゲインズバラが描くマフに漂う文化的シナリオを、第四章「ボエ
ームのマフ」では冷たい手を温めるマフにこめられた愛の表現をみる。
 その三「メディアの技法」、第五章「たわむれの行方」では彫版扇の流行と
《娼婦一代記》の模倣が扇絵にもおよぶほど人気画家であったウィリアム・ホガ
ースの扇への知られざる関心、第六章「仮面扇の真相」では異形の扇に《乞食オ
ペラ》にまつわる意外な事実の追跡、などなど。芸術の位相における服飾の様態
や人間のこころに映るさまを観察する。

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