2004年
「日・韓・中大学出版部協会北京調整会議」報告
三浦 義博
日本大学出版部協会派遣団
渡邊 勲(幹事長・東京大学出版会)
三浦義博(国際部会長・東海大学出版会)
三浦邦宏(総務担当幹事・明星大学出版部)
後藤健介(国際部会副部会長・東京大学出版会)
はじめに
「日・韓・中大学出版部協会合同セミナー」は不定期開催となり、新たに「第一回日本・韓国大学出版部協会合同研修会」(仮称)がスタートする。
「第七回三カ国セミナー」はSARS問題に端を発し、日・韓二カ国による三カ国セミナーという変則開催となったが、その後、中国大学出版社協会から「三カ国セミナーの隔年開催」が、韓国大学出版部協会から「日・韓大学出版部協会相互交流調印書」が提案され、国際部会では「三カ国セミナーと日・韓研修会を組み合わせた毎年開催」案が議論されるなど、三カ国間の新たな調整事項も生じていた。このような事態の推移を受けて国際部会と幹事会は日・韓・中代表者による、三カ国セミナーを正常な状態に戻すための「調整会議」を中国・韓国に提案した。正常な状態とは、渡邊幹事長の言葉を借りれば「三カ国の参加者が一堂に会して議論できる状態」である。
9月4日夜に北京入りした代表団は、渡邊幹事長から、
(1)北京調整会議は三カ国セミナーを正常に戻すための会議であること、
(2)中国側の隔年開催提案を確認すること、
(3)隔年開催であれば、日・韓研修会を隔年で開催すること、
(4)「正常化」の理論を持続すること、
などの再確認を受け、三カ国調整会議に備えたが、事態は予期せぬ方向に急展開した。
波乱含みの北京調整会議前夜
5日は「北京国際図書博覧会」視察後に北京大学出版社を訪問した。
北京大学出版社の王明舟社長から、成長を遂げる北京大学出版社の概況説明を受けて懇談が1時間ほど続き、その後、彭松建・元北京大学出版社社長(現中国大学出版社協会副理事長)の待つ、北京大学国際会館内のレストランへと向かったが、席上彭松建副理事長より以下の3点が提案され、事態は急転した。それは、
(1)三カ国代表者による毎年あるいは隔年の定期会合を開催する、
(2)従来のセミナーは不定期開催とする、
(3)今回の三カ国会議は代表者挨拶によるセミナーとする、
と言うものであった。
渡邊幹事長から、北京に来た目的は「三カ国セミナーの運営を話し合うためである」という説明がなされたが、「それはセミナー終了後に代表団で検討する」という回答であり、セミナー開催は予定されていないため何の準備も用意もしていない、と言う日本側の発言に対しては「代表挨拶に各国事情を盛り込めばよい」といった逆提案が示された。
この1年間、国際部会では、03年度セミナーの中国不参加という経緯を真剣に受け止め、重い気分で三カ国セミナーの正常化を模索し、中国側、韓国側と事前調整を重ねてきた。彭副理事長の予期せぬ提案に所期の目的を遂げることなく、さっと乗り換える変わり身の早さは持ち合わせていない。まして提案は、長年積み重ねてきた三カ国セミナーの意味合いを根底から覆しかねないものである。
日・韓大学出版部協会打ち合わせ
翌日の6日は、午前10時から、日・韓代表団による会合が持たれた。先日の中国側提案を伝え「調整会議」における韓国大学出版部協会の対応を依頼するとともに、日・韓相互交流調印書と日・韓研修会が議論された。結果は冒頭に記した如くであるが、三カ国調整会議の予期せぬ事態の急変に対し、徐会長以下、韓国大学出版部協会の対応は感服すべきものであった。
「日・韓・中大学出版部協会調整会議」(抄録)
2004年9月6日(15時〜17時30分)に中央広播電視大学出版社で開催された「日・韓・中大学出版部協会調整会議」の議事録を抄録する。会議は彭松建副理事長による三カ国代表団の紹介と銭輝鏡中央広播電視大学出版社社長の挨拶によって始まり、三カ国代表の挨拶に対する質疑応答という形式を取った。
1 三カ国代表者挨拶
1-1 李家強:中国大学出版社協会理事長挨拶(講演)
