デジタル出版最前線[7]
ユーズドブック VS デジタル本
■僕のアルバイト経験といえば、中学を卒業した春休みが初めてだった。新学期に備えた本屋での教科書準備と販売だった。学校に行っての出張販売を効率よく行うため、事前に各教科書を一人分にセット組みし、梱包し、積み上げていった。
■その後、何度となく春になるとアルバイトに行ったのだが、それは何も本が好きだったからではない。その本屋に嫁いだのが小学校からの友人の姉だったご縁である。家族経営ながら地元では知られているし、お姉さんは某取次大手に勤めている時ご主人と知り合ったのだから業界は狭くて、やばい。なにしろ僕らとは親子に近いほど年齢が離れていることもあり、僕の小学校時代の数々の失敗を目撃されているのだ。
■「子供の頃は、○○(僕の愛称)とか、××(僕のあだ名)と呼ばれて、可愛かったそうですね(冷笑)」と、業界関係の知人に突然言われ、事態がわからず、しどろもどろになった経験が何度かある(汗)。
■いや、教科書販売の話だ。本を売りながら、友人と「隣に机を出して、学生から去年の本を安く仕入れ、半値で販売しよう」と相談した。もちろん冗談なのだが、今春アメリカの大学を訪問した際、ブックストアでまったく同じことを目撃した。
■ちょうどコロラド大学ボルダー校が学期末で、ブックストアでは、まもなく始まるサマースクールを前に教科書販売の準備をしていた。その横に机二つほどの買取コーナーがあり、手書きのポスターにはユーズドブック購入と書かれていた。取り立てて宣伝していないが、学生は当然のようにやってきて、事務的にお金を手にしていた。
■本誌49号のブックストア視察報告を事前に読んでいったのだが、新本の横に25%引きのユーズドブックが並んでいるのを見ると、やはり軽い驚きがある。日本の新古書店と書店業界のような対立関係にあるのではなく、教員、学生、書籍部に認知されたシステムなのである。
■手に取って開いてみたら、前の所有者の書き込みやマーキングがかなり多い。アメリカの大学教科書は500頁を超える厚い本が多く、学生は何冊もの本を効率よく読むため、重要点にマーキングした本から先に売れるという。それならばと思い「成績優秀者の本は高く購入するのか」という質問にはノーだった。
■大学教科書のアメリカ全体の動向は、新本が69%にすぎず、なんとユーズドブックが25%を占めるという。コロラド大学ではユーズドブックの比率はほぼ同様で、コーネル大学は大学自ら制作するオンデマンド出版物の比率が高い分、ユーズドブックは10%である。しかし、大学規模も大きく、その利用率は増加傾向にある。
■ユーズドブックの利益率は30%で、売上げ比率が高い分、ブックストアにとっては収益性が高くてメリットがある。一方、出版社にとっては深刻な影響を与えかねない。そのため出版社は、教科書の改訂を早めるだけでなく、教科書の内容をデジタル化したCD-ROMや指導書などを本にシュリンクパックし、毎年度版として販売する手法をとっている。
■巻末にシールで隠されていたパスワード付きの本もある。新本購入者は、出版社のサイトから様々なサービスを受けることもできる。カラー図版のデータは、プロジェクターを使う教員の評判がよい。読者登録と一致しないとアクセスできないので、ユーズドブック対策ともいえる。
■教科書を制作するにあたりコンテンツが完全にデジタル化されていることがよくわかる。デジタル教材の地ならしは終わっているのである。
(ブックオン)
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