東アジア研究所講座
アジアの文化遺産 過去・現在・未来
価格:2,200円 (消費税:200円)
ISBN978-4-7664-2235-1 C0036
奥付の初版発行年月:2015年08月 / 発売日:2015年08月中旬
▼文化遺産がもたらす光と影を描きだす。
文化遺産は、博物館に保管され、展示される遺物とは異なり、現在生きている人々の生活実践に関わり、過去から受け継がれ、現在を生き、未来へと継承されるものである。現代社会では、文化遺産を単に保護・保存するだけでなく、どのように付き合い、活用し、未来に託すかが問われている。本書は文化遺産を過去の中に閉じ込めずに、生きている遺産として多元的に把握しようとするものである。
鈴木 正崇(スズキ マサタカ)
慶應義塾大学名誉教授・慶應義塾大学東アジア研究所客員所員。専門は、文化人類学、宗教学。
1949年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。
主要著作に、『ミャオ族の歴史と文化の動態―中国南部山地民の想像力の変容―』(風響社、2012年)、『山岳信仰―日本文化の根幹を探る―』(中央公論新社、2015年)など。
(※掲載順)
【編者】
鈴木 正崇(すずき まさたか)
慶應義塾大学名誉教授・慶應義塾大学東アジア研究所客員所員。専門は、文化人類学、宗教学。
【著者】
稲葉 信子(いなば のぶこ)
筑波大学大学院人間総合科学研究科教授。専門は、遺産論、建築史。
1955年生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士課程単位取得満期退学。工学博士。
主要著作に、『世界遺産』(共著、ポプラ社、2007年)、『環境―文化と政策―』(共著、東信堂、2008年)など。
髙谷 紀夫(たかたに みちお)
広島大学大学院総合科学研究科教授。専門は、文化人類学。
1955年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程中途退学。博士(学術)。
主要著作に、『ビルマの民族表象―文化人類学の視座から―』(法藏館、2008年)、『ライヴ人類学講義―文化の「見方」と「見せ方」―』(責任編集、丸善、2008年)など。
石澤 良昭(いしざわ よしあき)
上智大学特任教授・上智大学アジア人材養成研究センター所長。専門は、東南アジア史、カンボジア碑刻学。
1937年生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。文学博士。
主要著作に、『新・古代カンボジア史研究』(風響社、2013年)、『カンボジア 密林の五大遺跡』(共著、連合出版、2014年)など。
菊池 誠一(きくち せいいち)
昭和女子大学人間文化学部教授。専門は、ベトナム考古学。
1954年生まれ。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(学術)。
主要著作に、『ベトナム日本町の考古学』(高志書院、2004年)、『朱印船貿易絵図の研究』(編著、思文閣出版、2014年)など。
皆川 厚一(みながわ こういち)
神田外語大学外国語学部教授。専門は、民族音楽学・バリ島の伝統音楽と芸能。
1955年生まれ。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。芸術学修士。
主要著作に、『ガムラン武者修行―音の宝島バリ暮らし―』(パルコ出版、1994年)、『インドネシア芸能への招待―音楽・舞踊・演劇の世界―』(編著、東京堂出版、2010年)など。
前島 訓子(まえじま のりこ)
国立民族学博物館外来研究員。専門は、社会学・地域研究。
1980年生まれ。名古屋大学大学院環境学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。
主要著作に、「交錯する『仏教聖地』構築と多宗教的現実―インド・ブッダガヤの『仏教聖地』という場所の形成―」(『日本都市社会学会年報』第31号、2013年)、「インド『仏教聖地』構築の舞台―『仏教聖地』構築と交錯する地域社会―」(『地域社会学会年報』第23号、2011年)など。
前田 耕作(まえだ こうさく)
文化遺産国際協力コンソーシアム運営委員・アフガニスタン文化研究所所長。専門は、アジア文化史。
