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歩く・見る・聞く――知のネットワーク22
東北大学附属図書館とその付近
鴨池 治
東北大学川内キャンパスの丁度真ん中に、附属図書館の本館がある。二階建てのコンクリート打ち放しの建物である。昭和48年に建てられたが、この辺りは地下水が流れていて、建築途中で建物が浮いてしまい、工事をやり直したと聞いている。以前はマムシを見ることができたが、最近はいなくなってしまった。図書館の右手には昔からの雑木林が残っているが、自然が次第に少なくなっているのは寂しい気がする。
図書館正門の真正面には、阿部次郎の「三太郎の日記」に因んで、三太郎の小径という遊歩道(哲学の道)が作られており、その前には民法の中川善之助教授を偲んで椿を中心とした中善並木が植えられている。この辺りは、大学の記念講堂があり、その前に公園があって、市民が犬を散歩させていたり、応援団や運動部の連中が練習をしていたりする。川内キャンパスは、市民に開かれた大学を目指して、キャンパスを囲う塀や門を作らなかった。最近、旧教養部のあった北キャンパスには塀と門ができたが、図書館や文系学部のある南キャンパスには塀や門がない。大学は、回りの公園を大学のものと思い、市民は市のものと思っている。(正確にはちゃんとした区分があるらしいが。)
さて、東北大学図書館には数多くのコレクションがある。夏目漱石のコレクション(漱石文庫)や中国史記の原本など貴重な文献が沢山あり、時折一般に公開され大変好評である。漱石が細かく出納を記録したノートも大事に保管されている。インターネットでも岡本一平が書いた漱石と猫の絵画や他の貴重な資料の写真を見ることができる。
図書館に入ると、広いエントランスホールに、常時催し物の展示がなされている。もちろん学外者も図書館を利用することができるので、いつでも催し物を見ることができる。その脇に、東北大学出版会の出版物が大きなガラスケースの中に展示されている。ケースばかり大きく、まだまだ出版会の出版物が少ない感じが否めないが、その内に一杯になり出版会の存在を皆に知ってもらう日を楽しみにしている。
多くのコレクションの中で、特殊文庫と名付けられた個人の蔵書を一括して保管しているものが多数ある。その中で、阿部文庫と狩野文庫について紹介したい。
阿部文庫は、東北帝国大学法文学部教授であった阿部次郎の旧蔵書を集めたものである。美学や倫理学で理想主義、人格主義を提唱し、前述の三太郎の日記は旧制高等学校生の間で盛んに読まれたという。私も、学生時代に読んだが、人生経験が未熟でなかなか理解できなかった。アリストファネスの話で、昔は背中でくっついていた男女が神の怒りにふれ、分断されてしまった、男女がお互いを求めるのは前世に分身であったから、という文章があった。なるほど、美学は経済学と違うなと感じてしまった。阿部次郎の三女の大平千枝子さんが「父阿部次郎愛と死」という名著を東北大学出版会から出されている。
狩野文庫は、旧制第一高等学校校長や京都帝国大学文科大学長を歴任した文学博士狩野亨吉(かのう こうきち)の旧蔵書で、約108,000冊からなる大コレクションになっている。図書館のホームページによると、「和漢書古典を主体とする幅広い領域の資料を含み、「古典の百科全書」あるいは「江戸学の宝庫」とも称される。史記 孝文本紀巻第十」(延久5年(1073)写)および「類聚国史 第二十五」(平安時代末期写)の国宝2点は、この文庫に含まれていたものである。本学指定の貴重書も、その過半は狩野文庫本である。」
仙台の青葉は特に美しい。川内キャンパスの近くには、仙台市博物館や宮城県美術館があり、少し足を延ばすと仙台城址も近い。何かの折りに散策してみては如何だろうか。
(東北大学出版会 鴨池 治)
東北大学附属図書館本館
〒980-8576 仙台市青葉区川内
TEL 022-217-5943
仙台駅前バスプール9番から青葉台、工学部、宮教大行きに乗車、扇坂停留所下車徒歩3分
(URL):
http://www.library.tohoku.ac.jp
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