東海大学出版会の企画の選択と現状

三浦 義博

 はじめに

 「どのような企画を選択するのか」という問いを、東海大学出版会が大学の制度との関連でどのような企画編集活動を展開してきたかという視点から以下に紹介したい。

1 東海大学出版会の出版活動小史

 東海大学出版会36年の出版活動は、ほぼ4期に分類することができる。

 1)第1期(助走期)(1962〜1966)
東海大学の建学の精神や大学の取り組みを、出版物を通して社会に還元・普及しようとした時期。
 2)第2期(1967〜1974)
「海洋科学基礎講座」や「東海大学古典叢書」など、発展を遂げる東海大学の制度的側面と連携し、学術的な出版活動を志向した時期。
 3)第3期(1975〜1991)
学術的な出版活動に、教養啓蒙書や図鑑、図説類を付加し、トータルな出版活動を志向した時期。
 4)第4期(1992〜)
大学改革や情報のデジタル化、経済的変動など社会の変化を前に、自己変革を遂げようとしている時期。

2 大学の制度と企画の選択

 東海大学が教育活動の拠点を「湘南キャンパス」に移したのが1963年である。これを機に東海大学は様々な学科の開設と研究機関を設置して今日の総合大学へと発展していく。出版会の創設は1962年であり、東海大学の発展と歩調を合わせるかのように講座、テキストや叢書、シリーズを刊行していった。以下に紹介するのは、上記分類の第2期、大学の制度的側面と連携し、学術的な出版企画を採用していった時期のものである。

 2−1 様々な専門シリーズの企画

 1)「文明研究所シリーズ」(1964年刊行開始)
【企画の背景】1958年の文明研究所の設置を背景に、学科・研究所の知識と成果の公開を目的として「文明研究所シリーズ」が刊行された。
【刊行書目】『西田幾太郎』、『反文明的考察』ほか9点。
[備考]1996年度、東海大学の学科再編に伴い、文学部文明学科とかつての「文明研究所シリーズ」の精神性を継承する新たな「文明学叢書」の刊行を共同で計画中。
 2)「東海大学古典叢書」(1966年第1回監修者会議)
【企画の背景】東海大学文学部を発信地とし、世界の古典を地域・分野を限定せず、原典対訳で日本の学問界に提供する。
【刊行書目】『ウィトルーウィウス建築書』、『歴史10巻』(2巻)ほか10書目・26点。
[備考]「東海大学古典叢書」は現在も刊行中である。東海大学出版会が存続する限り営まれる文化事業として、今後も継承されていく。
 3)「海洋科学基礎講座」(1968年企画編集)
【企画の背景】1962年の海洋学部の開設、1967年の研究科の開設、1968年の海洋研修船の就航など、海洋学部の活発な活動を背景に、全13巻の講座として企画された。
【刊行書目】『海洋物理』『海洋プランクトン』ほか11点。
[備考]東海大学出版会は海洋・地球科学の分野に101点の既刊書と、4つの講座・シリーズを持っている。そのきっかけとなったのが「海洋科学基礎講座」である。

 2−2 企画の選択と大学出版部としての発展
東海大学の制度的な局面から企画の選択を紹介したが、東海大学出版会は1962年の創立以来、東海大学の発展と共に、この様な講座やシリーズ企画を採択することによって多くの著者を獲得し、次なる企画が誕生し、1450点の既刊書を刊行してきた。
この傾向はほぼ30年間続き、1992年に大きな変化に直面する。
最初に現れた変化の一つは教科書売上の大幅な減少である。明らかに大学改革の余波がきたのである。

3 大学改革と少子化の狭間で

 「大学設置基準の改正省令」が公布されたのは1991年であった。いわゆる大学改革である。東海大学では一貫教育の導入、サテライト教育の導入、自己評価制度の導入、完全セメスター制度の導入、学部改編など、次々と改革が進行している。
 大学改革が進行する中、東海大学の発展と共に歩んできた出版会もその在り方・方法論が根本的に問われる時期を迎えている。内省と変革の時期を経て、やがて充実の時へと移行するのであろうが、出版の立場から見れば現在が最も経営的に困難な時期であると同時に将来展望が必要な時期でもある。

4 まとめに代えて

 この困難な状況を乗り越える方策はどこにあるだろうか。この時に東海大学出版会が、大学の制度的な発展とともに企画を採択し、出版活動を展開してきたことを思い返す必要があるだろう。東海大学が発展を遂げた時期とは明らかに様相が異なるが、大学改革を基に東海大学は様々な制度的改革を進めている。新たな状況下でその制度的な変化を取り込みながら、次世代に向けた企画展開が必要とされている時期に、今われわれはいるのであろう。(東海大学出版会編集課長)


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