抵抗の文学 国民革命軍将校阿壠の文学と生涯
価格:6,600円 (消費税:600円)
ISBN978-4-7664-2313-6 C3098
奥付の初版発行年月:2016年03月 / 発売日:2016年03月下旬
▼「南京陥落」を中国人としてはじめて長篇小説に書きあげた幻の作家・阿壠の獄死はなにを意味するか。
中華人民共和国の政治権力闘争のはざまで歴史から抹消され、獄死後の1980年に名誉回復となった文学者・阿壠研究の礎となる記念碑的作品。
中華人民共和国が誕生した一九四九年から数年後、文芸思想家・胡風を中心とする文学者たちが「胡風反革命集団」として一斉に検挙され、中国共産党によって断罪された。そして阿壠は「胡風集団」の「骨幹分子」として、節を曲げることなく獄死した。そこには個人の思想自体が国家に対する犯罪として裁かれ、創作と表現の自由が権力構造のなかで圧殺されていく姿が無残に物語られている。阿壠の人生と文学を詳細に検討することは、単に「胡風反革命集団」の事件が冤罪だったという再評価の問題に留まらず、文学と政治、文学と社会の根源的命題を深く掘り下げることに他ならない。
実地調査、関係者への聴き取り、一次資料の解読を通して結実した著者二〇年来の研究成果の集大成。
関根 謙(セキネ ケン)
1951年福島県生まれ。文化大革命直前の中国大連で中学時代3年間を過ごす。慶應義塾大学大学院修士課程修了。専攻は中国現代文学。現在、慶應義塾大学文学部教授。共著に『近代中国の地域像』(山川出版、2006年)、訳書に、梅志『胡風追想』(東方書店、1991年)、阿壠『南京慟哭』(五月書房、1994年)、格非『時間を渡る鳥たち』(新潮社、1997年)、虹影『飢餓の娘』(集英社、2004年)、陳染『プライベートライフ』(慶應義塾大学出版会、2008年)、李鋭『旧跡』(勉誠出版、2012年)などがある。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
序文 阿壠とその時代
1、中国一九五〇年
2、「阿壠」という文学者
3、本書の構成
第一章 国民革命軍将校陳守梅と文学者阿壠
―― 少年時代と国民革命軍将校への道、長編小説「南京」の誕生
1、父母と青少年時代
2、杭州商人の「学徒」から国民党入党、左派「改組派」への参加
3、中国公学から黄埔軍官学校へ
4、黄埔軍官学校と初めての戦役
5、戦場での負傷と「再生の日」
6、上海最前線撤退から延安到着まで
7、延安にて、抗日軍政大学での日々
8、延安から西安へ、長編小説「南京」執筆の日々
第二章 愛と流浪の歳月
―― 重慶での生活、愛情とその破綻
1、重慶陸軍軍令部少佐としての生活、胡風への思い
2、重慶陸軍大学学員の生活と張瑞との出会い
3、張瑞との恋愛と結婚、その破綻
4、阿壠夫人瑞の自殺をめぐるそのほかの証言
5、抗日戦争終結後内戦時期、重慶における共産党への情報提供
6、重慶・成都における阿壠の文芸活動、重慶脱出の経緯
7、杭州に帰ってからの生活と南京
第三章 冤罪の構図
―― 殉道者阿壠、その死の意味
1、杭州戦役から人民共和国建国、上海から天津へ
2、人民共和国の時代、杭州から天津文壇の指導者へ
3、共産党政権下の文芸活動と「胡風事件」への布石
4、一九五〇年の論争とその終わりのない再現
5、胡風批判の展開と阿壠逮捕までの経緯
6、阿壠逮捕から公判まで、絶筆と獄中の断片
7、阿壠の死、家族の証言
8、阿壠の死の意味 ―― 本章の結びに代えて
第四章 長編小説「南京」とその意義
―― 半世紀を経て甦る戦争文学
1、長編小説「南京」の概要 ―― 中国語版『南京血祭』と日本語版
『南京慟哭』
2、作品『南京血祭』の性格
3、阿壠創作の現実認識と象徴性
4、「南京」の文学的達成 ―― 日本の作品との比較検討
(1) 原民喜との比較
(2) 石川達三との比較
(3) 日本兵の涙について――「慟哭」の意味
(4) 対象化される現実――史実との関連における小説
(5) 火野葦平との比較
5、『抗戦文芸』長編小説公募と「南京」発表までの不可解な経緯
―― 統一戦線政策と創作の自主性をめぐる推論
(1) 阿壠「南京」が示す問題
(2) 戦時首都重慶の新聞・出版界の状況
(3) 郭沫若と胡風
(4) 阿壠の反応
第五章 阿壠の詩論について
―― 抵抗の詩人阿壠
1、阿壠詩論研究の立場
2、阿壠詩論の骨格 ―― 詩と詩人について
3、詩の言語と象徴性
4、詩における必然性としての技巧
5、阿壠のタゴール観
6、阿壠の詩論に見る「政治」 ―― 胡風との差異
7、阿壠文学の特異性 ―― 予言としての詩
後記「阿壠評伝」として
阿壠年譜
参考文献