1933年生まれ。名古屋大学文学部卒業。
主要著作に、『アフガニスタンの仏教遺跡バーミヤン』(晶文社、2002年)、『玄奘三蔵、シルクロードを行く』(岩波書店、2010年)など。
藤木 庸介(ふじき ようすけ)
滋賀県立大学人間文化学部准教授。専門は、建築計画・文化遺産観光。
1968年生まれ。和歌山大学大学院システム工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。
主要著作に、『生きている文化遺産と観光―住民によるリビングヘリテージの継承―』(編著、学芸出版社、2010年)、『世界遺産と地域振興―中国雲南省・麗江にくらす―』(共編著、世界思想社、2007年)など。
菅 豊(すが ゆたか)
東京大学東洋文化研究所教授。専門は、民俗学。
1963年生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史人類学研究科中退。博士(文学)。
主要著作に、『川は誰のものか―人と環境の民族学―』(吉川弘文館、2006年)、『「新しい野の学問」の時代へ―知識生産と社会実践をつなぐために―』(岩波書店、2013年)など。
朴 原模(パク ウォンモ)
ユネスコアジア太平洋無形文化遺産国際情報ネットワーキングセンター研究情報チーム長。専門は、文化人類学、比較民俗学、無形文化遺産。
1966年生まれ。立教大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。
主要著作に、「モーションキャプチャーを利用した無形文化財の記録作成の方案に関する諸研究」(『文化財』第36号、2003年、韓国語)、「韓国の無形文化遺産の記録作成とデジタルアーカイブの構築」(中国民間文芸家協会編『田野の経験』2010年、中国語)など。
才津 祐美子(さいつ ゆみこ)
長崎大学多文化社会学部准教授。専門は、民俗学、文化人類学。
1969年生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。
主要著作に、『ふるさと資源化と民俗学』(共著、吉川弘文館、2007年)、『世界遺産時代の民俗学―グローバル・スタンダードの受容をめぐる日韓比較―』(共著、風響社、2013年)など。
岩本 通弥(いわもと みちや)
東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は、民俗学。
1956年生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史人類学研究科単位取得退学。
主要著作に、『ふるさと資源化と民俗学』(編著、吉川弘文館、2007年)、『世界遺産時代の民俗学―グローバル・スタンダードの受容をめぐる日韓比較―』(編著、風響社、2013年)など。
菊池 健策(きくち けんさく)
都留文科大学非常勤講師。専門は、日本民俗学・文化財学。
1953年生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史人類学研究科単位取得退学。
主要著作に、『山車』日本の美術第516号(ぎょうせい、2010年)、『日本の民俗9 祭りの快楽』(共著、吉川弘文館、2009年)など。
目次
序 アジアの文化遺産
―― 過去・現在・未来(鈴木 正崇)
はじめに /
1 世界遺産 /
2 世界遺産と日本 /
3 無形文化遺産 /
4 文化遺産の「拡大解釈」 /
5 文化遺産への多様なアプローチ /
6 遺産の増殖 /
7 文化遺産の転換期
世界遺産条約の課題とこれからの遺産アプローチ(稲葉 信子)
はじめに ―― 和食が世界遺産に? /
1 国際的な遺産ブランドのいろいろ /
2 保護あるいは保存か、保全かの議論について /
3 カルチュラルランドスケープ―文化的景観―を例に考える /
4 遺産のカテゴリーか、アプローチか /
5 オーセンティシティの議論と文化の多様性 /
6 世界遺産条約と遺産保護制度の今後 /
7 結びにかえて
ミャンマーの文化政策 ―― ビルマ文化中心主義と、ある民族誌家の肖像(髙谷 紀夫)
はじめに /
1 ミャンマー(旧ビルマ)の「文化」観 ―― 文化政策の文脈から /
2 ミャンマーの世界遺産登録の現状 /
3 民族誌家ミン・ナイン(U Min Naing, B.A.)の足跡から /
