デジタル出版最前線[1]
電子書籍で小説は読めるか
■ 電子書籍が話題である。ここでいう電子書籍はeBookとも呼ばれ、もともとは液晶画面を持った読書専用機を指していた。日本でも一昨年から昨年にかけて行われた電子書籍コンソーシアムによる実証実験が記憶に新しい。これには多くの出版社が参加して大々的に行われたが、みごとに失敗に終わっている。
■ いや、失敗などと断定すると関係者の反発をまねきそうだが初めから見当違いである。そもそも、「ルビが読めるくらい高精細の液晶を用いれば、もっと電子書籍は売れる」という発想が安易である。また「日本で一番売れている分野は漫画だから漫画が読めるハードを作る」という販売至上主義に至っては情けないという他はない。
■ 関係者の間でもテキストか画像かで、かなりの激論が交わされたそうだが、結果的に容量の大きな画像データとなり、ダウンロードに時間がかかることになった。またデータ保存に補助記憶装置が必要になり、電池の消費量が激しく、重い専用機ともなった。これは「いつか技術が解決する問題」ではなく、データ形式の誤りである。
■ 出版界は4年連続の販売減少である。「紙の本が売れない→新たな市場へ進出しなければ→マルチメディアが儲かるらしい」といった三段論法で電子書籍に取り組むのだとしたら、ちょっと悲しい。なによりもデジタル出版への志が感じられないではないか。
■ 昨年、アメリカでは人気作家スティーブン・キングの新作がインターネットで配信され話題となった。第一作『弾丸に乗って(Riding the Bullet)』は数日間で50万部もダウンロードされた(もっとも最初の24時間は無料だった)。この結果、アメリカでは読書専用機からパソコン上でのソフトリーダーへと大きく舵を切った。
■ さらに前作で味を占めたキングは第二作『植物(The Plant)』を出版社を通さず自分のウェブサイトで連載販売した。何事も欲をかいたらうまくいかないもので、これは昨年末で休載と相成った。「キングといえど出版社は無視できない」とか「そもそも小説がつまらなかった」といった声も聞くが、「誰も電子書籍で小説は読まない」という見解を僕は支持する。
■ Adobe社はeBook Readerの配布開始に合わせ、電子書籍書店サイトを開店したが、そこにはマグロウヒル社の教科書や大学出版の学術書が並んでいる。学生や研究者のための専門書と、ビジネスマンのための最新情報提供がAdobe社の戦略のようである。まず一票入れたい。
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eBook Reader の画面
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■ ところが、相変わらず日本では漫画に文庫に新書の旧作再利用である。「画像主体の出版物や日本語の美しい文字組版を生かすために、イーブックは本をそのままスキャンして画像データとするしかない」という主張には驚くしかない。だって、狭いパソコン画面ではスクロールして読むのですよ。紙とディスプレイでは縦横比も違えば、反射光と透過光の違いもある。
■ 見開きの紙面で版面設計し、いかに読みやすくするか。しかも、そこに自分の個性をスパイスのように加味する紙面表現での戦い。字間、行間、禁則、ぶら下がりに自らの存在をかける日本原人氏に爪の垢でももらってディスプレイの特性を生かした新たな表現にこだわりたいものである。
(バグ)
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