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韓国出版界の現状
韓淇皓(ハン・キホ)
MBC放送が、今年の8月27日と9月3日に放映した二部作「わが子のための愛の技術」の中で、この35年間、子女教育の指南書として愛読されてきた『父母と子の間柄』(アリス・ギノット他著)が紹介された。その後この本は総合ベストセラー上位にランクされ、9月1ヵ月で4万8000部が売れた。しかし、出版社代表は喜びよりも心配を口にした。売れた本の80%が、寡占体制を形成しているyes24、インターパーク、教保文庫(オフラインを含む)、アラジンなどのインターネット書店の4箇所に集中していたからだ。さらに、このままだと一部のオンライン書店を除いたすべてのオフライン書店がなくなるかもしれないという危機感からでもあった。
「売れる本」のオンライン集中はますます深刻になっている。『2006 韓国出版年鑑』(大韓出版文化協会発行)では、2005年におけるオンライン書店の比率は16.7%という統計が発表されているが、ベストセラーの場合、2006年下半期では少なくとも50%を超えよう。『父母と子の間柄』のように瞬く間にベストセラーにのし上がった本は、オンライン書店での売り上げがほぼ絶対的であるとみることができる。
「出版および印刷振興法」によれば、刊行後1年未満の新刊は、オンライン書店の場合、定価の10%まで割引することができる。しかし、実際には際限のない割引競争が行われていると見てよい。割引以外にも、マイレージ、割引クーポン、「1+1」(1冊買うともう1冊おまけがつく)、景品提供など、あらゆる割引イベントが盛行していて、読者は本を買うという意思表示さえすれば、只に近い価格で入手できるのだ。それどころか、8500ウォンの本に2万ウォンの景品が付くことさえあるから、本を買うだけで利益が生まれる勘定になる。
これほどまでして出版社がベストセラーにこだわるのは、ひとたびベストセラー入りすれば、オンライン書店以外の一般書店でも「着実に」売れることを期待するからだ。ところが読者は、割引のない本にはますます興味を示さない。こうして出版社間の過当競争がいよいよ激しくなっている。さらに一部の出版社は、1000名前後の会員を擁するオンラインサイトに買占めを代行させたりもする。出版社が費用を負担してそのサイトの会員たちに1週間以内に本を買わせるのである。そうすれば、短期間にベセトセラーに名を連ねることができるのだ。
単行本最大の出版団体である韓国出版人会は、この10月19日、こうしたサイトを摘発したと公表したが、この種のサイトは20以上あるというのが出版界の公然たる秘密である。出版社がこうした非良心的な行為にまで及ぶのは、ベストセラーに落伍すると新刊が売れないからだ。それは、あたかも戸籍に名前さえ載らずに消えていくようなものだともいわれる。「こうした所業」以外のどのようなマーケティング活動も通じないと出版社は嘆いている。
2006年は、自己啓発書「天国」であった。自己啓発書分野が上述の「構造」にお誂え向きだったからだ。ベストセラー1位の『マシュマロ物語』(ホアキム・デ・ポサダ著、韓国経済新聞社)は、9ヵ月間で100万部も売れた。刊行当初、この本の購買者全員に本の定価よりも高い日記帳を提供するという方法でベストセラー入りを果たして以来、常時攻撃的な営業で話題になった。翻訳者として、人気アナウンサー、チョン・ジヨンの名前を掲げたが、「影の訳者がいた」という論争が持ち上がり、結局チョン・ジヨン氏は担当中の番組から下りるという事態にまで至った。
要するにベストセラーにするには、本をアイコン化して強力なイメージを発散させねばならないのだ。さもなければ、大部分が「幼児死亡」に終わってしまう。こうした現象の背後では出版界全体の沈滞が進行しているのだ。2000年代初めまでは大変よく売れていた人文科学書は餓死状態に陥っており、急成長した児童書も尻すぼみに陥っている。ジャナーリズムで大々的に紹介された本も初版さえ捌けない例が続出しており、出版の活気などどこを探しても見当たらない。
