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IT世代の行方ケータイで人はどうなる

ケータイで人はどうなる IT世代の行方

A5判 136ページ 並製
価格:1,650円 (消費税:150円)
ISBN978-4-501-54700-4 C3004
奥付の初版発行年月:2009年10月 / 発売日:2009年10月下旬

前書きなど

 我々はいま社会IT化の激しい流れのなかにいる。IT・ハイテク機器のおかげで人々の生活が便利になり、産業が活性化して国力が高まるのは結構なことだが、IT機器は生活を便利にするだけでなく、人の心に直接接近するという特別な性格をもっている。IT・ハイテクが社会に浸透するとき、この性格のために人文科学、社会科学あるいは工学など多数の分野にわたってさまざまな人間的問題を生じている。現世代は人生の途中でIT・ハイテクの影響を受け、当惑しつつ生き方と思考様式を変えてきたが、次の世代は最初からIT・ハイテクのなかで育ち、現世代とはまったく違う姿を見せるだろう。
 いま国も産業も、「便利さ」を標榜して技術優先の姿勢で進んでいる。そして「子供のケータイ」のような問題が起きると、後追いで対症療法的な方策が個々に論じられる。このような「シーズ・オリエンテッド」な姿勢のために、数多くの開発プロジェクトが失敗し、資源が無駄になってきた。いま人間と機械の関係をもっと掘り下げておかないと、これから際限なく人間と機械についての問題が生じるだろう。
 この本は未来の技術革新を論じるのではなく、現在の技術の延長線上で人間社会に生じつつある問題、予想される問題を論じ、落とし穴を避け、あるいは穴から這い上がる道について論じた。その基本は、IT・ハイテク社会における人間と機械の関係を、感情を中心に眺めなおすことである。筆者の考えによれば、さまざまな問題の根源は、知能化機器と大量の情報のために生じる頭を使わない「受身の生き方」(脳の怠け癖)と、感情をほとんど通さないIT機器の「狭い窓」にある。これらを情報量の立場から説明する。
 人々は機械が異質であることに違和感を覚えながらも、便利さに押されて機械に頼り、機械流に生きていく。現状での問題として、感情抜きの乾いた人間社会、機械流の受動的思考、生きる姿勢の一様化を取り上げる。将来のIT社会の主役となるケータイについての未来像は完全には予測できないが、個人専用の機器という立場から一様化の波に対する防波堤になり、持ち主の個性に対応した動作をはじめると予想される。ケータイと「2人きり」になった人間は世界観に強い影響を受け、社会構造にも影響が及ぶはずである。また情動の欠落に対するサプリメントとして仮想世界の技術が多用され、現実と仮想が激しく混同されると予想される。次世代は、これらの問題を超越して育っていかなければならない。
 筆者は大学の工学部と医学部に長い間奉職し、先端的な工学技術を研究する一方で、機械環境と人間のかかわりについての数多くの問題に触れてきた。特に医療・福祉や環境問題の場では、先端的な工学技術が人の心に強く影響するにもかかわらず、相変わらず技術先行で開発されていることに懸念を感じた。いま工学部の学生を教えてみると、懸念されたITの影響がすでに学生達に波及しつつあることを知った。それはちょうど火山噴火直前の地鳴りのように不気味である。
 いまの時点で次世代の像を論じると、「取り越し苦労だ、そんなことは起きない」と言う人もいるだろう。しかしこのIT・ハイテクの世の中では、起きないはずのことが次々と起きてきた。人の心が変わってから修正するのは困難であり、世の中の人々が広く問題を意識したときはもう手遅れなのだ。さまざまな問題で騒がしい世の中だが、人々に何に気をとられていても、気づかないうちにIT・ハイテクの影響が進行する。いまから議論をはじめても早すぎるということはないはずだ。
 この本は技術系だけでなく大学学部レベルの広い範囲の学生を想定し、授業にも使われることを想定して書いたのだが、一般の方々にも興味をもっていただけると幸いである、IT・ハイテク機器を単なる道具として進展に任せるのでなく、人間と人間社会への影響についての掘り下げた議論が起きることを切望する。
 2009年8月
 斉藤正男


目次

1章 IT・ハイテクの急激な発展
 IT文化の幕開け
 コンピュータが中心
 少し昔のアメリカ行き
 コンピュータとの対面
 その後の展開
 情報ネットワークの整備
 ハイテク機器に囲まれて
 昔の電話機
 私的世界を「ケータイ」する
2章 人間を中心にして進もう
 熱心な政府と産業
 大衆はどうか
 人間を中心に置いてほしい
 ニーズ・オリエンテッド
 シーズ・オリエンテッドの失敗
 ハイテクを振り回す
 人々はさまざま
 心と体の問題
 高齢者とやる気
3章 人間と機械は入り乱れる
 便利な機械とは
 機械は単能マシン
 機械に囲まれる
 人間と機械のS字型曲線
 情動駆動と論理駆動
 本質的に違うままでの協力
 機械は感情に接近できるのか
 違和感を生じる
4章 受身の姿勢
 機械に任せる
 大量の情報
 テレビ人間
 受け身で勉強する
 生活の姿勢を変える
 知識は受け取るだけ
 脳の怠け癖
 受け身のままでは危険だ
5章 感情の波紋
 感情こそ人間の証
 認知と情動
 感情の生成
 動機と行動
 情報伝達のチャンネル
 無意識的経路が重要
6章 機械の狭い窓
 感情を伝えたい
 直接顔を合わせると
 機械を通すと
 マイクとカメラ
 端末は狭い窓
 狭い窓でもなんとかする
 「本物そっくり」では
7章 乾いた人間社会
 機械の壁に囲まれて
 感情抜きのコミュニケーション
 人間直接の交流が減る
 他人の感情を理解しない
 建前だけの付き合い
 生身の人間が苦手
 血の通わない相手
 像再生型の交流範囲
 幼稚な心理
 実像のない虚像
8章 機械流に生きる人たち
 乾いた人間と機械
 機械流の表現から始まる
 形式的な思考と行動
 教育が機械的
 入試も機械的
 社会の意識が育たない
 自分の無力を感じる
 頼りになるものが欲しい
 やられるならやってしまおう
9章 一様化の波
 機械たちと仲良く
 機械から一様化を働きかける
 人は一様に生きる
 一様化は固定化を意味する
 マニュアルの流行
 ITは一様化を推進する
 クローン知識社会
 一様性と多様性
10章 ケータイと二人きり
 強力な機械に囲まれる
 助っ人が欲しい
 ケータイ秘書の登場
 すべてをケータイに頼る
 一様化の防波堤
 情動つきレプリカ
 機械は勝手に進むのか
11章 狭くなる世界観
 防波堤はフィルター
 鋭くなるフィルターと世界観
 情報検索以外にも
 人間固有のフィルター
 選択性と平坦部
 人間社会の形
 情動交流の突破口になるのか
 子育てとケータイ
12章 仮想世界をさまよう人たち
 仮想世界へのワープ
 さまざまな目的
 反法則の世界
 醒めるか嵌るか
 世界を区別する出入口
 混同が起きる
 積極的な利用
13章 新世代は超越する
 機械は生まれつきの仲間
 旧世代は何を説くのか
 個性は揺らぎとは違う
 感情を中心に
 感性は育てられるのか
 天動説と孤独人間
 人間どうしの交流
 仮想世界の活用と混乱
 積極的な情動のために
 主体性を育てる


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