〈第17回編集者の集い〉
大学出版部の本の装幀について
小池 美樹彦
大学出版部協会編集部会では,毎年,「各大学の編集者相互の親睦を図りながら知見を広める」ことを目的として,「編集者の集い」を催している。今年度は標記のテーマの下に,左記の要項で研究会を行った。
日時 11月12日(木)16時〜19時
場所 東京電機大学11号館大学院会議室
報告者―秋田公士氏(法政大学出版局)
峯田敏幸氏(聖学院大学出版会)
稲 英史氏(東海大学出版会)
まず,編集業務の一環として装丁も手掛けられている秋田氏は,「編集者による装幀の功罪」と題して,(1)なぜ装幀を手掛けるのか,(2)編集者による装幀のレベル,メリットとデメリット,(3)装幀の実例・私の場合,(4)デジタル化による変化,について報告した。とくに,編集者として装幀を手掛ける理由は,一冊の本が出来上がるまで,その全ての行程(工程)に立ち会いたい,でき得れば深く関わりたい,というのが,編集者の正直な気持ちではないか,と説き,せめてどこかでもう少し深く「本づくり」に関わりたい,そういう気持ちを多少とも満たしてくれるのが,氏の場合には「装幀」という作業なのである,と話した。
さらに,氏は,装幀に限らず組版や印刷やレイアウトについても,本造り全体への関心と,何らかのこだわりを捨てないで欲しいと,若手編集者に呼び掛けた。また,編集者による装幀のレベル,メリットとデメリットについては,専門家による装幀のほうがレベルが高いのは当然としつつも,編集者によるものか,プロに依頼したものかではなく,装幀はそれ自体として評価されるべきものと主張した。
また,編集者による装幀のメリットについて,本の内容を理解していること,自社出版物のトータルなイメージがあるために突拍子もないデザインにはならないこと,さらに予算もわかっているで,用紙や製版の費用,印刷の色数などにも配慮した装幀が最初からできること,をあげ,デメリットはこれらのメリットの裏返しであるとした。すなわち,内容を知っているので,それに引きずられる,自社出版物に対する強いイメージのために型を破ることができない,常に予算が頭にあって最善の選択をする前に自ら妥協してしまう,そして,これらはすべて創造的な仕事にとっては致命的である,と強調した。続けて氏は,「編集者は余計なことに手を出さず,本来の仕事に集中すべきだ」という意見があるが,装幀も編集の本来の仕事の一部であり,編集者による装幀に「本来の仕事がおろそかになるというデメリットがあるとは思わない」と力強く語った。
最後に,自身で手掛けられた装幀の実例をホームページから引き出して紹介しながら,色調,書体,文字のデザインなどについて,苦心した点などを披露した。
続いて,峯田氏は,「装幀の実際 Adobe Illustratorを使って」と題して,(1)基本コンセプト(何に気をつけているか),(2)実例,(3)コンピュータによるデザインで何が変わったか,その問題点,(4)今後の課題,などについて,マッキントッシュのデザインソフトを使っての仕事の実際を,コンピュータの画面上で具体的に半ば実演する形で話を進めた。なかでも,同じ色がモニターとカラープリンターと印刷仕上りでは異なる,という実例は印象的であった。問題点と言うよりも,装幀デザインにとっては致命的なことであろう。
峯田氏は,コンピュータのハード・ソフト面での進歩にふりまわされることなく,いかにそれらを活用してゆくかが今後の課題である,と結んだ。
最後に,稲氏は,「学術書の装丁について」と題して,(1)東海大学出版会の装幀の話,(2)制作担当者として,(3)ブックデザインを依頼する,(4)私の本づくりから,(5)寺山浩司氏(早稲田大学出版部)からの質問に答えて,等について,具体的かつ豊富な資料に即して報告した。とくに,装幀については企画段階からの編集者のプランニングが大事である,とし,具体的な数字を示しながら,進行とコスト管理の面から,装幀・造本の実際について話した。
いずれの報告も1時間に及ぶ充実した内容であって,予定した討論の時間が十分とれなかったことが惜しまれたが,唯一人営業担当者として参加された小山美和さん(東京大学出版会)の「流通段階での本の扱われ方や書店での陳列のされ方を意識した装幀を心掛けてほしい」という要望が出されて閉会となった。
(東京大学出版会)
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