日本とは違い、韓国の出版社は大・中規模の書店とか取次を通さずに直取引を行う。ほとんどの出版社はオンライン書店とも直取引をする。したがって現在韓国では、出版社―取次―小売書店―読者という流通機構は完全な崩壊状態にある。オンライン書店が登場するまでは、単行本出版社の売上げの比率は、取次6に対し小売は4程度であったが、現在は、取次の比率は10%をかろうじて超える程度である。さらに、小売書店の倒産や廃業も続出している。こうした間隙を縫うように、キョボムンゴ(教保文庫)、ヨンプンムンゴ、リブロ、バンディエンルニスなどの書店チェーンが続々と進出している。
出版社の両極化も加速している。単行本出版社のトップグループの内、シゴンサを除く、ウンジン知識ハウス、ランダムハウス、ミヌムサ、ウィズダムハウスなどは最新のシステムを導入して組織と売上げを伸ばしている。これら出版社の売上げは着実に上昇しているが、中規模出版社のほとんどは下降線をたどっている。こうした中規模出版社は社員を減らして経営を合理化しているが、はじき出された人びとの創業が相つぎ、2005年だけでも新生出版社の登録数が2800余りに及んだ。そうした出版社のほとんどは、1人ですべてを処理する「ワンマン出版社」である。
ワンマン出版が可能になったのは、デジタル技術の発達による制作工程の単純化、外部委託の普及などの理由が挙げられるが、最大の理由は流通の集中である。単行本の場合、3ないし4のオフライン大規模書店チェーン、3ないし4のオンライン書店、1ないし2の取次など、10余りの流通業者が売上げの大部分を占める。このような構造の下では、アイディアに富んだ企画者なら「ワンマン出版」によって短期決戦しやすいので、こうした形態が増えざるをえない。とはいうものの、ほとんどは資金不足で挫折する。この4年間に8200余りの新生出版社が登場したが、2005年に1冊でも新刊書を発行した出版社は2273社にすぎないのだ。
韓国出版界の現在の最大課題は、売上げを増やすことではなく、利益を上げることである。オンライン書店はダイレクトメール、広告、イベント費用、マイレージ等のマーケティング費用を出版社から支給されるので、かろうじて黒字を出し始めた。一方、そうした費用をすべて負担せねばならない出版社は苦境に立たされている。すべての費用を勘案すると、出版社は実質的にはオンライン書店定価の35%以下の金額で本を供給している。
ある日本の小説の翻訳本は20万部売れたが、利益はまったくなかったという。また、あるオンライン書店はマイレージ提供、検索窓広告、イベント費用などで本の代金を一銭も貰えなかったそうだ。
出版界は、こうした構造から脱皮しようと、遅ればせながら自省の声をあげ始めた。
図書定価制を1日も早く実現しなければならないと主張し始めたのである。こうして、大韓出版文化協会、韓国出版人会などの出版団体は、オフライン書店の連合体である韓国書店連合会と連帯して図書定価制の立法化を推進している。彼らは今年の定期国会中に法案が通過することを望んではいるが、実際に通過を期待する人は多くない。出版団体を主導している何人かが外部の圧力に抗し切れずに図書定価制に賛成してはいるものの、実際には定価制貫徹のための行動を何らしていないからだ。ある出版社は「最低価格競争」を催しているホームショッピングで飛躍的な売上げを達成したのだが、多くの出版人や書籍商たちの恨みを買っている。
韓国の電子本産業は深刻な苦境に陥っている。過去数年間、電子本の購買者は公共図書館、企業体、学校などの機関需要者であった。しかしこれらの機関は、今年は電子本の購入をしぶっている。電子本をどれほど購入しても実際に使用する人は多くないからだ。代表的な電子本企業であるブックトピアは最大のポータル企業ネイバと提携して図書検索サービス、ブログマーケティング代行などで収益を上げようとしたが、出版社サイドからは目に余る図書検索に対する公式の抗議がある一方、他の分野もさしたる効果はなく、危機に瀕しているが、これといった見通しもないようである。
(韓国出版マーケティング研究所所長)
(河野 進 訳)
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