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二十一世紀のビジネススタンダード世界市場を制覇する国際標準化戦略

世界市場を制覇する国際標準化戦略 二十一世紀のビジネススタンダード

四六判 474ページ 上製
価格:2,090円 (消費税:190円)
ISBN978-4-501-62370-8 C3050
奥付の初版発行年月:2008年09月 / 発売日:2008年10月上旬

前書きなど

 国際標準って何でしょうか?それを説明するいちばんわかりやすい例が、ネジの国際標準規格です。ネジを買ってきて、太さがばらばら、長さがばらばら、強さがばらばら、ねじ山のピッチもばらばら、すべてがばらばらでは、安心してネジを使うことができません。メーカーがちがっても、国がちがっても、国際標準規格に基づいたネジの互換性があるからこそ、いつでもどこでも誰でもネジは安心して使えるし、ネジの売買が大規模な国際ビジネスとして成立します。
 個人や企業、国や地域などの個々の主張を少し犠牲にして、国際的な一般化を図った規格が国際標準です。その国際標準の制定作業が国際標準化です。国際ビジネスが当然の近代社会において、国際標準化は国や企業を問わず欠かせない活動です。しかし、先進国の中で唯一、国際標準化を自国のビジネスに関連づけてとらえきれていない国があります。それが日本です。また、先進国の中で唯一、国際標準化を自社のビジネスに関連づけてとらえきれていない企業があります。それが日本の企業です。
 貿易立国の日本にとって、国内企業の海外進出ビジネスが必須です。そうしなければ、日本国内の鉄鋼、機械、自動車、船舶、航空機、電力、運輸、建設、通信、医療、化学、エレクトロニクスなどの産業は生きていけません。国境の垣根が低くなり、すべての企業のビジネスが国際化する時代になりました。国内企業にとって、国際標準はグローバルマーケットを獲得するもっとも有力で賢いツールです。本書では、日本企業の海外進出ビジネスにおける国際標準の重要性と、勝てる国際標準化戦略のノウハウと実例を読者にお伝えします。
 国際標準化の世界は広大で複雑です。鉄板の強度も、ネジの規格も、アクセシブルデザインも、ソーシャルレスポンシビリティーも、セキュリティシステムも、環境管理システムも、光ディスク記録媒体も、デジタル信号圧縮方式も、文字コードも、水晶発振子も、バーコードも、携帯電話通信方式も、テレビ放送方式も、すべて三大国際標準化機関(ITU/ISO/IEC)で扱われる標準化題材です。民間企業で働く誰もが理解している品質管理関係や基準認証関係の標準化題材は、それらのほんの一部にすぎません。もっと視野を広げて、国際標準化の世界を改めて眺めてみませんか。そうすると、きっと新しい世界が見えてきます。
 中国では、三流企業が製品を製造し、二流企業が技術を開発し、一流企業が標準を制定すると言われています。ドイツのミュンヘンに建つシーメンス本社の会議室の壁には、「国際標準化こそ自社のビジネスそのものだ」という標語が掲げられています。ひるがえって日本の企業はどうでしょうか。単に品質管理の一つの要素として標準化をとらえてはいませんか。企業経営者にとって、国際標準化ビジネスは、自社がリードして主役を演じるべき舞台です。また、国際標準化の専門家にとっても、国際標準ビジネスは、自分がリードして主役を演じるべき舞台です。そして、その舞台は仕事をとおして自分が自己実現するべき場所なのです。
 本書の内容については、著者がエレクトロニクス企業出身なので、エレクトロニクス分野を中心に書きました。その点はご容赦ください。しかし、本書が対象とする分野は、エレクトロニクスに限りません。国際標準化に関係する専門家だけでなく、広く一般企業の実務職から経営トップまで、真剣に本書を読んでいただき、国際標準が日本企業の海外進出ビジネスへ与えるインパクトについて理解していただきたいと思います。本書が企業経営者の目に留まらなければ、標準化の専門家から企業経営者へ推薦してほしいものです。
 国際標準化の建前(理想)と本音(現実)のギャップを埋めるのが本書です。本書では、日本規格協会が扱うような硬い標準化(ビジネス建前論)から外れて、民間企業が扱うような生々しくて軟らかい標準化(ビジネス本音論)を中心に、その考え方を率直に解説していきます。それが民間企業で働く人にとって、公的な国際標準化の重要性を認識する手段の一つだと思うからです。民間企業における国際標準化ビジネスの重要性へのさらなる理解については、拙著『ユビキタス時代に勝つソニー型ビジネスモデル』(日刊工業新聞社、二〇〇四年)の併読をお奨めします。
 標準化を理論的に系統立てて説明すると、民間企業で働く人にとって少しおもしろくないような部分から始めなければなりません。また、その説明量も膨大になります。それを避けるために、どうしても本書の説明が部分的に分散することになってしまいました。しかし、企業ビジネスとして国際標準化を理解するためには、できれば最初から通して本書を読んでください。また、本書の骨子などを「著者自己紹介」と「本書のまとめ—企業経営者の視点でとらえるべき国際標準化」として巻末に要約し、国際標準化活動に関係する専門用語と説明を「業界用語解説」として同じく巻末に掲載しました。必要に応じて参照してください。
二〇〇八年 九月
 原田節雄


