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科学する目 8
一緒に暮らしたい動物
青木淳一
自然保護や生命尊重の教育が徹底したお陰で、「どんな生き物にも命があるのだから、大切にしなくてはいけない」という考えが人々の頭にたたきこまれた。しかし、実際はどうだろうか。メジロはかわいいけれど、カラスは憎たらしい。トンボはいいけれど、ハエはいやだ。こんなふうに、人間にはどうしても動物に対する好き嫌いがあって、その感情は押さえきれない。これは人間にとって有益か有害か、という問題とはまた別の感覚的なことであって、それは人によってさまざまに異なる。
自然界に生息する動植物の種組成を人間の勝手で変えてしまうことは基本的に許されないことではあるが、人間が高密度に住んでいる都市や町の中だけは人間の好みや我がままを通してもらって、好きな動植物だけが存在するような環境を作っても許されるのではないか、と最近考えるようになった。町づくりのプランの中に、人間と一緒に住む動物たちのことを取り込んでもいいのではないか。さて、そうなると、住民たちはどのような動植物が好きなのだろうか。
植物の場合は、街路樹として植えられているイチョウ、スズカケノキ、ケヤキ、公園に多いクスノキ、ムクノキ、カエデのなかま、雑木林を構成するコナラ、クヌギ、エゴノキ、人家の庭に植えられるマツ、ツバキ、クチナシ、キンモクセイなどは、みんな人間の好みにあった種なのだろう。しかし、動物となると、植物のように「植える」わけにはいかず、いろいろな種類が勝手に住みついてくる。なかには喜ばしいものもあれば、嫌な奴もいる。横浜国立大学に勤務しているとき、私の講義を聴いている約150人の学生を対象にアンケート調査を行ってみた。全部で33種の動物を示し、「君たちはこれらの動物と一緒に暮らしたいかどうか? それぞれの動物に「イエス」なら○、「ノー」なら×をつけなさい」という問いかけをした。結果は次のようであった。
○の数の多さで、1位はウグイスの87%、続いてムササビ、タヌキ、ツバメが80%台、キツネ、カメが70%台、チョウ、テントウムシ、フクロウが60%台、タカ、イタチ、カタツムリ、セミが50%台。以後は×の方が多くなるが、カエル46%、ミミズ、トカゲ、クマ、イノシシが30%台、コウモリ、イモリ、ヤモリ、トラ、クモ、ネズミが20%台、ワニ、シマヘビ、イモムシが10%台、マムシ、ガ、スズメバチ、ハエになると10%以下になる。
この結果を見て、好き嫌いの順番はおおむね私が予想したとおりであった。しかし、よく見ているうちに、だんだんと「あれ、おかしいな」と思い始めてきた。たとえば、ウグイスと一緒に暮らしたい人は87%いてトップの順位であるが、なぜこれが100%にならないのか? 引き算すると、13%の学生はウグイスと一緒に暮らすのが嫌なのである。同様に、24%の学生はカメと一緒に暮らすのが嫌で、32%はテントウムシが嫌い、47%はカタツムリが嫌いなのである。こんなに好ましく、愛らしい生き物までが、少なからぬ学生に嫌われているという事実に、私は愕然となった。現代の若者の自然離れが、ここまで生き物に対する「気持ち悪い志向」を増大させてしまったのか。
植物とちがって特定の動物を町の中に定着させることはたいへん難しいが、多くの人々が一緒に住みたいと思う動物が好む環境をうまく創造して配置すれば、今の技術をもってして決して不可能ではないだろう。しかし、これからの人類がそれを望まないのであれば、そんな努力は無駄になってしまう。私の気持ちは、いまちょっと沈んでいる。
(神奈川県立生命の星・地球博物館)
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