契約履行の動態理論Ⅰ ―弁済提供論
価格:9,350円 (消費税:850円)
ISBN978-4-7664-2085-2 C3032
奥付の初版発行年月:2013年10月 / 発売日:2013年10月上旬
▼契約法をその基底から捉え直し、履行プロセスを再構築する
契約は締結時に決められたことを自動的機械的に実現されるのではない。履行プロセスを通じて当事者の利益を調整しつつ、最大限の利益となるように実現される。
弁済の提供という履行プロセスでの債務者の最終的な履行段階での行為に焦点を当てて、とりわけ債権者がその受領を拒絶する受領遅滞の場面や、それと対照的な履行遅滞の場面での利益調整の要件を検討する第Ⅰ巻!
契約法における基礎概念を根源から捉え直しながら、債権法改正の時代における真に必要な議論を提示する。
北居教授による畢生の基礎研究シリーズが遂に刊行!
北居 功(キタイ イサオ)
慶應義塾大学大学院法務研究科教授。
1961年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同法律学科卒業。慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了、同博士課程単位取得退学。
慶應義塾大学法学部専任講師、同助教授、同教授を経て現職。
本書に収録された論文以外のものとして、「債務不履行における債権者の救済要件――厳格訴権体系から誠実訴権体系への転換」 慶應法学19号(2011年)、「二重売買と危険負担――危険負担制度と契約解除制度の競合」法学研究84巻12号(2011年)、「契約の効力と契約の解除」法律時報81巻10号(2009年)、「合意の対外的効力に関する一考察――債権譲渡担保における譲受人の物的納税責任をめぐって」法学研究80巻7号(2007年)、「19世紀ドイツにおけるアクチオ体系の克服――ヴィントシャイトの『アクチオ論』に関する覚書」人間環境学研究4巻1号(2006年)、「神戸同時履行論再考―神戸寅次郎の解釈理論とその現代への蘇生」安西敏三・岩谷十郎・森征一編著『福澤諭吉の法思想―視座・実践・影響』(慶應義塾大学出版会・2002年)ほか多数。
著書に、『民法とつながる商法総則・商行為法 』(共編・商事法務・2013年)、『コンビネーションで考える民法』(共著・商事法務・2008年)ほか。
目次
はじめに
第一章 動態的契約理論
一 はじめに
二 支配的弁済観
1 提供の機能
2 受領遅滞論
3 機械的履行論
4 基本モデルとしての特定物売買
三 批判的弁済観
1 提供の意義の変容
2 受領遅滞論の変貌
3 有機的履行論への端緒
4 基本モデルとしての特定物売買からの離脱
四 動態的契約理論――交渉プロセスとしての履行過程
第一部 受領遅滞論
第二章 弁済提供制度の沿革
一 フランス法における弁済の提供および供託
1 弁済の提供および供託の手続
(1)金銭債務
(2)特定物債務
(3)種類債務
(4)為す債務
2 弁済の提供および供託の効果
(1)現実の提供の効果
(2)催告の効果
(3)供託の効果
(4)現実の提供および供託の費用
3 小 括
(1)債権者の付遅滞
(2)提供制度に対する批判
二 旧民法における弁済の提供および供託
1 ボワソナード草案
(1)弁済の提供および供託の手続
(2)提供および供託の効果
2 旧民法の編纂
3 小 括
(1)弁済の提供および供託
(2)催告手続の制度
(3)補論――債権者平等の原則
(a)執行手続における平等主義の採用 /(b)優先主義と平等
主義の対立
(c)優先主義の新たな根拠づけ /(d)民法上の債権者平等の
原則
(e)債権実現のルールとその潜脱
第三章 ドイツ受領遅滞論の形成
一 ドイツ受領遅滞制度の特異性?
