歩く・見る・聞く――知のネットワーク31
渋谷区立松濤美術館
羽鳥和芳
渋谷区立松濤美術館を紹介します。
最近、この美術館の企画展をベースに、1冊本を出しているので(矢島新・山下裕二・辻惟雄『日本美術の発見者たち』)、単なる1ファンを超えたスタンスで紹介することになることを、まずお断りしておきます。
2002年の4月から5月にかけて、上野の東京国立博物館で「雪舟 没後五〇〇年特別展」が華々しく開催されていた同時期に、渋谷の区立松濤美術館では、「雪村展 戦国時代のスーパー・エキセントリック」が開かれていました。
雪舟と雪村。専門家ならともかく、雪村は一般にはほとんど知られていない人物でしょう。2つの展覧会の主催者が、それぞれをどのように紹介しているか、カタログをみてみます。「日本を代表する画家」(主催者=東博・毎日新聞・TBS)雪舟、「戦国時代、一六世紀に現在の茨城県や福島県を中心に水墨画を描いた禅僧」(主催者=松濤美術館)雪村、とこういう次第です。「中国画のスタイルを真似ようとした当時の多くの水墨画家とは違い、内面からわき出る自己のイマジネーションを、大胆に画面にぶつける」画家、雪村の展覧会の意図を、監修者の山下裕二教授(明治学院大学)はこう言っています。「この展覧会は、雪村の「せ」の字もご存じない人たちにこそ、見てもらいたい。ともかく四〇〇年以上前に、こんなに面白い絵を描いて、それがたくさん伝えられているんだから、まずは見てみませんか」(カタログより)。
松濤美術館は、「雪舟展」の向こうを張ったこの「雪村展」にみられるように、1981年の開館以来、個性的な展覧会を次々と行ってきた区立美術館です。松濤の最大の特色は、自前の収集を積極的には行わないで、自主企画を立て、展示は借用によって行うという点でしょう。要するに企画がすべて。学芸員の矢島新氏は、「東京の地方美術館」と位置づけ、個性的な企画展をやってもそれなりに集客が可能なのは、大都市東京に在るからだと解説してくれました。
長引く不況の下、美術館や博物館をとりまく状況のきびしさは容易に想像できます。池袋のデパートにあったセゾン美術館や東武美術館はいつのまにか姿を消し、国立の美術館・博物館は、行政改革の一環で独立行政法人となり、営業努力で入場料収入を上げることが求められるようになりました。京都国立博物館は何と「スター・ウォーズ」展を開催し、東京都現代美術館は「ジブリがいっぱい」展をもってきました。国内最大の古美術、東洋美術のコレクションを持つ東京国立博物館は、開館(1872年)以来初めての常設展示の大改革を始めています。
松濤美術館の入館者をみるとこの10年、年間ほぼ5万人を推移していて一番入った年が64000人。予算削減の中で入館者が減っていない現状は、美術館の底力でしょうか。ちなみに今までで一番入館者の多かった展示は、2000年の「セーヌの岸辺から 村山密」展で23000人、「雪村」展は17000人(東博「雪舟」展は30万人!)。私が一番興奮した「ZENGA 帰ってきた禅画」展は10200人の由。
松濤美術館は、渋谷駅から歩いて約15分。人があふれている谷底のような駅前交差点を抜け出して東急本店前を左に上ると、閑静な住宅街の一角に、ヨーロッパ中世の城の外壁を思わせる石造りの落ち着いた建物が現れます。白井晟一設計の地上2階地下2階の建物。近くには、つい最近まで法の華何とかの変な建築物もありました。渋谷の雑踏がいやなひとは神泉駅からどうぞ。歩いて5分。
今年度の企画のライン・アップを挙げておきます。「木綿の島々 インドネシアの染織」(7.29〜9.7)、「トルコ現代絵画展及び合同手工芸品展」(9.23〜10.5)、「合田佐和子 影像」(10.14〜11.24)、「谷中安規」(12.9〜2.1)。谷中って誰だろう。内田百■(門+月)に愛された版画家? 知らない。しぶすぎるような気もしますが、私は見に行きます。
[入館者等の数字は、「松濤美術館二〇年のあゆみ」から引きました。]
(東京大学出版会)
所在地 〒150-0046 東京都渋谷区松濤2-14-14
山手線渋谷駅ハチ公口より徒歩15分
井の頭線神泉駅より徒歩5分。
開館時間 9:00〜17:00(ただし、入館は16時30分まで)
休館日 月曜日(ただし、祝日は除く)、国民の祝日の翌日、年末年始(12月29日〜1月3日)、陳列替え期間中(要電話確認)。
入館料 一般300円(特別料金の場合もあり)
電 話 03-3465-9421 FAX 03-3460-6366
URL
http://www.city.shibuya.tokyo.jp/ku/est/guide/museum/museum.html
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