大学出版部協会

 

―― “壮大な実験”の成果と限界金融政策の「誤解」

金融政策の「誤解」 ―― “壮大な実験”の成果と限界

四六判 304ページ 上製
価格:2,750円 (消費税:250円)
ISBN978-4-7664-2356-3 C3033
奥付の初版発行年月:2016年07月 / 発売日:2016年07月中旬
発行:慶應義塾大学出版会  
発売:慶應義塾大学出版会
この大学出版部の本一覧
在庫あり

内容紹介

第57回(2016年度)エコノミスト賞を受賞しました。

▼緩和一辺倒の政策手段から、いかに脱却するか

黒田東彦日銀総裁が遂行する「異次元緩和」政策は、目標に掲げたインフレ率2%の達成・維持と経済停滞からの脱却に至らないまま、「マイナス金利」という奥の手を導入した。この先の政策運営に暗雲が漂い始めているなか、日銀きっての論客と言われた筆者が、日銀を退職後、ついに沈黙を破って持論を開陳する注目の書!

日銀は何ができて、何ができないのか ――

著者プロフィール

早川 英男(ハヤカワ ヒデオ)

1954年生まれ
77年 東京大学経済学部卒業、日本銀行入行
83-85年 プリンストン大学大学院留学(MA取得)
2001年 日本銀行調査統計局長
07年 同行名古屋支店長
09年 日本銀行理事 を経て 
2013年 富士通総研経済研究所入所
現在 同研究所エグゼクティブ・フェロー

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序 章 QQEの実験から見えてきたもの
  QQEは「短期決戦」だった / 長期戦の戦局は悪化していった / マ
  イナス金利導入:起死回生策も不発 / QQEが明らかにしたこと、
  隠していること / 柔軟で透明な政策運営を

第1章 非伝統的金融政策:私論
 1 「普遍化」する非伝統的金融政策
  「全く次元のちがう金融緩和」の衝撃 / 非伝統的金融政策の分類 /
  非伝統的金融緩和の歴史:日銀、FRB、ECBのイノベーション / リ
  ーマン・ショックとFRB / 欧州中央銀行(ECB)の苦悩 / マイナ
  ス金利というイノベーション / 「非伝統的金融政策=量的緩和」で
  はない
 2 QQEの実験的性格
  QQEの効果を理論的に考える / マネタリーベースの増量 / 信用緩
  和 / 長期金利の押し下げ / 現実の金融市場はちがう? / 意味深
  長なバーナンキ発言
 3 非伝統的金融政策の倫理的側面
  嘘をつくことは許されるか / 国民負担の問題
 【コラム】 日銀の作戦:なぜQQEは「バズーカ」になったのか

第2章 QQEの成果と誤算
 1 QQEがもたらした成果
  (1)大幅な円安と株高
   野党党首だったから許された円安誘導発言 / 反転上昇の兆しが
   あった株価
  (2)デフレ脱却の実現
   「デフレ脱却」未達感の理由 / デフレ脱却の条件はクリアできた
   か
 2 QQE(アベノミクス)の誤算
  (1)「2年で2%」の未達成
   「インフレ目標2%」は妥当な水準 / 三つの留意点
  (2)経済成長率の低迷
   「長期低迷の主因はデフレ」とは限らない / 最大のサプライズは
   輸出の伸び悩み / 公共投資と駆け込み需要による攪乱
  (3)人手不足時代の到来
   うれしい誤算 / 賃金上昇の実態 / 労働集約型産業で人手不足が
   深刻化
 3 QQEが明らかにした課題:潜在成長率の低下
  上がらない生産性 / エレクトロニクス産業の不振が生産性押し下げ
  要因か / 需給ギャップの推計をめぐって / 資本ストックの不稼働
  問題 / デフレ脱却は潜在成長率低下のおかげ?
 4 ハロウィン緩和の「誤射」
  不可解な緩和決定 / 「誤射」の結末:トリクル・ダウン戦略の破
  綻 / ハロウィン・バズーカはミッドウェー海戦だったのか
 【コラム】 人口動態、過剰貯蓄とデフレ:「長期停滞論」再考

