歩く・見る・聞く――知のネットワーク32
北海道大学附属図書館 北方資料室
成田和男
北海道大学の前身である札幌農学校が開校したのは、1876(明治9)年8月14日である。後に東大農学部になる駒場農学校開校の1年前のことで、日本の農業専門学校の先駆けであった。第1期入学生は24名であった。
講堂には「書籍室」があり、蔵書数は洋書1787冊、和書4362冊の合計6149冊であった。そしてこの年の12月に「書籍庫」が新築されている。木造柾葺きの二階建てで、延べ99平方メートルほどであった。これが北海道大学における独立した建物としての図書館の源流である。本の貸出しは毎日午後1時から2時まで行なわれていた。閲覧室はこの「書籍庫」にはなく、別の場所に「読書房」が設けられていた。「読書房」は毎日午前8時から日没まで開いていた。
蔵書に英書が多かったのは、本科の講義が英語で行なわれていたことに拠ると思われる。農学関連書の蔵書が多いのは当たり前だが、『ローマ帝国興亡史』『バイロン詩集』などの教養書も揃っていた。最初の図書館長は、1891(明治24)〜97年まで「書籍館主任」に就任した新渡戸稲造とされている。
古写真画像データ。札幌農学校創記
25年式典記念(演武場前)。1901年
現在の図書館本館の建物が完成したのは1965(昭和40)年である。4階建て延べ1万2519平方メートルで100万冊収容の積層式書庫をもち、当時としては国内最大の大学図書館であった。そして北方資料室の開設は、2年後の1966年である。北方事物に関するあらゆる資料の収集整理を目的として1939年に設置された「北方文化研究室」に始まる文学部附属北方文化研究施設の所蔵資料を引き継いで開設された。
北方資料室は本館4階にあり、独立した閲覧室・書庫など床面積550平方メートルを有している。北海道全域はもちろんのこと、樺太、千島列島、アリューシャン列島、ロシア極東地域、シベリア、アラスカ、北氷洋など北太平洋・ユーラシア北部の全域におよぶ文献が網羅的に蒐集され管理されている。このように北方地域についてのあらゆる分野にわたる文献を集めているところはわが国では他にはなく、北方研究の拠点にふさわしい蔵書群を形づくっている。
蔵書の一部を紹介しよう。まず写本・古文書類としては、江戸時代の蝦夷地関係旧記(写本・木版本)と、明治期の稿本・写本資料がある。松浦武四郎などの個人資料も集められている。また江戸時代から明治初年にかけて北海道経済に大きな影響力をもっていた伊達・田村家などの場所請負人諸旧家の文書も薄冊8500冊、1枚物3700点がある。明治初年に御雇外国人などから開拓使宛に送られてきた書簡なども5千通ほどがコレクションされている。
蝦夷島奇観。村上島之允。1800年
和書は北海道に関する本を主に3万冊ほどあり、明治以降の図書が充実している。また北海道史の研究で知られた故高倉新一郎氏の旧蔵書のうち2000冊が収められている。洋書は8500冊ほどでシベリア関係書籍が半数以上である。この中には1797年刊行の『ラペルーズ世界周航記』など18〜19世紀の希覯本も数多い。ロシア・旧ソ連で出されている日本研究の書籍も所蔵している。
地図・図類は5000枚ほどが蒐集されている。開拓使時代の手書き原図を含め、古地図が系統的に集められ、明治以来の地形測量図もほぼ揃っている。また、アイヌ絵や開拓使時代の建造物図面も保管されている。開拓使・北海道庁が撮影した明治期の写真(約5000枚)や乾板(750枚)もあり、日本の写真史を考える上でも貴重なものと高く評価されている。アイヌ語音声資料も、叙事詩・神謡などのレコード(約180枚)・カセット(約220本)が蒐集されている。
こうした資料についてはこれまでに『北海道関係地図・図類目録』『開拓使外国人関係書簡目録』『日本北辺関係旧記目録』『明治大正期の北海道』などに纏められて公刊されている。現在はこうした書誌情報と画像情報を総合的に検索・表示できるデータベース化作業にも力を注いでいる。このデータベースは附属図書館のホームページの「北方資料データベース」として公開されているので、ぜひともご覧いただきたい。
(北海道大学図書刊行会)
所在地 〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目
開室時間 9:00〜17:00
閉室日 土曜・日曜・祝祭日・年末年始
電 話 011-706-2994
FAX 011-746-4595
URL
http://www.lib.hokudai.ac.jp
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