カール・クラウスと危機のオーストリア ――世紀末・世界大戦・ファシズム
価格:3,960円 (消費税:360円)
ISBN978-4-7664-2331-0 C3022
奥付の初版発行年月:2016年04月 / 発売日:2016年04月下旬
▼オーストリア/ハプスブルク帝国の危機~ナチスの脅威に向き合い、それを乗り越えようとした孤高の言論人、カール・クラウス(1874-1936)の思想と行動を読み解くとともに、「世紀末」「第一次世界大戦」「ファシズム」という三つの時代における、オーストリア/ウィーンの政治思想・文化的状況を浮き彫りにする。
▼第一次大戦時には好戦的なメディアや政治家を、自らの個人評論雑誌『ファッケル』で厳しく批判したクラウス。彼は、戦争やナショナリズムにおいてメディアの果たす役割、戦争の背後にある経済的利害、総力戦であった第一次大戦の従来の戦争との質的差異を、鋭く指摘した。
▼一方で、解体した帝国からオーストリア共和国に再編成されたのち、彼はナチスから独立を守る擁護者としてのオーストリア・ファシズム=ドルフス政権への支持を表明する。彼の真意はどこにあったのか? これまで一見、政治的な解釈が難しいとされてきた彼に、本書はオーストリアの真の独立、「オーストリア理念」を追求する姿勢を見いだす。
▼建築家アドルフ・ロース、精神分析家フロイトや保守思想家ラマシュとの関係なども描かれ、オーストリアの世紀末から第二次大戦前夜までの文化的・思想的状況をも浮き彫りにする、注目の一冊。
高橋 義彦(タカハシ ヨシヒコ)
1983年北海道生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻後期博士課程修了。博士(法学)。慶應義塾大学・専修大学・國學院大学栃木短期大学非常勤講師。
主要著作:「エリック・フェーゲリンのウィーン ―― オーストリア第一共和国とデモクラシーの危機」(『政治思想研究』第12号、2012年)、共訳書にリチャード・タック『戦争と平和の権利 ―― 政治思想と国際秩序:グロティウスからカントまで』(風行社、2015年)、ほか。
目次
序 章 オーストリア思想史とクラウス
一 カール・クラウスとその時代
二 二つの文化対立とクラウス思想の一貫性
三 本書の構成
第1章 世紀転換期ウィーンにおける「装飾」批判とその意味
―― カール・クラウスとアドルフ・ロース
一 はじめに ―― 唯美主義への批判者たち
二 アドルフ・ロースの「装飾」批判
三 カール・クラウスの「装飾」批判
四 おわりに ―― クラウスとロースを隔てるもの
第2章 フリッツ・ヴィッテルスと「二人の精神的父親」
―― カール・クラウスとジークムント・フロイト
一 はじめに ―― セクシュアリティをめぐる共闘者
二 クラウス=フロイト=ヴィッテルス ―― 三者関係の変化
三 おわりに ―― 三者関係の「その後」
第3章 メディア批判とテクノロマン主義批判
―― カール・クラウスと第一次世界大戦
一 はじめに ―― 反戦知識人クラウス
二 二人のクラウス?
三 カール・クラウスの第一次世界大戦批判
四 おわりに ―― 近代の「野蛮さ」としての世界大戦
第4章 「オーストリア的中欧」理念と第一次世界大戦
―― カール・クラウスとハインリヒ・ラマシュ
一 はじめに ―― 保守派の戦争批判
二 カール・クラウスとハインリヒ・ラマシュ
三 クラウスのラマシュ論
四 ハインリヒ・ラマシュとオーストリア保守反戦思想
五 おわりに ―― パトリオティズムと「オーストリア的中欧」
第5章 ナチズムとオーストロ・ファシズム
―― カール・クラウスと二つのファシズム
一 はじめに ―― ドルフス支持表明の衝撃
二 カール・クラウスのナチズム批判
三 カール・クラウスとオーストロ・ファシズム
四 おわりに ―― 早過ぎた死
第6章 言語批判としてのクラウス政治思想
―― エリック・フェーゲリンのカール・クラウス論
一 はじめに ―― 「イデオロギー言語批判」とリアリティの復活
二 フェーゲリンによるクラウス論
三 おわりに ―― フェーゲリンによるクラウス論の妥当性
終 章 限界と可能性 ―― カール・クラウスの現代的意義
あとがき
カール・クラウスとその時代:年表
主要参考文献一覧
索 引
初出一覧・図版出典一覧