デジタル出版最前線[4]
ディジカメって何?
■今どき、メールといったらeメール(イーメール)のことである。若い人に「メールちょうだい」と言われてせっせと手紙を書く人は、おじさんにもいない。郵便のメールのことは、タートルメールとかスネークメールと言うそうである(亀や蛇のように遅いの意味)。
■eメールがビジネスで使われるようになって、もともと持っていた自由な雰囲気が少々崩れてきたが、それでも拝啓にはじまる手紙の形式性や敬語といった約束事抜きに、フランクでシンプルな用件重視の文章が好まれている。使い始めた頃、上司の依頼にも「了解」とだけ返しておける機能性が魅力的だった。手紙、電話、ファックスとは一線を画すeメールに、ネット文化がもたらす変化を実感した。
■10年以上昔、「電子出版は、これから出版社の重要な活動となり、わざわざ電子と断る区別がなくなる」と吹聴してまわっていた。メールの方が先にeである限定から解放されてしまったが、最近では、「紙の本」と言わないと話が進まない時がままある。
■言葉には流行廃れ(はやりすたれ)があり、なかには用語の定義が本来の意味からゆっくりと離れていき、気づかないうちにすっかり装いを新たにしてしまうこともある。新語や死語となってしまえばよいが定義が揺れているときは、その扱いが議論のもとである。最近、デジタル出版に関連する用語について検討する機会があった。
■たとえば「活字」である。当然、活版印刷に使う鉛を主とした物理的な存在をいう。それだけならデジタル出版とは縁がないのだが、「写植やDTPによる印刷した文字は何というの」となると、やはり活字だろうか。抵抗ある人もいるだろうが、手書き文字に対して活字とするのが自然な流れである。「活字文化」といっても活版印刷物は、もはやないのだから。
■一方、外来語では用語の表記自体が揺れることになる。たとえば「ディジタル」か「デジタル」か、皆さんは普段どちらを使うだろうか。専門家でもない限り「デジタル」だろう。電気製品の広告や新聞・雑誌を見ても圧倒的に「デジタル」である。手元の辞書を調べてみると、一部のパソコン用語集では「ディジタル」もあるが、『広辞苑・第五版』をはじめ、多くの国語辞書は「デジタル」である。ちなみに、『広辞苑・第三版』では「ディジタル」を採用している。表記が変化してきたよい例である。
■これに関して平成3年に『外来語表記に関する内閣告示』がある。それによると「ディ」は、外来音ディに対応する仮名である、とあり、さらに注では「デ」と書く慣用のある場合はそれによる、とある。「デジタル」は間違いなく慣用であり、まずは問題ないと、ふつうは考える。
■一方、専門家が集まって決めた『学術用語集・電気工学編』では、「ディジタル」である。一般に「デジタル」という用語が定着する以前から、電気工学の専門家の間では「ディジタル」が用語として使われてきている。今や世間では通用しない村言葉である。平成3年以前では、昭和29年の国語審議会報告『外来語の表記について』が有効で、この中では原音に近い「ディ」の表記を優先していた節がある。
■ところが検定教科書では『学術用語集』をより所としている。この結果どうなるか。平成15年度から普通高校で『情報』が必修教科となる。その教科書が検定審査の真っ最中であるが、「ディジタル」が採用されている。高校生諸君も面食らうだろう。何しろ「ディジタルカメラ」である。誰も「ディジカメ」とは言わない。
(デジタル派)
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