部会だより(国際部会)

 国際交流と翻訳出版

 国際部会は発足段階からの課題である「交流から交易へ」という問題を「三カ国交流の枠組みの中での翻訳出版」に位置付け、夏季研修会において議論した。
 翻訳出版と出版社の権利:著法では「翻訳」を「著作権に含まれる権利」とし(著法第21条〜27条)、第28条において「二次的著作物の利用に関して、原著作者が占有する」としている。著作者が占有する「二次的使用」に関して、出版社は「出版権設定契約」(著法79条〜88条に基づく)という形でかろうじて著作者との係わりを保っているが、二次的利用の形態が多様化している今日、フォローできる範囲には限界がある。
 「独占許諾契約」の必要性:「独占許諾契約」の導入を提唱しているのが日本ユニ著作権センターであるが、「日本出版社著作権協会」が「ユニ型の独占許諾契約」を導入し、書協も新たな出版契約書のヒナ型を用意するなど新しい動きが出始めている。国際部会ではこのような動向を把握しながら出版社の権利を考え、韓・中との翻訳出版の可能性を探って行く。




 関西支部だより

 京都大学附属図書館所蔵 富士川文庫――関西の文庫 1

 人はなぜ本を集めるのか? なかなかに面白いテーマだが、ここでは深入りしないでおこう。とまれ、難しい理屈は抜きに、人は、本を集める。
 今では文化中心の位置をおおかた東京に奪われたが、言うまでもなく、かつて関西は出版のセンターであった。熟練した職人集団、資本力のある書肆(しょし)、著者としてまた水準の高い読者としての教養人。この三つの要素がとりわけ集中した京都では、既に17世紀、1万点近い書籍が発行されている。こうした豊かな伝統と、近代以降も学術研究の一角を担った文化風土を背景に、関西には様々な書籍コレクションが形成された。京都大学附属図書館には、このうちの二〇余が、特殊文庫として所蔵されている。
 五摂家筆頭近衛家伝世の「近衛文庫」、日本仏教各宗の開祖や高僧の撰述類を包容した「蔵経書院文庫」、あるいは、本誌60号で岩倉具忠先生が紹介されている「旭江文庫」も貴重なものであるが、いま私が関心を持っているのは富士川游がかの『日本医学史』(裳華房、1904)を著すために収集した「富士川文庫」である。稀覯書も少なくなくないが、私が触れてみたいのは、人痘による種痘法を初めて日本で成功させた(1790年 ジェンナーの牛痘種痘の6年前にあたる)緒方春朔の種痘書である。富士川が「本邦第一ノ種痘書ナリ」と称えた『種痘必順辨』は有名だが、本文庫にはあまり知られていない春朔の著作『種痘緊轄(しゅとうきんかつ)』『種痘證治録』も収められているという。
 私は、近世日本の科学・技術に関する研究をいつか、シリーズとして出版したいと思っているのだが、そうした意欲を掻き立てるコレクションが身近にあるということは、編集者として幸せなことではないか。当欄では、こうした関西のユニークな文庫を紹介していきたい。
鈴木哲也(京都大学学術出版会)




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