明治初期伺・指令裁判体制の一掬
価格:6,600円 (消費税:600円)
ISBN978-4-7664-2294-8 C3032
奥付の初版発行年月:2016年01月 / 発売日:2016年01月下旬
▼明治初期のわが国刑事裁判体制「伺・指令裁判体制」とは?
各府県・各府県裁判所において刑事裁判の実決を担当した者と司法省との間で交わされた伺・指令を基軸としておこなわれた、明治初期のわが国刑事裁判体制。著者はこれを「伺・指令裁判体制」と呼称することとし、今日残された史料の解明を通じて、萌芽期の刑事裁判の実態を、制度的・人的側面から明らかにする。
明治4年に司法省内に置かれた当代随一の法律専門家集団にしてわが国初のシンクタンクともいうべき「明法寮」は、各府県や各府県裁判所から寄せられた法の解釈適用に関する疑問に対して回答を行っていた。このような質問を「伺」、それに応じた回答を「指令」とよび、これらを通して中央政府による統一的な法の運用が図られたといわれている。
当初、司法省に属する府県裁判所のみが指令に依拠した法の運用をすることが許され、地方官の管掌下にある府県の裁判機関は指令を参考にしてはならないとされていたが、明治7年になると一定の事件については、指令に準拠して裁判を行うことが各府県・各府県裁判所を問わずに認められ、いわば先例のような性格が指令に認められた。
大審院の設置をみた明治8年に、それまで実質的に指令を発していた明法寮は廃止されるものの、司法省と大審院を含む各裁判所の間では、伺と指令の往来が継続していたといわれている。伺と指令を用いた司法の運用は、江戸期にもその形態の片鱗を見出すことが可能であるが、西洋を手本とした裁判制度の構築が目指されていた明治初期に、一方でこのような裁判運用の仕組みが存在したことは、わが国の近代法制史、とりわけ司法制度を考察するうえで興味深い。
各府県・各府県裁判所において刑事裁判の実決を担当した者と司法省(実際には明法寮官人)との間で交わされた伺・指令を基軸としておこなわれた、明治初期のわが国刑事裁判体制、これを著者は、「伺・指令裁判体制」と呼称することとし、先学の考察に依拠しつつ、今日残された史料の解明を通じて、この萌芽期の刑事裁判の実態を、制度的・人的側面から明らかにする。
霞 信彦(カスミ ノブヒコ)
略歴:1951年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。慶應義塾大学大学院法学研究科公法学専攻博士課程単位取得退学。法学博士(慶應義塾大学)。
主要著作:『明治初期刑事法の基礎的研究』(慶應義塾大学法学研究会叢書、1990年)、『日本法制史 史料集』(共編、慶應義塾大学出版会、2003 年)、『矩を踰えて 明治法制史断章』(慶應義塾大学出版会、2007年)、峯村光郎(田中実補訂)『改訂・法学(憲法を含む)』(霞信彦ほか改訂、慶應義塾大学通信教育部、2010年)、『法学講義ノート 第5版』(慶應義塾大学出版会、2013年)、『日本法制史Ⅱ― 中世・近世・近代』(共著、慶應義塾大学通信教育部、2012年)、『法学概論』(編著、慶應義塾大学出版会、2015年)他。
目次
はじめに
記
第一章 「司法省日誌」考 ── 第一期刊行分を素材として ──
一、はじめに
二、本 論
三、結 語
第二章 司法省日誌記事をめぐる一試論
一、はしがき
二、司法省日誌明治六年第三号、第五号および第三六号記事をめぐる考
察
三、司法省日誌明治六年第三号をめぐる伺・指令
四、結びにかえて
第三章 問刑条例をめぐる若干の考察
─ 法務図書館所蔵「問刑条例」および「各裁判所伺留」を素材として ─
一、はじめに
二、本 論
三、結 語
第四章 脱籍逃亡自首者の処分をめぐって
一、はじめに
二、本 論
三、結 語
第五章 二つの埼玉裁判所伺をめぐって
一、はじめに
二、本 論
三、結 語
第六章 「司法省日誌」登載指令の援引をめぐる一考察
一、はじめに
二、本 論
三、結 語
第七章 改定律例施行と新旧法の効力をめぐって
一、はじめに
二、本 論
三、結 語
第八章 新治裁判所在勤・司法権少判事三島毅の一側面
一、はじめに
二、本 論
三、結 語
第九章 府県裁判所創設期にみる伺・指令裁判体制の一断面
一、はじめに
二、本 論
三、結 語
第十章 明治初期における刑事裁判について
── 伺・指令裁判体制を中心に ──
一、序 論
二、本 論
三、結 語
第十一章 近代解部考序論
一、はじめに
二、本 論
三、結 語