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ネット書店とリアル書店の間で
松下恒夫
在庫僅少本をネットで売る試み
三省堂書店のインターネット部門である
「ブックサイト三省堂」(http://www.books-sanseido.co.jp/)では、2000年9月より
ネット上で在庫僅少本フェア
(http://www.books-sanseido.co.jp/promo/daigaku/list_bunya.html)を行っている。一般的に、版元で在庫僅少になった書籍はリストから落ちるため、入手が難しい。しかし今回のフェアでは、それらの在庫を当社の流通センターに用意し、受注後即時出荷を試みたのである。
オンライン書店では「書誌データベース」から検索し、在庫の可能性があれば「買物かご」に入れられるような仕組みが一般的だろう。しかし今回のケースでは「書誌データベース」は利用できないため、システムにあらかじめ用意した「書籍以外商品(ノンブック)」を受注する仕組みを応用する方法をとっている。出版社より出荷されたアイテムを分野別一覧表にし、表につけた「買物かご」ボタンから購入するというものである。
今回のフェアは、アクセスした方にサイト独自の商品を提供する企画でもあり、かなり高い期待がかかっていた。
しかし、当初は目新しさもあって毎日のようにあった受注だが、時間が経つにつれ商品を入れ替えても販売に結びつかなくなる。結局、最終的な出荷冊数に対する売上比率は、東京大学出版会が第1弾と第2弾をあわせて23%、大学出版部協会加盟の版元23社による第1弾は11%、同じく16社による第2弾は5%の販売にとどまった。商品を倉庫の奥から出品した版元、そしてそれを保管し出荷し、またページの作成・管理を行ったわれわれの手間にみあう売上とはならなかったといっていいかもしれない。
ネット書店にヒラバは必要か?
このたびの「在庫僅少本フェア」は、われわれが「ヒラバ」と呼んでいるスペースでの企画だった。「ヒラバ」は百貨店等では、特定のブランドだけではなく、セーターならセーターという括りで、さまざまなサイズやカラーの品揃えをしている構成をいう。百貨店において、ブランド等の違いに必ずしも拘らない「ヒラバ」は本来有力な売場である。
ホームページ上の「ヒラバ」は、何らかのリンクを辿ってホームページを訪ねてきた方が、サイト内に長時間とどまり、その結果できれば1点でも多く商品を購入していただくためにある。ナビゲーションや検索窓以外に商品情報を掲載した場所で、在庫僅少本フェアもその有力な企画の一つだった。
しかし、ネット書店において「ヒラバ」は必ずしも有力な売場ではないような気もする。定期的に訪れる利用者の多くが、「お奨め」がなくとも自分で検索し、そのまま買物手続きを済ませていくのが実態で、「お奨め」は作成する手間ほどには機能していないというのが現実かもしれない。
しかし、検索から先の商品手配において大きな差が出にくいネット書店では、唯一、独自性を出し得るのがヒラバともいえる。定価販売、二大取次寡占の元で「金太郎書店」と揶揄されるリアル書店が、たとえ独自フェアを企画してもあまり売上には結びつかない現状と、どこか姿がダブってみえはしまいか。
専門書はネットで売れるか?
専門書をネット上で販売するにあたって、いくつか考えられる問題点をあげてみよう。
(1)検索の問題
都市部に増えてきたメガ書店では、目当てのコーナーにたどりつくのに苦労させられるケースが多々あるが、品揃えではメガ書店以上ともいえるオンライン書店で、目当ての書籍にたどりつくことはなおさら容易ではない。
オンライン書店の多くはディレクト型やキーワード型の検索機能を備え、目的の書籍に絞り込んだところで買物かごに入れるという流れをたどる。作者やタイトルに含まれるキーワードがわかっていれば検索そのものは苦にならないだろう。だが、何も手がかりがない、思いつかない、あるいは思い描いたキーワードで何もヒットしなかった場合は、あらゆる言葉を片っ端から検索窓に放り込んでいかなければならない。時間のないときなど、これはかなりの苦痛を伴う作業だろう。回線の状況や利用時間帯によっては結果の表示に時間がかかったり、内容によっては検索のためのコツが必要な場合もある。また、誤字・脱字があっても検索結果は大きく変わってくるので、的確な検索には慣れが必要である。
どのようなキーワードならば書籍が出版されているのか、実際にそのキーワードに該当する書籍が全体でどのくらいのボリュームなのか、新しい情報があるのか否か、さらにはトレンドは何か。書店の店頭では書架の間を注意深く歩けば、それら有形無形の情報を入手することができるが、オンライン書店でそれらを入手することは困難だろう。
(2)流通の問題