目次

第1章 標準のもつさまざまな二面性
 1 「品質管理」と「ビジネス拡大ツール」
 2 「工業標準」と「ビジネス標準」
 3 「共通化」と「寡占化」
 4 「行為から得られる利益」と「成果から得られる利益」
 5 「広げる標準」と「せばめる標準」
 6 「社会基盤型」と「ライフスタイル型」
 7 「硬い標準」と「軟らかい標準」

第2章 人と組織の多面性
 1 「私益人」と「公益人」
 2 WTOと各種委員会
 3 移り変わる目的と意義
 4 「国内社会インフラ」から「国際社会インフラ」へ
 5 不利益をもたらしている標準化事例
 6 会議中に「眠っている人」と「覚めている人」

第3章 標準化をめぐる時代の変化
 1 ソニーのデファクト標準製品の歴史
 2 製品の標準化
 3 「部品」と「製品」
 4 二極化する標準市場
 5 失敗体験と成功体験のトラウマ
 6 国際社会インフラ企業体質
 7 見直しを迫られる企業体質
 8 二十一世紀型ビジネスモデル
 9 これから生き残るビジネス

第4章 出遅れる日本
 1 国際貿易における地域摩擦
 2 国際標準のインパクト
 3 国内企業の海外進出ビジネス
 4 情報通信系企業のデジュール標準化体制

第5章 アジア市場の特殊性
 1 中国とインドの重要性
 2 日中韓の摩擦問題
 3 中国ビジネスと日本発国際標準化

第6章 標準化組織の特徴
 1 三大国際標準化機関
 2 ISO/IEC JTC1の特殊性
 3 英仏独米日の標準化組織
 4 アジア諸国の標準化組織
 5 主要な標準化機関
 6 国際標準ロンダリング
 7 日本で対応する工業団体
 8 ITU委員会への参加方法

第7章 企業外組織の構造と活用
 1 フラグメント化している国際標準化組織
 2 主導的国際標準化の重要性
 3 国際標準化投票の一国一票制の問題
 4 国際標準化のノウハウと戦術

第8章 標準にまつわる知財権と法律
 1 パテント・トロール
 2 標準に含まれる知的財産権
 3 知的財産権に関する問題事例
 4 パテントプール
 5 著作権
 6 独占禁止法対策

第9章 企業内組織の構築と活用
 1 四種類に分けた標準
 2 二種類の標準化を使い分ける
 3 確保するべき組織と人材
 4 これからの国際標準化体制
 5 標準化担当の企業内評価

第10章 標準化委員会の知識と作業
 1 規約の制定と改定
 2 会議運営のノウハウ
 3 各種委員会の存在意識
 4 ユダヤ商人とマフィアの暗躍
 5 規格書作成プロセス

第11章 国際標準化競争の事例検証
 1 国際標準化のビジネスバトル
 2 カラーテストチャート—日本対欧州の例
 3 Office Open XML— 一企業対日米欧の例
 4 QRコード— 一企業対日米欧の例
 5 スイカ(Suica)— 一企業対日米欧の例
 6 PSP/UMD—対抗企業なしの例
 7 UHV(超高電圧)—日本対欧米の例
 8 海外標準化機械が仕掛けた例

第12章 これからの海外進出ビジネス
 1 国際標準を高い目線で眺める
 2 人を見抜く力を養う
 3 日本企業に求められていること

あとがき

付録
 1 著者自己紹介
 2 本書のまとめ—企業経営者の視点でとらえるべき国際標準化
 3 業界用語解説


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