第3章 「リフレ派」の錯誤
 1 「リフレ派」的思考法:主観主義・楽観主義・決断主義
  「リフレ派」を定義する / 「リフレ派」の主張は整合的か / リフ
  レ派の困った議論①:後出しジャンケン / リフレ派の困った議論
  ②:精神論
 2 期待一本槍の政策論:主観主義の錯誤
  リフレ派の大本はマネタリズム / 自然利子率の概念 / テイラー・
  ルール / マネタリーベースを金融調節の軸に据えるのは的外れ /
  資産価格への影響を考える
 3 さまざまな「期待」:市場と企業・消費者の温度差
  円安・株高のはじまりは外国人投資家 / 金融市場と実物経済の非対
  称性
 4 成長余力の過大評価:楽観主義の錯誤
  「日本経済は強い」という主張の根拠はどこにある? / リフレ派の
  空想的楽観論
 5 「出口」なき大胆な金融緩和:決断主義の錯誤
  「出口」をいつまでも意識しないでよいのか / 日本に潜む「出口」
  までの困難 / ジリ貧かドカ貧か
 【コラム】 マクロ政策で潜在成長率の引き上げは可能か

第4章 デフレ・マインドとの闘い
 1 「デフレ・マインド」とは何か
  企業や家計の消極的な行動様式 / 賃上げに及び腰の労働組合 /
  「学習された悲観主義」という日本病 / 三度の金融危機が慎重化を
  促進
 2 「日本的雇用」とデフレ・マインド
  いまだ「世紀末の悪夢」から抜け出せず / メンバーシップ型雇用の
  呪縛 / イノベーションの波に乗り遅れる日本企業
 3 物価の「アンカー」
  「錨」(アンカー)としての社会の基底に根づくもの / 安倍政権の
  逆所得政策
 4 マネタリーベースの誤解
  マネタリーベースの意味が大きく変わった / 通貨発行益を考える /
  ヘリコプター・マネー?
 5 QQEの行き詰まり
  市場も怪しい雲行きに気づき始めた / 国債大量買入れの限界
 6 短期決戦から持久戦へ:マイナス金利の導入
  金利政策への回帰 / 政策の枠組み変更の意義
 7 マイナス金利政策の功罪
  マイナス金利政策の効果と副作用 / マイナス幅拡大の制約 / マイ
  ナス金利付きQQEの問題点
 【コラム】 キャリー・トレードとしての量的緩和

第5章 「出口」をどう探るか
 1 「出口」の必須条件:財政の維持可能性への市場の信認
  出口で何が起こるのか / 長期金利上昇と金融システムの安定性 /
  欧州債務危機の教訓 / 「出口」の成否を決めるもの
 2 「成長頼み」の財政再建計画
  あまりに遠い財政健全化 / 債務残高・名目GDP比率について / 税
  収弾性値をめぐる議論
 3 経済成長優先の幻想
  潜在成長率の低下がネックとなる / 消費増税の影響評価
 4 財政健全化の柱は社会保障改革
  消費税率アップだけでは財政健全化は達成できない / 社会保障改革
  の本丸は医療・介護分野 / 成長戦略の役割
 5 QQEは市場を殺す政策
  国債を国内貯蓄だけで吸収できなくなる日が近づいている / 市場か
  らの警告が聞こえない / マイナス金利政策への純化を
 6 市場とのコミュニケーションの再建を
  日銀の発信情報はもう信じられない / ピーターパンの誤解:「王様
  は裸だ!」
 【コラム】 金融抑圧は可能なのか

あとがき
参考文献


一般社団法人 大学出版部協会 Phone 03-3511-2091 〒102-0073 東京都千代田区九段北1丁目14番13号 メゾン萬六403号室
このサイトにはどなたでも自由にリンクできます。掲載さ>れている文章・写真・イラストの著作権は、それぞれの著作者にあります。
当協会 スタッフによるもの、上記以外のものの著作権は一般社団法人大学出版部協会にあります 。