よく、専門書販売こそオンライン書店向きだといわれる。通常は書店に並ばないタイトルが検索で探し出せるから、だそうだ。しかし、専門書においては、たとえ検索でヒットしても、そのタイトルの入手の困難さはリアル書店と大差がない、というのが実情ではないだろうか。検索結果に在庫の有無や、配達日数の目安が表示されるのはほとんどが一般書であり、検索でヒットしたからといって、それが本当に入手できるかどうかは注文してみなければわからないことも珍しくない。
実際に注文してみても「在庫なし」のメールがくるだけ、というのでは検索した意味がない、とお叱りを受けることもある。他の商材ではネット上に在庫表示を「あと○個」まで表示し、在庫のあるものだけ、あるいは入手可能なものだけを「買物かご」に入れることができる、という当たり前のことが書籍業界ではまだ実現していないのである。
またオンライン書店であっても、手元に在庫がなければ書籍は従来の客注品とほぼ同じ、複雑な流通経路をたどることになる。これでは時間もかかるし、さらにはオンライン書店上ではたいていの場合は、消費者が送料までも負担しなければならない。
コンビニエンスストアや駅の売店など、宅配以外での受け渡しもまだまだ模索段階である。当ブックサイト三省堂では、小田急電鉄の駅売店やJR東日本のコンビニエンスでの書籍受け取りサービスを実施し、手数料を無料として好評を得ていたが、これではたんに送料の持ち出しである。bk1との提携を機に有料化に踏み切ると、それら受け渡しの件数は激減し、なぜ有料にするのか、と多数のお叱りを頂戴した。これは、宅配以外の方法で受け取りができるという利便性よりも、送料が無料であるという面で支持されていただけであり、平均で数千円の商品でなければ送料の割高感が否定できないということだろう。
(3)著作権廻り
あらゆるデータもデジタルな形にしてしまえば、その配布やコピーは媒体の枠から自由になる。しかし、それを野放図にしておけば、著作権を脅かすことになるのはどの分野でも同じだろう。
書籍販売は、媒体である紙のコピーしやすいという特性から、その対策に頭を悩ませてきた。書籍業界は、コピー1枚の単価よりは書籍を買った方が安いというコスト構造により、かろうじて命脈を保ってきたのかもしれない。しかし、デジタル化されたテキストは一瞬にして数千、数万のコピーを生み出す可能性を秘めている。メールマガジンなどはその典型だといえるだろう。「デジタルブック」「電子ブック」など、当時の最先端の技術をもってしても、いまだ解決できていないのが、著作者の権利を保護しつつ「立ち読み」を許す技術ではなかっただろうか。
これからのオンライン書店
毎日の仕事でさえメールがなければ何も始まらない、と考える方々も多い昨今だが、そのような状況になったのはほんのここ数年のことにすぎないのではないだろうか。数年前までメールといえば「パソコン通信」という閉じた世界のそれだったし、オンライン書店で必須の装備である書誌データベースも有料が当たり前だった。
オンライン書店も、ある程度は「使える」購買チャンネルとして定着してきたといえるだろう。しかしその実は、Windows95のリリース前後からの、実に短い期間で、大急ぎで達成されてきたもののように思えてならない。検索データベースの充実、書籍のお奨め機能、支払い方法や配送方法の多様化、セキュリティの問題など、一定の進化をみせたようであっても、「まだまだ使ったこともないよ」という方が大多数ではないだろうか。「そんなものよりも本屋に行った方が早い」とお考えの方も多いだろうと思う。
またリアル書店にできる細かなサービスが、オンライン書店ではシステムやコスト面から欠落している。特定書籍の大量購入や、法人対応、各種書類の発行、定期刊行物の取り扱いなどがそれに当たるだろう。
どのように電子メディアが発達しようとも、圧倒的に優位な面をもつ紙の媒体「書籍」はなくなることはないが、その普及にネットをもっと活用することは可能である。
しかし、手持ちに1円の現金がなくとも入店でき、持ち帰ること以外はすべて許容してきたのがリアル書店ならば、そのフルサービスをネット上で実現するためには、まだまだ時間がかかりそうである。
オンライン書店が発展途上ならば、いまのところ「書店」を上手に使うためにオンライン書店とリアル書店の良いところを合わせて使うのがよいとわれわれは考えている。
2001年11月より稼動している神田本店の「お取り置きリクエストサービス」もその一環で、書籍の検索と在庫確認はネット上でしていただくものの、その購入の可否は店頭でお客様に決めていただくこともできる。在庫の引き当ての精度やタイミング等で、いくつか改善を図るべき点もあるが、ぜひご利用いただきたいサービスである。
(三省堂書店ネット事業部)
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