二 サヴィニーの権利の体系
三 モムゼンによる受領遅滞理論の転換
四 ドイツ近代立法の一瞥
五 コーラーの権利テーゼ
六 ドイツ民法典の制定
七 再び、権利の体系へ
第四章 受領遅滞制度
一 現行民法第四一三条の制定過程
二 問題の再設定
三 民法第四九二条の意義
1 フランス法
2 旧民法
3 現行民法第四九三条との関係
4 小 括
四 旧商法第五三六条および第五三七条の削除の意義
1 現行民法売買法と旧商法との関係
2 旧商法第五三六条および第五三七条
3 旧商法第五三六条・第五三七条の削除の意義
五 受領障害と提供制度
第五章 買主の引取遅滞制度
一 問題設定
二 供託その他の債務者解放制度の概略
1 フランス法および旧民法
(1)フランス法
(2)旧民法
2 ドイツ民法
(1)ドイツ普通法
(2)ドイツ民法典の制定
3 日本民法
三 引取遅滞制度の原型
1 フランス法の引取遅滞制度
2 旧民法の引取遅滞制度
3 ドイツ法の引取遅滞制度
(1)普通法
(2)ドイツ民法典の制定
四 第四一三条の原規定とその修正
五 引取遅滞制度の展開
1 フランス法における「引取」概念
2 ドイツ法における「引取」概念
3 「引取」概念の比較
六 民法第四一三条の意義
1 引取遅滞制度としての民法第四一三条
2 第四一三条による危険の移転効果
七 小 括
第二部 遅滞要件論
第六章 受領遅滞および履行遅滞の要件
一 はじめに
二 受領遅滞と提供の関係
1 提供制度の変遷とその意義
2 ドイツ民法典第二九七条の意義
3 小 括
三 履行遅滞と催告の関係
1 フランス法における付遅滞要件
2 ドイツ法における履行遅滞要件
3 小 括
四 小 括
第七章 債権者の明確な受領拒絶
一 はじめに
二 契約否定類型
1 債権者の明確な受領拒絶と弁済提供の要否
(1)判 例
(2)学 説
(a)提供必要説 /(b)提供不要説
(3) 私 見
2 受領拒絶の撤回
(1)判例および学説
(2)小 括
3 債権者の明確な履行拒絶と同時履行の抗弁
(1)判 例
(2)学 説
(3)小 括
4 小 括
三 増額請求類型
1 賃料増額請求権と解除の制限
(1)賃料増額請求権制度改正の経緯
(2)「相当賃料」の基準
(3)小 括
2 債権者の受領拒絶と過大催告
(1)判例および学説
(2)小 括
3 債権者の明確な受領拒絶と供託
(1)提供と供託の関係
(2)賃料増額請求事例と供託法理
4 小 括
四 小 括
第三部 契約解除論
第八章 付遅滞解除の要件
一 伝統的債務不履行論の限界
1 解除手続論の理論的矛盾
2 伝統的債務不履行論への批判
3 本章の課題
二 付遅滞解除要件論――帰責性の要否
1 履行遅滞と付遅滞
2 交渉プログラムとしての付遅滞
三 付遅滞解除要件論――二重の催告の要否
1 期限の定めのない債務と解除要件
2 違法な債務不履行と付遅滞
四 付遅滞解除要件論――二重の提供の要否
1 提供の継続による二重の提供
2 二重の催告不要論の敷衍
3 債務不履行と違法性の関係
五 付遅滞解除要件論――提供と催告の関係
1 催告と同時の提供の必要性
2 有効な催告と提供の関係
六 現代的債務不履行論の課題
第九章 債務者の明確な履行拒絶
一 はじめに
二 ドイツ履行拒絶論のアンビバレンス
1 契約信義論
2 履行拒絶と契約貫徹
3 履行拒絶と不履行契約の抗弁
三 履行拒絶と催告の要否
1 実務の趨勢
2 理論の趨勢
(1)履行遅滞論
(2)積極的契約侵害論
(3)履行不能類比論
(4)矛盾行為禁止論
3 小 括
四 履行拒絶と提供の要否
1 実務の趨勢
2 理論の趨勢
3 小 括
五 履行拒絶と同時履行の抗弁
1 履行遅滞論の限界
2 履行遅滞と履行拒絶の競合論
3 付遅滞解除論による解決
六 小 括
第四部 結 論
第一〇章 総 括
一 問題の総括
二 提供の防御効果
1 債務不履行の免責
(1)債権者の受領する意思・準備の欠缺
(2)債権者の明確な受領拒絶
2 弁済供託
3 受戻権の行使
三 提供の攻撃的効果
1 受領遅滞
2 契約解除
(1)提供による同時履行抗弁の排斥
(2)債務者の明確な履行拒絶
3 履行請求
四 債務不履行の定義
初出一覧
判例索引
条文索引
参考文献一覧