経済政策論 日本と世界が直面する諸課題
価格:3,520円 (消費税:320円)
ISBN978-4-7664-2262-7 C3033
奥付の初版発行年月:2016年01月 / 発売日:2016年01月下旬
▼政策課題から学ぶ経済政策論
財政、社会保障、労働市場、エネルギー、環境、農業など、日本経済の抱える課題について、政策の背後にある考え方を解説。現実の経済政策を評価する「目」を養うためのテキスト。
「経済政策論」とは、今日の市場経済のなかで政府がどのような政策を遂行することが望ましいのかを考える学問である。
本書は、理論で説明しやすい政策課題を順に取り上げるのではなく、2030年までを視野に入れ、そこへ向けた日本経済の重要課題(イシュー)の方から経済政策を論じるという新しいアプローチをとる教科書。
エネルギー問題、環境問題、少子高齢・人口減少社会における社会保障、世界的な分業構造の転換のなかでの産業政策、政策転換を迫られている日本農業、非正規雇用比率が上昇している労働市場などについて、理論的背景、制度的問題点、今後に向けた方向性をバランスよく解説している。
さらに、現実の政策決定を左右する多様な要素 ―― 安全保障、社会と経済の関係、行動経済学的側面など ―― にも言及し、読者である学生が幅広い思考に基づいて、現実の経済政策を自分自身で評価する目を養うことのできる新しい教科書を目指している。
瀧澤 弘和(タキザワ ヒロカズ)
中央大学経済学部教授。
1992年法政大学経済学部卒業、1997年東京大学大学院経済学研究科博士課程満期退学。東洋大学専任講師、同助教授、経済産業研究所フェロー、多摩大学准教授、中央大学准教授などを経て2010年より現職。
主な著訳書に、青木昌彦『比較制度分析に向けて 新装版』(共訳、NTT出版、2003年)、J・マクミラン『市場を創る ―― バザールからネット取引まで』(共訳、NTT出版、2007年)、J・ヒース『ルールに従う ―― 社会科学の規範的理論序説』(NTT出版、2013年)など。
小澤 太郎(オザワ タロウ)
慶應義塾大学総合政策学部教授兼大学院政策・メディア研究科委員。
1980年慶應義塾大学経済学部卒業、1985年慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。法政大学経済学部特別研究助手、同助教授、慶應義塾大学総合政策学部助教授などを経て2003年より現職。
主な著書に、『テレコミュニケーションの経済学 ―― 寡占と規制の世界』(共著、東洋経済新報社、1992年)、『公共経済学の理論と実際』(共編著、東洋経済新報社、2003年)、『総合政策学の最先端Ⅱ ―― インターネット社会・組織革新・SFC教育』(共著、慶應義塾大学出版会、2003年)、『理論経済学の復権』(共編著、慶應義塾大学出版会、2008年)など。
塚原 康博(ツカハラ ヤスヒロ)
明治大学情報コミュニケーション学部教授。
1982年中央大学商学部卒業、1988年一橋大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(経済学)。社会保障研究所(現、国立社会保障・人口問題研究所)研究員、明治大学短期大学教授などを経て、2004年より現職。
主な著書に、『地方政府の財政行動』(勁草書房、1994年)、『人間行動の経済学 ―― 実験および実証分析による経済合理性の検証』(日本評論社、2003年)、『高齢社会と医療・福祉政策』(東京大学出版会、2005年)、『医師と患者の情報コミュニケーション ―― 患者満足度の実証分析』(薬事日報社、2010年)など。
中川 雅之(ナカガワ マサユキ)
日本大学経済学部教授。
1984年京都大学経済学部卒業。経済学博士。建設省勤務、大阪大学社会経済研究所助教授、国土交通省勤務を経て、2004年より現職。
主な著書に、『都市住宅政策の経済分析 ―― 都市の差別・リスクに関する実験・実証的アプローチ』(日本評論社、2003年)、『公共経済学と都市政策』(日本評論社、2008年)、『人間行動から考える地震リスクのマネジメント ―― 新しい社会制度を設計する』(共編著、勁草書房、2012年)など。
前田 章(マエダ アキラ)
東京大学大学院総合文化研究科教授。
1988年東京大学工学部卒業。Ph.D. in Engineering-Economic Systems and Operations Research(スタンフォード大学)。東京電力株式会社勤務、慶應義塾大学総合政策学部専任講師、京都大学大学院エネルギー科学研究科助教授 / 准教授(この間、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官兼務)、東京大学教養学部・大学院総合文化研究科特任教授を経て、2014年より現職。
