新加盟校の紹介

遅まきながらの大学出版会
―関西学院大学出版会の由来―


山本 栄一


 関西学院では書籍の出版には早くから取り組んでいたが、独自に出版事業を始めようと言う気運はごく最近までなかった。それが近年、急に話し合いが始まり、出版会立ち上げに至ったのには、過去にさかのぼるいささか密やかな経緯がある。通常、出版会は学校法人理事会なり大学当局の肝いりで始まる場合が多いと思われるが、完全に大学教員の自発的発意から出発するという、特異な成り立ちを経験している。
 1959年に生協が設立され、それ以来生協書籍部は書物好きの教職員が集まる場所となっていたが、時間の経過の内に、書籍部の中に出版事業に精通し、また具体的な本作りに関心を抱く職員が育ってきた。書物好きな教員はこうした職員を囲んで、さまざまな書籍談義を自然に始めることになった。当の職員が核となり、著物好き教員のネットワークが形成されていただろうから、教員の関心やら専門についての細かい情報を、その職員が最もよくキャッチできる立場にいたと思われる。学内で書籍部に顔を出す教員は、専任だけではなく、非常勤教員、大学院生といった大学の頭脳が集まっていたことになる。
 そのような環境の中から、学内の書評誌を出す計画が浮上してきた。生協書籍部に集まる教職員、大学院生等を核に、学外者も加えて、準備会がもたれ、先の生協職員が事務局を担当するという布陣である。第1号が1986年に創刊され、題して『みくわんせい』という。ほぼ60頁前後というところで、無料で配布された。この雑誌は10号位までは、書籍部の書棚においても学生達にかなりの数が持ち帰られたが、その後、時代の変化からか、急速にその数が減少した。出版もとぎれがちになり、6年をへて92年、16号をもって休刊した。書評の会に集まった教員には、後に学長を初め学部長、理事などに就任する人々も集い、雑誌の発刊は新聞にも取り上げられた。
 阪神・淡路大震災の95年、神戸三田キャンパスに新学部が開設され、理事会、大学とも、これまでにない若い教員が首脳部に配置された。この年の秋、先の生協職員と教員有志が集まって、大学出版会の幻を語る機会をもった。まだ何もない時であったが、書評誌発刊に集まった人材が埋み火となって、急速に具体化した。早くもその年の11月には「設立趣意書」が作成され、12月5日には第1回設立準備会をもっている。理事会・大学の責任者からの支援の声に支えられて、法人化の可能性を探っていたが、法人化を待たないで、大学からの資金援助を得られるめどもたったことから、組織化の確認、規約の作成がなされた。大学教員組合からも資金援助の申し出を受けた。
 趣意書にある最も特徴ある点は、「出版権を確保した自立性と企画力」と唱われていることで、大学出版会ではあるが、大学の下請け機関ではなく、自立した企画と編集を可能とする「出版権」をもつという高い理想を掲げている。その意味で、最も積極的に多くの回数がもたれたのが、編集長を中心にした編集委員会であった。編集委員会では、企画を立て、執筆依頼をし、原稿の下読み、手直しという、編集者の「目」を通した出版を原則として、印税も支払うという本格的な形をとった。その間、取次店との関係、法人化の形態、生協書籍部との間での組織上、財務上の関係の明確化など、さまざまな具体的問題の検討、処理がなされた。
 具体的話し合いが始まって1年半、1997年4月、出版会会長になる学長を迎え、設立総会が開かれ、評議員、理事が選任され、さらに常任理事、理事長が決められ、編集委員会が発足した。最初の本は、荻野昌弘著『資本主義と他者』(98年5月刊)を初めとして4点を同時刊行した。当初は年間5冊を目指していたが、昨年末の1年半で6冊、合計10冊の出版にこぎ着けた。ほぼ同時に、富士ゼロックスの協力により、博士論文をオンデマンドで出版登録するというサービスを、出版会インターネット・ホームページで展開している。また、この5月には、『K・G・りぶれっと』と題したブックレットを刊行した。
 財務は会計専門の教員が理事として管理しながら、外部の公認会計士を顧問として迎え、指導、監査を受けるという体制も採っている。事務については生協書籍部との委託契約による編集、販売業務の引き受けが現実的であるという判断から、事務局を書籍部に置いている。
 今後の課題と夢は、編集委員会方式の出版理念は貫きたいが、かなりの本を出すためには、専念できる本好きが専任としてあたることがどうしても必要だろう。今のままでは、ある程度以上は限界となる。第二は言うまでもなく、法人化である。現在のところ人格なき法人として過渡的な形を取っているに過ぎないから、いずれこの問題を何とかしなければならない。理事、評議員、編集委員には、設立当初から、広く協力を仰ぐべく、学外者も加わってもらっている。このことは大学出版会が内向きにならないで、常に社会との接点を求めて、大学が「知の可能性」を担う役割を持続するものと期待している。この仕組みが本格的に機能することも、夢の一つである。
『大学時報』五月号より要約して転載
(関西学院大学出版会理事長)



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