AJUPオピニオン
大学出版人
「大学出版部の本性は大学にあるのか出版にあるのか」。現にある大学出版部の多様性を百も承知の上で、敢えてこのように問うてみよう。私の答えは「あらゆる多様性を越えてその本性は出版にあり」である。
出版とは、創造の果実である原稿を、右から左にではなく創造的に編集制作複製し、いくつかのチャネルを通して出来るだけ多くの読者へと、有償でお届けする、一連の商行為である。産業区分で言えば製造業だが一部直販等は小売業に含まれる。
研究教育の主体である大学と大学人が、右に記した一連の行為を自らの営みとして位置づけたときに、あるいは位置づけたいと願ったときに、大学出版部設立の道が開けてくる。この道は、実は二股に分かれている。頭部を大学内に業務の手足を大学外に置く道と両者を一体のものとして捉え大学出版人の養成から始めようとする道とである。歩み出せば共に大学出版部だが、時間と共に両者の軌跡は随分と異なってくる。
出版業は、製造業とは言いながら製造手段をほぼ完全に他業種に委ねている。それゆえに、頭部が大学内にあれば「出版は出来る」と思ってしまうのも、あながち間違いとは言えない。しかし継続的出版の本質的目標は、質の蓄積である。それを担保するのは人間である。大学出版部はそのような人間によって営まれる。それはただの大学人ではありえない、というところが問題なのである。
近年、いくつかのタイプの大学出版部が生まれかつ生まれんとしている。出版部作りにとって最大の問題は「目的」である。そしてその目的を理念的・経済的に支えようとする大学と大学人の意思である。しかし最も肝心なのは、目的を現実へと転化しうる大学出版人の存在である。
渡辺 勲
(東京大学出版会・大学出版部協会幹事長)
HITEはどこへ
「第六回 日・韓・中 大学出版部協会合同セミナー(ソウル開催)」の報告集、SEOUL 2002 TRIANGLE ADVENTUREを、つらつら読み返してみた。2001年の上海セミナーには私も参加しており、そこでは韓国・中国の電子出版に寄せる期待が熱く語られていた。しかし、2002年のセミナーでは、状況が変わってしまったようである。報告集を読むと、両国とも「はじけてしまったバブルには、もう興味がない」とでも言うのか、主眼は価格維持や出版経営に移ってしまったようだ。
実は、この訪韓団と時を同じくして、私もソウルの地を踏んでいた。訪韓団も私がソウルにいることは知っていたが、お互い会わない方が幸せということもあるので、漢江の南側に宿を取った。日本人は3人だったが、韓国の友人と一緒だったので、こちらは「TRIANGLE」ならぬ「BI-ANGLE ADVENTURE」である。
夕食時のこと、私が「まず、メクチュ(ビール)だね。HITE(ビールの銘柄)はないの?」と聞くと、「ああ、あれは廃れたみたいだよ。見掛けはするけど、今はCASSが人気あるね。」
私は1994年にも「日韓セミナー」参加のために訪韓したことがある。そのときもビールの話になり、韓国の方が「韓国ではOBが主流だったけど、最近ではHITEが人気あるよ。若い人はみなHITEね。」
タバコも然りである。「8年前はパルパル(88)が売れていたけど…」と言うと、韓国の友人が「ムカシ売リマス。イマハDUNHILL多イ。」つまりこれも廃れたようである。
韓国・中国の電子出版も一時のブームに終わることのないように願いながら、HITEの泡を懐かしんでいる。
小野朋昭
(東海大学出版会・大学出版部協会編集部会長)
東京国際BF
営業部会では、毎月「新刊速報」を発行している。これは各出版部がその前月に刊行した新刊書籍を網羅したもので、図書館の選書ご担当や書店の仕入ご担当あてに、また、流通関係では書誌データの管理ご担当あてに配布し、お役立ていただいているものである。
このデータを1年分集計し、十進分類別・出版部別にまとめたものが、年度版の「新刊図書目録」である。これにさらに、大学出版部協会加盟二六出版部の最新出版目録を加え、函入りのセットにした「総合図書目録」(通称「合本目録」)が、毎年1月末から2月上旬にかけて作成される。合計重量が2.5キロを優に超える、この堂々たる目録セットは、選書・検索のためにたいへん有用である、との評価をいただいている。この文章が皆様の目に触れる頃には「二〇〇三年 総合図書目録」もできあがり、発送の運びとなっていることだろう。
協会加盟出版部が2002年に刊行した新刊書籍の総数は、797点であった。協会として活発な出版活動ができた、と自負しうる点数ではあるが、70000点といわれる年間の新刊総点数のわずか1%を占めるにすぎない。それとて、「すべてを」「同時に」書店の店頭で見ることは不可能にちかい。
そこで営業部会では、協会設立四〇周年記念事業の一環として、4月に東京ビッグサイトで開催される「東京国際ブックフェア」に例年の2倍のブースを構え、謝恩フェアを行うこととした。新刊書・既刊書を豊富に取り揃えるとともに、特別テーマに沿った展示も計画している。合本目録も、もちろん入手可能です。是非お立ち寄りください。
山口雅己
(東京大学出版会・大学出版部協会営業部会長)
新しい一角
他社の話だが、「月曜社」という出版社が一昨年から本を出しはじめていて、いい仕事を続けている。デュットマン、ブランショの翻訳、森山大道の写真集…。HPにはスピヴァク、カッチャーリなどの近刊予告が並ぶ
(http://biblia.hp.infoseek.co.jp/getsuyosha/)。出版不況にあって、こんなとんがった力が勝負しているのは、本当に嬉しい。
実は、大学出版部の数はここ数年で増加しており、出版業界では最近貴重な成長分野である。
もちろん、一般の出版社が学術書を出版しづらくなっていることが背景にあり、大学出版部はその「受け皿」である。だが、そんな消極的な言い方はしないで、「新興勢力」らしく、とんがった本を作りたいものだ。冒頭の新出版社のような存在は本当に刺激になる。
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前号まで『大学出版』の最後には、「製作の現場から」と「デジタル出版最前線」というコラムが連載されていました。楽しみにして下さった方も多かったと思います。2003年は、日本大学出版部協会が設立四〇周年を迎える年ですが、『大学出版』のこのスペースでは本号から「AJUPオピニオン」と題して、大学出版部協会の活動に携わるスタッフから、毎号交替で、その時々の大学出版・学術出版の話題、協会の活動、各大学の事情から、執筆者の身の回りのあれこれまで、自由なスタイルで執筆してゆきます。読者のみなさんには、「大学出版ってこういう思い・考えをもった人たちが携わっているんだな」と、現場の雰囲気を感じ取っていただければ幸いです。
後藤健介
(東京大学出版会・『大学出版』56号編集)
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