主な著書に、『資産市場の経済理論』(東洋経済新報社、2003年)、『はじめて学ぶ経営経済学』(慶應義塾大学出版会、2003年)、『排出権制度の経済理論』(岩波書店、2009年)、『ゼミナール 環境経済学入門』(日本経済新聞出版社、2010年)など。
山下 一仁(ヤマシタ カズヒト)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
1977 年東京大学法学部卒業。ミシガン大学行政学修士、同大学応用経済学修士。博士(農学)。農林水産省ガット室長、地域振興課長、農村振興局次長などを経て、2008年より独立行政法人経済産業研究所上席研究員、2010年よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
主な著書に、『国民と消費者重視の農政改革 ―― WTO・FTA時代を生き抜く農業戦略』(東洋経済新報社、2004年)、『食の安全と貿易 ―― WTO・SPS協定の法と経済分析』(編著、日本評論社、2008年)、『環境と貿易 ―― WTOと多国間環境協定の法と経済学』(日本評論社、2011年)、『日本農業は世界に勝てる』(日本経済新聞出版社、2015年)など。
(※[ ]内は担当章)
瀧澤 弘和[第1~3章、第8章、第10章、第11章、補論]
中央大学経済学部教授。
小澤 太郎[第12章]
慶應義塾大学総合政策学部教授兼大学院政策・メディア研究科委員。
塚原 康博[第4章]
明治大学情報コミュニケーション学部教授。
中川 雅之[第2章、第5章]
日本大学経済学部教授。
前田 章[第6章、第7章]
東京大学大学院総合文化研究科教授。
山下 一仁[第9章]
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
目次
第Ⅰ部 経済政策論への招待
第1章 経済政策論を学ぶ意味
1 経済政策論の教科書としての本書の特徴
2 政策課題中心で経済政策論を学ぶことの意義
3 今日の経済学研究の流れとの関連
4 本書の構成
Column 1 市場に対する新しい見方
第2章 現代日本経済が直面する諸問題
1 エネルギー問題、環境問題とわれわれの文明
1.1 経済活動とその長期的趨勢
1.2 エネルギーの重要性
Column 2 マルサス経済のメカニズム
1.3 エネルギー消費のゆくえ
1.4 エネルギー問題と環境問題
2 2つの老いと財政の役割
2.1 人口減少社会と高齢化
2.2 都市の老朽化
2.3 2つの老いが財政に与える影響
3 グローバル化の進展と日本経済
3.1 世界における日本経済の規模
3.2 ISバランスから見た世界経済
3.3 日本経済のISバランスの見通し
4 まとめ
第Ⅱ部 2030年への課題と政策
第3章 財政政策・金融政策をめぐるいくつかのトピック
1 マクロ経済学の変化
1.1 自然失業率仮説
1.2 その後の展開
2 財政政策をめぐる諸問題
2.1 ケインズ的な財政政策に対する見方
2.2 公債負担論
2.3 リカードとバローの中立命題
2.4 財政の持続可能性
3 金融政策をめぐる諸問題
3.1 マネタリズム的金融政策の展開
3.2 中央銀行の政策運営
3.3 金融政策における期待の役割
3.4 時間的不整合性の問題
3.5 インフレ目標制度と金融政策ルール
3.6 日本で行われた非伝統的金融政策
第4章 労働市場改革
1 労働に関する基本的な用語
2 標準的経済学の労働市場と日本の労働市場
2.1 標準的経済学から見た労働市場
2.2 日本の労働市場の特殊性
3 バブル経済崩壊前と日本的雇用慣行
4 バブル経済崩壊後と日本的雇用慣行
5 労働市場改革の方向性
5.1 年功賃金(生活給)から能力給への転換
5.2 性別役割分業からワーク・ライフ・バランスへの転換
5.3 新卒のみの一括採用から常時開いている労働市場への転換
5.4 厳格な解雇規制の緩和とセーフティネットの充実への転換
5.5 格差社会から格差の小さな社会への転換
Column 3 ピケティの格差論
第5章 社会保障をめぐる諸問題
1 社会保障の現在
1.1 社会保障関係費の推移
1.2 年金保険制度の仕組み
2 社会保障になぜ公共部門が関与するのか
2.1 情報の非対称性
2.2 再分配
2.3 パターナリズム
3 わが国の将来像から求められる年金制度
3.1 少子高齢化のインパクト
3.2 2つのタイプの年金制度と求められる姿
4 わが国の将来像から求められる医療・介護制度
4.1 少子高齢化のインパクト
4.2 これからの医療・介護制度
第6章 エネルギー問題と政策
1 技術的背景 ―― エネルギーの形態
2 技術的背景 ―― 電力の仕組み
3 石油と国際情勢
4 各国経済政策の変化
5 エネルギー政策の考え方
