歩く・見る・聞く――知のネットワーク28

ソウル「国立中央博物館」

古澤 言太



 今回ご紹介するのは、9月にソウルで行われた日・韓・中の大学出版部協会による「第六回合同セミナー」参加の折に訪れた「国立中央博物館」である。この博物館は、ソウルのメインストリートの1つである世宗路の北端に位置し、朝鮮王朝の王宮であった景福宮の敷地内にある。ソウルの主立った観光スポットの1つでもある。
 1908年に韓国皇室博物館として開館した当館は、1915年以降の朝鮮総督府博物館という時期を経て、韓国独立後に国立中央博物館へと改編された。移転を重ねた後、戦後50年を機に撤去が決まった旧朝鮮総督府の建物から現在の建物へ移転した。現在、ソウル市内竜山に大規模な新博物館への移築計画が進行しており、2003年に完成予定である。周囲は、大使館や政府の庁舎なども並ぶ官庁街で、世宗路の大通りも車の流れが絶えることがないが、一歩敷地内に足を踏み入れると、そんな喧騒と隔って広大な公園といった趣。しかしここ景福宮は、かつて十数万坪の広大な敷地に約200棟程あった殿閣のほとんどが1592年の文禄の役における豊臣秀吉の朝鮮出兵によって焼失したという場所である。その後大規模な復元がなされたものの、1910年に日韓併合されると、また数多くの建物が破壊され、王宮のバランスを壊す形で朝鮮総督府が建てられたという経緯もあり、この場所自体も歴史上の重たい遺物である。
 現在の建物は、地上2階、地下1階の3フロアに18の常設展示室と2つの企画展示室が設けられている。常設展示室は、先史時代から統一新羅に至る時代ごとの部屋があり、高麗、朝鮮時代は各時代の特徴的な陶磁器ごとに部屋が分かれている。その他、仏教彫刻室や、金属工芸室、絵画室など分野ごとの部屋が設置されている。所蔵される遺物は、およそ3万点、そのうち常設展示されているのは約5100点である。また、この博物館は、文化財や資料を収集、保存、展示し、これらに関する研究、調査を行うだけでなく、伝統文化の啓蒙、広報、普及をその目的として掲げている。そのため観光客のみならず、多くの学生も訪れるという。実際ここでは子どもからお年寄りに至るまで、様々な年代を対象にした文化講座や、博物館教室を行っている。我々が訪れた際にも、母親に付き添われた小学生らしき女の子が、真剣に展示品をスケッチする姿を目にした。国の機関として伝統文化を継承し、歴史教育によって国民を啓蒙・啓発しようとする姿勢が感じられた。
 この博物館の展示の中で興味を惹かれたのは、三国時代の高句麗・百済・新羅と並んで伽那(加羅)のブースが1室設けられていることである。伽那は6世紀に新羅に併合されるまで統一国家となることはなかったが、多くの小国のゆるやかな連合体として、三国に匹敵するほどの力をもつ国家(連合)だったとされる。国宝の金冠など、華やかな金製品が並ぶ新羅室と比較すると地味な感じはあるが、鉄資源が豊富で製鉄技術が発達していたとされる伽那ならではの、錆びた鉄製甲冑などが並ぶ。長崎県の原の辻遺跡からは、半島南部の多数の土器に加え、金槌などの鉄製品が出土しており、原三国時代の弁韓や、その後の伽那と対馬海峡を挟んで北部九州との交流が行われていたことが伺われる。
 現在、博多港から釜山までは高速船で片道3時間弱。かつて様々な文化が伝播した海峡を渡り、前期伽那の中心となった金官国(現金海市)など、ゆかりの地を訪ね歩いてみたいものである。なかなかそれが叶わない、という方々には、九州大学総合研究博物館のホームページ上にある、インターネットミュージアム・ 「倭人の形成」 (http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/WAJIN/wajin.html)をご覧いただきたい。「渡来人のルーツと渡来ルート」などのテーマについて、古人骨を対象とした人類学・考古学・医学などの分野に渡る考察が学際的になされていておもしろい。ここならば、数十分もあれば一巡することができる。机上で海峡を渡る渡来人のイメージを膨らませてみるのも、また一興である。
(九州大学出版会)

所在地 ソウル市鍾路区世宗路1-57
開館時間 3月〜10月
      午前9時〜午後6時(入場は午後5時まで)
      土・日・祝日 1時間延長
     11月〜2月
      午前9時〜午後5時(入場は午後4時まで)
休館日 1月1日、毎週月曜日
入館料 一般(25歳以上):700ウォン
     7歳以上24歳未満:300ウォン
     6歳以下:無料
     ※毎月第一日曜日入場無料



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