君主の統治について 謹んでキプロス王に捧げる
価格:2,750円 (消費税:250円)
ISBN978-4-7664-1187-4(4-7664-1187-0) C10
奥付の初版発行年月:2005年09月
大著『神学大全』で知られる盛期スコラ学の代表的神学者トマス・アクィナスの政治思想論文"De Regno Ad Regem Cypri"の全訳。あるべき君主像、統治の形態などを、伝統的な「君主の鑑」の文芸ジャンルの体裁に則って論じる。クセノフォン『キュロスの教育』からマキアヴェッリ『君主論』にいたる帝王学の系譜のなかでも最も著名なものの一つで、中世政治思想の特質のみならず、トマス思想全般の理解にも不可欠の書。
柴田平三郎(しばた・へいざぶろう)
1946年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。法学博士。獨協大学法学部教授。西欧政治思想史専攻。
主要業績:[著作]『アウグスティヌスの政治思想』(未来社、1985年)、『モダーンとポスト・モダーン』(共著、木鐸社、1992年)、『中世の春——ソールズベリのジョンの思想世界』(慶應義塾大学出版会、2002年)。[翻訳]J.B.モラル『中世政治思想』(未来社、1975年)、G.H.セイバイン『デモクラシーの二つの伝統』(未来社、1977年)、A.P.ダントレーヴ『政治思想への中世の貢献』(共訳、未来社、1979年)、R.M.ハッチンス『聖トマス・アクィナスと世界国家』(未来社、1984年)、M.I.フィンレイ『民主主義——古代と現代』(刀水書房、1991年)、H.リーベシュッツ『ソールズベリのジョン——中世人文主義の世界』(平凡社、1994年)。
目次
凡例
献辞
第一巻 第一章 生活を共にする人びとは誰か王によって慎重に統治されるのが必要であること。
第二章 生活を共にする人びとにとっては、一人の人間によって統治されるほうが、複数の人間によって統治されるよりも、いっそう有益であること。
第三章 一人の支配が正しいがゆえに、最善であるように、その反対は最悪であること、それは多くの理由および論拠によって証明される。
第四章 ローマ人の間で支配権はいかに変遷したか、またかれらの間ではむしろ多数者支配の国家がしばしば発達したということ。
第五章 多数の支配においては、一人の支配におけるよりも、しばしば僭主制的支配が生じること、したがって一人の支配のほうが優ること。
第六章 一人の支配が確かに最善であるとの結論。民衆はその人に対してどのような態度をとるべきか、を示す。それは僭主制に陥る機会をかれから取り除くことが必要だからである。そしてより大なる悪を避けるためにこの支配が認容されるべきであること。
第七章 本章で聖博士は、現に王の統治において主要な動機となるのは名誉か栄光のいずれであるか、そしてさらにそれらのいずれかを守るべきか、について見解を示す。
第八章 本章で博士は、王をして善き統治へと促す真の目的とは何か、について説き明かす。
第九章 本章で聖博士は、王侯君主の報酬が天上の浄福において最高の位置を占めることを説き明かし、そのことを数多くの理由と実例によって指し示す。
第一〇章 王侯君主はそこより生じる自己自身の善と利益のために善き統治を熱心に求めねばならないこと。その反対から僭主制的支配が生じること。
第一一章 富、権力、名誉、名声のごとき世俗的善は僭主のもとによりも王のもとにより多く訪れること、およびこの世において僭主たちの陥る悪について。
第一二章 王の職務とは何か、を進んで明らかにする。自然の道理により、王国における王はあたかも肉体における魂、現世における神と同じようなものである。
第一三章 この類似性から統治の方法を学ぶ。神がそれぞれの事物をその秩序、固有の作用および場所によって区別し給うように、王もまた王国において人民を同様に扱う。魂に関しても同じである。
第一四章 いかなる統治方法が、神の統治方法にしたがったものとして、王に適合するか。その方法は船の舵取りに端緒を発する。そして時に聖職者の支配と王の支配との比較が試みられる。
第一五章 王がその人民を徳にしたがった生活へと導くのは終局目的を目指すためであること。その中間的目的についても同様であること。また善き生活を整えるものと、それを阻害するものとは何か、そしてその阻害するものに対して王はいかなる対策を講ずるべきか、を論じる。
第二巻 第一章 王は名声を博すべくいかにして都市もしくは陣営を建設すべきか。そしてそのために気候温暖な土地を選ぶべきこと、およびそのことから統治上、どのような便益が生じ、その反対にどのような不利益が生じるか。
第二章 王や君主は都市あるいは陣営を建設すべくいかにして空気が健康に良い地方を選ぶべきか。そしていかなる点において、またいかなる徴候においてこのような空気が感知されるかを明らかにする。
第三章 君主にとって建設されるべき右のような都市はどのようにして食糧の豊富を確保すべきかであるか。豊富な食糧なしには都市は完全なものとはなりえないがゆえに、そしてその豊富を確保する二つの方法を区別する。第一のほうをとくに推奨する。
第四章 都市や陣営を建設する場合、王が選ぶべき地方は風光明媚な場所であるべきこと。ただし市民はこれを適度に用いられるようにすべきこと。というのも風光明媚な景観は往々にして惰弱の原因であり、国を滅ぼすことになるからである。 訳注 訳者解説——トマス・アクィナスと西欧における〈君主の鑑〉の伝統
訳者あとがき
索引