6 電気事業の特質
7 規制緩和と自由化の考え方
8 わが国の電気事業規制と改革
9 電源構成の考え方
10 環境問題の浮上
11 まとめ
第7章 環境問題と政策
1 環境問題の概観
2 地域環境問題と地球環境問題
3 気候変動問題の経緯
4 経済学の枠組みと環境問題
5 費用便益分析の考え方
6 気候変動政策のモデル分析
7 経済政策の必要性
8 政策手段
9 まとめ
第8章 産業に関する経済政策
1 はじめに
2 戦後日本の産業政策
3 産業の保護育成政策
3.1 政府は特定産業を育成することができるのか
3.2 幼稚産業保護はどのように正当化されるのか
4 産業構造の選択は一国に何をもたらしうるのか
5 産業調整政策について
6 現在の日本の産業構造
7 現在の日本の産業が直面する課題
7.1 キャッチアップからフロントランナーへ
7.2 比較優位構造の転換
7.3 市場と政府の補完性
8 まとめ
Column 4 各産業の成長寄与率の計算の仕方について
Column 5 国同士の競争という概念
第9章 農業政策
1 世界の食料・農産物市場の特徴と食料危機の可能性
2 農業保護の根拠
2.1 食料安全保障
2.2 食料自給率向上
2.3 多面的機能
3 人口減少時代における食料安全保障の難しさ
4 日本農業のポテンシャル
5 農業衰退の原因となった農業政策
5.1 価格政策
5.2 農地政策
5.3 農協
6 農産物貿易自由化と柳田國男
7 農政改革の方向
7.1 農地制度の改革
7.2 農協制度の改革
7.3 価格支持から直接支払いへ
7.4 海外市場の開拓と食料安全保障
第Ⅲ部 経済政策への視角
第10章 戦後日本の経済システムの理論的把握
1 比較制度分析のアプローチ
1.1 経済システムという経済の捉え方
1.2 制度の重要性
2 ゲーム理論と比較制度分析の諸概念
2.1 ナッシュ均衡
2.2 戦略的補完性、複数均衡、歴史的経路依存性
3 戦後日本の経済システムとその理論的把握
3.1 情報共有型コーディネーション・システムとしての日本企業
3.2 企業システム――J-均衡とA-均衡
3.3 日本企業の雇用システム
3.4 長期のサプライヤー関係
3.5 日本企業のコーポレート・ガバナンスとメインバンク・システム
3.6 銀行中心の金融システム
3.7 戦後日本の経済システムにおける政府・企業関係
4 おわりに
Column 6 アカロフの中古車市場のモデル
Column 7 繰り返し囚人のジレンマ
第11章 日本の経済システムはどこに向かうのか
―― システム変化の視点
1 経済システムの変化に関する観点
1.1 制度変化をもたらす要因
1.2 制度的補完性と経済システム改革
1.3 経済改革の歴史的事例
2 日本の経済システムの歴史的生成
2.1 1920年代までの日本の経済システム
2.2 戦時経済体制から戦後の経済システムへ
2.3 1980年代から今日まで
3 現代日本の経済システムが直面する環境変化
3.1 経済のグローバル化と世界的な分業構造の転換
3.2 キャッチアップ段階からフロントランナー段階への移行
3.3 ICTの発展とモジュール化
3.4 少子高齢・人口減少社会のインパクト
4 日本の経済システムの現状
4.1 金融市場サイドと労働市場サイド
4.2 日本企業のコーポレート・ガバナンスの多様化
5 現在の変化をどう見るのか
5.1 変化の途上にある日本の経済システム
5.2 株主とコア労働者によるレントの分け合い
6 おわりに
第12章 望ましい政策の実現がなぜ難しいのか
1 市場の失敗から政府の失敗へ
1.1 公共選択論とはいかなる学問か
1.2 公共選択論における政治家・官僚像
1.3 ゲームの解としての政府の失敗
2 政府の失敗から民主主義の失敗へ
2.1 合理的有権者の神話の崩壊
2.2 行動経済学の知見から得られる等身大の有権者像
3 新しい経済政策論の構築に向けて
Column 8 双曲型割引モデルについて
補論 マクロ経済学の要点整理
1 国民経済計算の諸概念
1.1 国民所得の諸概念とその関係
1.2 ISバランスの恒等式
1.3 名目と実質
1.4 成長率間の関係
2 45度線モデル
2.1 財市場の均衡と45度線モデル
2.2 財政政策の効果
3 IS-LMモデル
3.1 財市場均衡への利子率の導入とIS曲線
3.2 貨幣市場の均衡とLM曲線
3.3 貨幣の定義
3.4 貨幣供給のコントロール
3.5 貨幣需要
3.6 IS-LM分析とマクロ経済政策の効果
4 AD-ASモデル
4.1 IS-LMモデルにおける物価水準の操作とAD曲線
4.2 労働市場の考察とAS曲線
4.3 AD-AS分析
5 ケインジアンの体系と古典派の体系
6 経済成長モデル
6.1 成長会計
6.2 ソロー・モデル
索 引
著者紹介