「中国大学出版社的快速発展概況」と題する講演がなされ、レポート後段では、(1)日・韓・中の三カ国代表による定期交流、(2)従来型の三カ国セミナーは不定期開催とし、三カ国代表による定期交流(毎年あるいは隔年)において必要と判断されたときに開催されるものとする、という提案が中国大学出版社協会から公式に提案された。
1-2 渡邊勲:日本大学出版部協会幹事長挨拶
続いて日本大学出版部協会渡邊幹事長より、三カ国合同セミナーの継承と更なる発展を求めて北京に来たことが再確認され、日本の大学出版部が直面する課題として、(1)経済性と文化性の兼ね合いの中で、単なる利潤追求が最終目的ではない大学出版固有の役割を認識すること、(2)日本における大学の変化の中で、大学の機能と結びついた大学出版の力を発揮しなければならないこと、(3)書籍と電子媒体の未来を見据えた大学出版部としての対応が求められていること、の3点を挙げ、三カ国大学出版部協会が相互にこのような課題の検討を交流の基礎に据えることを提言した。
1-3 徐鍾錫:韓国大学出版部協会会長挨拶要旨
徐鍾錫会長は、会場へ移動する短時間の内にスピーチ内容を纏めた。困難な状況に冷静に対応され、中国大学出版社協会に対して適切なメッセージを送られた。以下は徐会長の発言要旨である。
(1)03年度三カ国セミナーは二カ国開催となり、04年度も開催できず残念である。(2)大学教育と出版文化のために大学出版部が存在することは大事なことである。韓国においても電子媒体や読書離れなどの問題は日本と同様な現象であり、これらを議論した三カ国セミナーは韓国大学出版部協会にとって大事なことであった。韓国は日本との交流を今後も続けて行く。これに対して中国が加わることを確信している。(3)本日の会議の討論が今後の三カ国発展に意義あるものになることを期待する。
2 自由討論
上記の代表挨拶を受け、質疑応答が開始されたが、韓国大学出版部協会より「韓・中通訳者の不在」に対する抗議がなされた。また後藤副部会長には日・韓の通訳という重責を担って頂くことになった。感謝に絶えない。
質疑応答は、三カ国セミナーに対する中国側提案に集中したが、中国側のスタンスは「三カ国会長交流は毎年開催を希望している。三カ国会長間で合意が成立した時に合同セミナーの開催となる。場合によっては毎年もあり得る」「三カ国代表による会合は効率的であり、三カ国代表で課題を把握することが効果的である。中国大学出版社協会加盟出版社は108出版社である。課題に対する加盟出版社の温度差もあり、選別と均等化が必要であり、日本、韓国とは国情や社会システムには違いがある」といった効率重視のものであった。
3 結論
国営企業としての中国大学出版社は、急激な経済成長の中で熾烈な市場競争を繰り広げ膨大な利益を生んでいる。北京大、清華大などは中国出版市場で5年以内にベスト10入りを目指すと言う。中国大学出版社協会は日・韓とは別のスタンダードを持ち始めているのであろう。
しかし、突然の中国側提案と予定外のセミナー開催に対して、また三カ国セミナーの将来を左右しかねない中国側提案に同調しない日本・韓国両代表団の対応により、会議は気まずい雰囲気の中で、すれ違い現象を露呈したまま時間が経過していった。会議の終了に当たり渡邊勲幹事長より、
- 中国側提案の「日・韓・中の三カ国代表による定期交流と今後の三カ国セミナーの開催方法」については、この会議の場で直ちに合意できるものではなく、帰国後関係者と調整・相談の上、今後も交流を継続することを前提に三カ国間で調整を図ることとしたい、
と日本側の見解を述べ、韓国大学出版部協会の徐鍾錫会長からは、
- 2005年度は日・韓セミナーを韓国において開催すること。開催に当たっては中国大学出版社協会へも開催案内を送るので、中国側の参加を期待する、
という発言があって「北京調整会議」は終了した。
(日本大学出版部協会国際部会長)
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