歩く・見る・聞く――知のネットワーク38
武蔵野美術大学美術資料図書館
平井公子
正門から煉瓦敷の通路をたどり、やや暗い印象のある事務棟一号館を抜け出ると、急に視界がひらけ、中央広場に出る。この広場の正面にあるのが、これから紹介する美術資料図書館である。芦原義信(元名誉教授)の設計によるこの建物は、中央が吹き抜けになっており、伸びやかな空間にパリ・ルーヴル美術館所蔵の作品から型抜きされた大型石膏像はとてもよく似合う。
武蔵野美術大学は、帝国美術学校として1929年、吉祥寺に創立された。
1962年、大学として現在の小平市への移転にともない、図書館とともに美術館・博物館は必要不可欠であると考えられたものの、経済的に独立した施設をつくることがかなわなかった。そこでこれらを一体の施設として運営することになり、両者の機能を併せもつユニークな機関として、美術資料図書館が1967年に誕生した。当初はこうした予算不足からではあったが、図書資料、美術・デザイン資料、民俗資料など、それぞれの属性や取り扱いの異なるさまざまな資料群を相互に関連づけ、資料の横断的な活用を目指す、新しい図書館・博物館のあり方を模索する試みもこの構想には含まれていた。
鉄筋3階建ての建物(後に増築)は、開架式・閉架式の書庫、閲覧室の図書資料部門と、4つの作品庫、彫刻陳列室、企画展のための2つの展示室などをもつ美術資料部門に分かれている。
図書資料部門では、美術・デザイン・建築・映像の主題分野を中心に国内外の展覧会図録を含めた23万冊の図書と、和・洋併せて約4000種の雑誌・逐次刊行物を所蔵し、全てインターネットによる公開検索で利用に供している。また本学の財産であり、顔ともいうべき特別コレクションと貴重書のコレクションがある。
特別コレクション「金原・服部文庫」は、本学創立に貢献した故金原省吾氏と故服部有恒氏の旧蔵書の寄贈によるもので、東洋美術関連資料約1万冊を誇る。
貴重書コレクションの一部としては、欧米の初期挿絵本から現代の絵本まで体系的に集めた約5000冊の絵本、わが国の江戸期の写本奈良絵本を核とした約300点の絵入り本、ウィリアム・モリスによるケルムスコット・プレス刊本、ロシア・アヴァンギャルドのエル・リシツキーの作品を中心とした約300点の近代グラフィックデザイン資料など体系的に収集されている。これらのオリジナル資料は、教育研究の基本資料として位置づけられており、授業のときに学生が直接触って利用できるような機会も提供されている。本学の教育の特色である「本物に触れる」という考え方を十分に反映した資料群である。
美術資料のコレクションは、絵画・彫刻・版画、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、美術工芸品、民芸品、民俗資料の6つの柱がある。各分野の収集範囲を限定することによってコレクションの体系化を図りつつ、年間10回程度の展覧会を企画・開催し、一般にも公開している。
国内外の主要作品が揃う約3万点のポスターコレクション、19世紀後半以降に量産された欧米・日本のいわゆる名作椅子を中心に収集した約300点の近代椅子コレクションは、教育・研究のための基礎資料として学内で利用されるほか、学外の研究者からも注目されるまでに成長している。また、総数326点の陶磁コレクションは、著名な美術館に比べると実にささやかなものだが、収集費といえるほどの予算もないなかで開館当初からの地道な収集活動により、三十数年を経て、ひとつのまとまった分野を形成するに至っている。特異なコレクションとして、柳瀬正夢作品、三林亮太郎作品資料、川崎コレクションがある。
この夏は、「デザインの国際化時代のパイオニア 川上元美・喜多俊之・梅田正徳の椅子デザイン」展(6月9日〜7月16日)、つづいて「日本映画ポスター part 3 ポスター図像学」展(7月25日〜8月27日)が予定されている。
本学にお越しのさいには、初夏の玉川上水道をのんびりと歩いて来られることをぜひともお勧めしたい。
(武蔵野美術大学出版局)
所在地 〒187-8505 東京都小平市小川町1-736
JR国分寺駅より
西武バス・武蔵野美術大学行で20分
西武国分寺線・鷹の台駅より徒歩15分
開館時間 9:00〜20:00(展覧会は通常17:00まで)
閉館日 日曜祝日、年末年始、資料整理休館日ほか
電 話 042-342-6003(美術資料担当)
042-342-6004(図書資料担当)
URL http://www.musabi.ac.jp/library/
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