4 ビルマ民族誌研究の系譜とミン・ナイン /
5 ミン・ナインの言説から /
6 おわりに
アンコール王朝繁栄の謎 ―― 碑文解読による歴史発見物語(石澤 良昭)
はじめに ―― 碑文は「生」の声を伝えている /
1 カンボジア碑刻文はG・セデスが解読した /
2 碑文情報からアンコール時代の古生活環境を復元 /
3 碑文が伝える情報を現場において読み解く /
4 碑文は寺院資財帖であり、村落の社会と経済の活動を反映してい
る /
5 たわわに実った稲穂・ゆったりとした時間・神仏への敬虔な祈り
―― 村人の日常生活 /
6 門前町の市場と村の副業から /
7 「富貴真臘」とアンコール・ワット /
8 アンコール王朝を「構造史」に捉えていく /
9 碑文情報は平穏な日常生活が続いていた史実を伝えている
ベトナムの世界遺産ホイアンと日本の歴史的関係(菊池 誠一)
はじめに /
1 江戸時代の朱印船貿易とベトナム /
2 ホイアンの歴史的形成 /
3 ホイアンの日本町 /
4 ホイアンの日本町跡を発掘する /
5 朱印船貿易絵図と考古学調査 /
6 「鎖国」後のホイアン /
7 現在のホイアンをめぐる日越関係
ガムラン ―― バリの音伝統と文化遺産(皆川 厚一)
はじめに ―― ガムランについて /
1 バリ芸能について /
2 ガムランの分類 /
3 伝承における諸問題
インド仏教聖地と文化遺産 ―― ボードガヤーの変容(前島 訓子)
はじめに /
1 仏教最大の聖地における世界遺産 /
2 「仏教聖地」の再建 ―― 歴史的建造物から生きている遺産へ /
3 ボードガヤーにおける不可触民集落の仏教改宗 /
4 おわりに
世界遺産としてのバーミヤン遺跡(前田 耕作)
はじめに /
1 歴史的古道 /
2 アレクサンドロス以後 /
3 東西大国の関心 /
4 クシャン朝からササン朝へ /
5 ササン朝以降 /
6 玄奘の道 /
7 今日のバーミヤン /
8 戦後のバーミヤン /
9 バーミヤンにおける戦後復興 /
10 保存作業の推進 /
11 経典の発見 /
12 壁画が明かす文化 /
13 転換期にさしかかる世界遺産バーミヤン
エスニックツーリズムと文化遺産 ―― 麗江とタナ・トラジャ
(藤木 庸介)
はじめに ―― 考察に先立つ「問」 /
1 エスニックツーリズムとは何か? /
2 中国雲南省麗江旧市街地 /
3 インドネシア ―― タナ・トラジャ /
4 まとめ
中国における「遺産」政策と現実との相克
―― ユネスコから「伝統の担い手」まで(菅 豊)
はじめに /
1 過熱する中国の文化ポリティクス /
2 文化保護と観光開発の地方政策 ―― 古鎮化 /
3 「遺産」制度から「伝統の担い手」へのインパクト /
4 古鎮化による非物質文化遺産の創造 /
5 まとめ
韓国の無形遺産保護政策の成立と展開(朴 原模)
はじめに /
1 「文化財保護法」の制定と行政体系の構築 /
2 無形文化財の指定制度の成立と展開 /
3 無形文化財の伝承教育体系の構築 /
4 無形文化財の保護・育成のための公的支援 /
5 無形文化財に関する新しい法律の制定 /
6 おわりに
「白川郷」で暮らす ―― 世界遺産登録の光と影(才津 祐美子)
はじめに /
1 白川村発見の経緯 /
2 「合掌造り」の保存と文化遺産化 /
3 世界遺産登録の影響 /
4 世界遺産「白川郷」を支えているもの /
5 生きている文化遺産のゆくえ
無形遺産条約と日韓の文化財保護法 ―― その対応の相違(岩本 通弥)
はじめに ―― 合わせ鏡としての日韓 /
1 二つの復元事業 ―― 佐渡奉行所とソウル南大門 /
2 文化財保護法の誕生と日韓類似の歴史的交錯性 /
3 乖離する日韓の文化財保護法 /
4 運用の異なる文化財の保護と管理 /
5 グローバル・ポリティクスの場としてのユネスコ ―― 熾烈化する
登載競争 /
6 おわりに ―― 理念と競争のはざまで
日本の文化財政策 ―― 無形文化遺産と文化的景観(菊池 健策)
はじめに ―― 日本の無形の文化財の保護制度 /
1 日本における無形の文化財の範囲 /
2 日本の文化財保護の歴史 /
3 文化財保護のシステム /
4 保護施策 /
5 無形文化遺産の保護に関する条約における無形文化遺産 /
6 文化的景観 /
7 まとめ
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