プルーストの黙示録 『失われた時を求めて』と第一次世界大戦
価格:3,520円 (消費税:320円)
ISBN978-4-7664-2208-5 C0098
奥付の初版発行年月:2015年03月 / 発売日:2015年03月下旬
プルーストは「大災厄」をいかに描いたか?
▼「戦争文学」としての『失われた時を求めて』
▼第一次世界大戦中、銃後にとどまったマルセル・プルーストは、新聞七紙を購読しながら、ライフワークの執筆をつづけていた。
終息の見えない戦況を目の当たりにした作家は、愛国的なプロパガンダに従事するのでもなく、反戦活動をおこなうのでもなく、長大な小説の終盤に、進行中の「戦争」を取り込むことを選択した。
そのときプルーストはどのような問題意識を抱え、どのようにして言論界への批評的介入を試みたのか?
同時代につくられた戦争の表象の総体をあらわす「戦争文化」という観点から、
『失われた時を求めて』を読みなおし、プルーストの政治的・社会的・美学的ポジションを再定義する意欲作。
坂本 浩也(Hiroya Sakamoto)
立教大学文学部准教授。1973年生まれ。1999年、東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程修了。2005年、同専攻博士課程単位取得満期退学。2008年、パリ第4大学博士課程修了。文学博士。2011年、国際フランス研究協会賞(Prix de l’AIEF)受賞。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
はじめに
戦争文学としての『失われた時を求めて』 /
文化史の観点からプルーストを読む
序 章 戦時中のプルースト氏
なぜ私信を読むのか
一九一四年
平和を望む / ドイツ音楽を愛し続ける / 「最初の戦争文学」
一九一五年
「戦前派」のレッテルを貼られて / 「偽りの愛国心」と「本当の
『愛国的な』感動」 / 教会の破壊 / 「時期尚早」な戦争文学を
「校正」する
一九一六年
ヴェルダンのほうへ / ガリマールのほうへ / 『砲火』から遠く離
れて
一九一七年
悲しみと日々、楽しみと日々 / 「すばらしい黙示録」 / 戦時下の
前衛芸術
一九一八年
リッツからマリニーへ / 戦時下のサウンドスケープ / 蜜蜂として
の芸術家の肖像 / 書簡から小説へ
第一章 パリ空襲と「ワルキューレ」
プルーストと「戦争文化」 / パリ空襲をめぐるフィクション /
シャルリュス男爵、倒錯と反転 / サン = ルー、空襲の美学化と政治
化 / 飛行士と同性愛
第二章 オリエント化するパリ
パリと「パリ小説」の変貌 / オリエンタリズムの絵画と同性愛の主
題 / 消えたロティ、「不可思議なオリエントの幻像」 / パリの空、
「トルコ石の色合いをした海」 / カルパッチオ、「異国情緒あふれ
る架空の都市」 / セーヌとボスフォラス、「三日月という 東方の
徴」 / セネガル狙撃兵とアングル / 「千夜一夜」の蜃気楼とメソ
ポタミア戦役
第三章 「私」の愛国心と芸術観
あいまいな作中の「私」 / 「愛国芸術」への理論的な反駁 /
作者が語り手の声を借りるとき / 「私」のドイツ嫌い /
「私」という国家の「細胞」 / 「心理的洞察力の欠如」、
「当事者」と「傍観者」のジレンマ
第四章 「復員文学」における暴力
暴力への無関心? / 「復員文学」とは何か /
暴力をめぐる喜劇的ヴィジョン / 暴力をめぐるモラリスト的・劇
的ヴィジョン / 暴力をめぐる耽美的ヴィジョン / 「前線からの
書簡」という新ジャンルの登場 / 「印象主義」と愛国心 /
ふたつの利己主義
第五章 軍事戦略と動員の力学
機動性と不動性 / プロパガンダ論とサン = タンドレ = デ = シャン
神話 / 同性愛、愛国心、「生存環境」
第六章 二十世紀の『戦争と平和』
ナポレオン戦争から第一次世界大戦へ / 論敵としてのトルストイ /
模範、分身としてのトルストイ / ナポレオン、ヒンデンブルク、ヴィ
ルヘルム二世 / プルーストのトルストイ的側面 / 樹木の観照
おわりに
註
あとがき
初出一覧
参考文献一覧
人名索引・作品名索引