横幹〈知の統合〉シリーズ
カワイイ文化とテクノロジーの隠れた関係
価格:1,980円 (消費税:180円)
ISBN978-4-501-62960-1 C3000
奥付の初版発行年月:2016年04月 / 発売日:2016年04月中旬
「かわいい文化」を感性工学・社会学・文化論・経済産業論等の見地から論考し、読者の研究活動に対する知見を提示する。
本書は,「カワイイ」という感性的価値の動態を,研究者の視点で,分野を超えて,正面から捉えようとしたものである.
「カワイイ」をテーマにした本です,と言うと,「それはおもしろそうですね」とか,「最近の流行りですよね」などという反応が返ってくることが多い.しかし,本書は表層的な流行を追おうとするものではない.必ずしも正統的とみなされていない,ポピュラな価値だからといって,真面目に検討するに値しないものとみなすのは,学問の怠慢とさえいえる.
「正統的」とみなされている文化は,すでに理論化されているかもしれないが,反面,いままさに活き活きと動き,瞬間ごとに変化し,だからこそ人びとを引きつけているポピュラー・カルチャーに比べて,そこから人びとが感じ取っている「価値」のダイナミズムは弱まっている.もしわれわれが,社会のダイナミズムとメカニズムの実態に迫ろうとするのなら,まさに「カワイイ」に代表される,ポピュラーな感性的価値を,システマティックに理解する必要がある.本書はそれを目標として,学問領域の枠を超えて,一流の研究者たちが「カワイイ」価値に真摯に向き合った成果である.
本書の構成
本書は,次のような多様な論文から構成されている.
第1 章「なぜいま,「カワイイ」が人びとを引きつけるのか?――「カワイイ」美学の歴史的系譜とグローバル世界」(遠藤薫)は,古代から現代に至るまで,日本文化が「カワイイ」という価値に寄せる志向性とその変遷を追いながら,「カワイイ」価値への志向がいかなる社会的意義を持っているのかを明らかにしようとする.それとともに,「カワイイ」価値は,決して日本文化の内部に閉じたものではなく,むしろ海外文化との相互作用のなかで時代に応じて変化してきた.だからこそ,現代のグローバル世界において,「カワイイ」価値を正当に評価することが必要なのである,と論じている.
第2 章「「かわいい」の系統的研究――工学からのアプローチ」(大倉典子)は,一転して,「カワイイ」価値を,意味論的にではなく,外部的に計測しようとする.「カワイイ」のような感性的価値は,人の感性という曖昧で,不確かな,客観的には捉えがたいものと考えられてきた.しかし,従来のものつくりの価値観である性能・信頼性・価格に加え,感性を第4 の価値として認識しようという国の取組みも始まったことから,日本生まれのデジタルコンテンツの人気の大きな要因として,高度できめ細やかな技術力とともに,キャラクターなどの「かわいさ」に着目し,これを系統的に解析した研究である.
第3 章「絵双紙から漫画・アニメ・ライトノベルまで――日常性の再構築のメディアとしての日本型コンテンツ」(出口弘)は,「日常性」を相対化しつつ様々な形で再構成する日本のコンテンツの作品群を,広義の日常系として捉え,その特色が江戸期あるいはそれ以前にまで遡ると指摘する. 地球社会の多くの人びとは,いまだに「神」という名の物語,あるいはその名の下で語られる規範性の強い物語にとらわれている.しかし,「カワイイ」には包摂も過剰包摂もなく,それぞれの「カワイイ」があるにすぎない.日常性のコンテクストにおける規範の相対化が「カワイイ」の本質であると論じている.
第4 章「カワイイと地元経済――ローカル・キャラクターの経済効果」(田中秀幸)は,近年,全国的,または世界的なキャラクターと肩を並べるほどの人気を集める地元のキャラクターが,その地方のシンボルとなり得る特徴的な記号をモチーフにして,多くはカワイイことが特徴であると指摘する.また,それらは地元のマスコットなどとして活躍することで,地方を活性化することが期待されている.この章では,経済的側面に焦点をあてて,これらのかわいいキャラクターの経済活性化への寄与について分析する.
第5 章「かわいいとインタラクティブ・メディア」(武田博直)は,エンタテインメント産業からの報告である.著者は,アミューズメントセンターなどに設置されている業務用ゲーム機のうち,KR-I 仕様のゲーム機が,これまでに多くの女性たちの「なりたい自分になる」願望などをかなえてきたと指摘する.さらに著者は,このような技術が,男性の,要介護者のための介護技術にも,応用できると主張している.
第6 章「複製技術と歌う身体――子ども文化から見た近代日本のメディア変容」(周東美材)は,近代日本社会における音響の複製技術が,「カワイイ」歌声を生み出すようになっていったプロセスについて,童謡を主たる事例としながら考察する.日本型の近代家族において顕著な特徴となっている子ども中心主義は,レコードという新たなテクノロジーが社会的に受容され,独自のポピュラー音楽を花開かせていく基本的な要因となったと論じている.
目次
第1 章 なぜいま,「カワイイ」が人びとを引きつけるのか?――「カワイイ」美学の歴史的系譜とグローバル世界
1.「カワイイ」ということ――その社会的価値を考える
2.「カワイイ」という思想
3.「カワイイ」と文化変容
4.「カワイイ」と近代化のなかの異文化交流
5.「カワイイ」の現代的意義
6.「カワイイ」は「cool」か?――関わり合いの美学
第2 章 「かわいい」の系統的研究――工学からのアプローチ
1.はじめに
2.文化論的な先行研究の調査
3.かわいい色や形についての実験
4.バーチャル空間を用いたかわいい色や形の実験
5.かわいい質感に関する実験
6.かわいい感と生体信号との関係に関する実験
7.まとめ
第3 章 絵双紙からマンガ・アニメ・ライトノベルまで――日常性の再構築のメディアとしての日本型コンテンツ
1.複製メディアとしての日本型コンテンツ
2.物語の描かれ方とその場
3.日常性の再構築のメディアとしての物語
4.日本における日常性のメディアとしての漫画
5.日常性の再構築と神々の再構築
第4 章 カワイイと地元経済――ローカル・キャラクターの経済効果
1.はじめに
2.ローカル・キャラクターの実態
3.ローカル・キャラクターが経済的にもたらすもの
4.ローカル・キャラクター導入地域の経済効果の検証
5.まとめ
第5 章 かわいいとインタラクティブ・メディア
1.はじめに
2.「アミューズメントセンター」に女性がやってきた時代
3.そしてトレンドは,郊外型施設・複合型施設・テーマパークに向かう
4.「インタラクティブ」って何?
5.結論とあとがき
第6 章 複製技術と歌う身体――子ども文化から見た近代日本のメディア変容
1.はじめに
2.家庭とレコード
3.「アイドル」としての童謡歌手
4.「カワイイ」歌声はどのように生まれたか
5.おわりに
あとがき
注
参考文献
索引
編著者紹介