〈第3回 日・韓・中大学出版部協会合同セミナー〉講演要旨

大学出版部の社会的役割
― 産能大学出版部の場合 ―

高橋 一夫

 この度、第3回日・韓・中大学出版部協会合同セミナーにおいて、「大学出版部の社会的役割」という視点から韓国・中国の大学出版部協会の皆様にご報告するに当り、アウトラインをここにご報告いたします。
 今回日本の大学出版部の中では異質ともいえる個性のある出版活動を行っているわが産能大学出版部の活動を報告することも、三国の合同セミナーでは何らかの参考になることもあろうかと思い、出版活動の内容を述べてみたいと思います。
 1994年度日韓大学出版部協会合同セミナーで、東京大学出版会の渡辺勲氏は、「大学出版部の役割」を、
1、教育科目ごとにすぐれた教科書を編集し、出版すること。
2、優秀な研究者を発掘し、高度な学術書を編集し出版すること。
3、教育者・研究者としての大学人の社会に向かっての発言を、読みやすく判りやすい啓蒙書として編集し出版すること、と定義されております。
 われわれ産能大学出版部も、大学出版部としての基本姿勢は同様で、この使命を継続的に果たしていくことが大学出版部の社会的役割であると認識し、今現在もその役割をいかにして達成していくか、母体大学の使命と整合性を図りつつ出版事業を推進している次第です。
 産能大学出版部は大学の一部門として、1965年に誕生いたしました。マネジメント専門の教育活動を行う大学の一機関として、産業界のニーズ・動向をいち早く捉えた出版、ビジネス専門書の刊行を目指し、現在までに1500点ほどの刊行点数を持つに至っております。
 出版部発足当時は日本経済も成長期にあり、産業界の人々も経営に関する情報を積極的に取り入れたいと考えていた環境にありました。日本の経営・管理技術の未熟さが指摘され、産業界がこぞってアメリカの経営・管理技術を積極的に導入し、生産性の向上に一丸となっていた時期でもあります。
 そのような産業界の現状を背景に、産能大学の創立者、上野陽一訳によるフレデリック・テーラーの『科学的管理法』を第一作とし、『価値分析ハンドブック』『コストテーブル』などが出版されて、創設時の産能大学出版部は好調なスタートを切りました。
 また当時、産能大学は総合研究テーマ「目標概念」を掲げて研究開発を行いました。企業の全体目標と個々人の目標との関連について研究した「目標がいかにして人々を動機づけ、持てる能力を100%発揮することができるのか」という「目標概念」の考え方は、その当時の産業界にとっては新しい視点として受け入れられ、今日でも日本の産業界の基本的な経営管理理論となっております。
 産能大学出版部はシュレイの『結果のわりつけによる経営』が、私たちの考えているものと全く同じであると判断しこれを翻訳出版し、続いて産能大学関係者によって『目標管理の考え方』『目標管理の進め方』などを刊行し大きな反響を得ました。
 またこれら「目標と動機づけ」の研究を進めるに従い、行動科学的な考え方の導入が欠かせなくなってまいりましたので、さらに独自の研究を進めるとともに適正な書物の探索を行いました。ブレイク、ムートン共著の『マネジリアル・グリッド』がそれで『期待される管理者像』という邦訳タイトルで刊行しました。
 さらに行動科学の分野として、ダグラス・マグレガーの『企業の人間的側面』、ゲラマンの『人間発見の経営』、マズローの『自己実現の経営』など経営管理に関する代表的な著作の翻訳を刊行しました。
 また日本経済が国際競争力を付けると、産業界は内部管理による生産性の向上のみではなく、企業戦略そのものにも取り組むようになり、翻訳書よりも日本企業の独自の経営手法が求められるようになりました。東京芝浦電気の『目標管理実践マニュアル』は目標管理実践面でのマニュアルとして、また東京芝浦電気の社長であった土光敏夫先生の『経営の行動指針』はベストセラーとなって話題を呼びました。
 私たち産能大学出版部の出版活動は産能大学の研究課題とともに展開され、その研究成果の発信部署としての役割を果たすと同時に、独立収益部門としての役割も果たしてまいりました。
 日・韓・中大学出版部協会合同セミナーの主題であります「大学出版部の社会的役割」という視点から産能大学出版部の出版活動を紹介すれば、日本の産業界に対して、経営についての「すぐれた教科書」「高度な学術書」「判りやすい啓蒙書」を継続的にまた一貫して出版してきたことであると思っております。そしてこの出版活動を将来的にも継続していくことができなければ「大学出版部」の役割を果たすことはできないと考えております。
(産能大学出版部)



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