絆の環境設計 21世紀のヒューマニズムをもとめて
価格:1,980円 (消費税:180円)
ISBN978-4-7985-0126-0 C0052
奥付の初版発行年月:2014年03月 / 発売日:2014年03月中旬
東日本大震災以降,国内では一時期「絆」という言葉が流行り言葉のようにもてはやされた。1960年代におけるある種の近代文明の危機への反省から生まれた芸術工学と環境設計は,いかなる「絆」を求め,いかにして緑地や都市や建築といったフィジカルなものの整備を通してその「絆」をデザインし得るのか。被災者と復興ボランティアの絆,近世の天皇と町人の絆,建築家と施主・施設利用者の絆,作曲家と聴衆の絆,地域の教会と信徒の絆など,古今東西の思想や事例をもとに考える。
本書は,九州大学芸術工学研究院の環境設計学科の教員たちによる市民講座の講義録である。
目次
はじめに
第1部 アクティビティを共有すること
バングラデシュの共同水源
1 絆とは?
2 バングラデシュの共同利用水源
3 ソーシャルキャピタルとしての絆
建築ワークショップ
1 建築ワークショップでよくある質問
2 建築ワークショップの問題児
3 創作上のジレンマ
4 ワークショップの実践例
5 建築計画の研究として
6 建築ワークショップのポエチカ
7 建築ワークショップの理解へ向けてのヒント
8 「建築ワークショップ」設計者・ユーザーのための六ヵ条
建築への、人への想像力としての絆
1 『星の王子さま』と環境設計
2 建築プロジェクトを通して
3 さまざまなスケールがもたらす違い
4 ひとりひとりの存在の意味
ダイアローグ1
1 「絆」をつくれるか
2 バングラデシュにおける人の「つながり」
3 コミュニティ概念の再検討
4 不在の他者への想像力
第2部 芸術はいかに近代社会における絆であるか
矛盾の共生としてのモニュメント
1 原広司と均質空間論
2 アンリ・ルフェーブルと「空間の生産」
3 デヴィッド・ハーヴェイ
4 二月革命
5 産業家もすこしはいいことをした
6 第二帝政とパリ=コミューン
7 サクレ=クール
一九世紀ドイツにおける音楽
1 芸術が人びとをつなぐ
2 ヴァーグナーとハンスリック
3 音楽の聴き方はこれからどう変わるか
「絆」をこえる絆の可能性
1 「絆」について
2 ギブ・アンド・テイク
3 ジャック・デリダの「歓待」
4 個人のフォルム
ダイアローグ2
1 無関係としての絆
2 拘束しない絆
3 絆にかわる絆
第3部 ともに自然と向かいあうこと
災害時にみる自然と地域の絆
1 宮城県南三陸町志津川
2 岩手県釜石市片岸町
3 福岡県八女市黒木町
4 災害復興という環境設計へ
地域におけるバイオマスの利活用
1 「絆」からみる環境の制御 近代と前近代
2 アダム・スミスのコミュニケーション 「絆」の解体から始まる「絆」
3 ハーバーマスのコミュニケーション 現代における環境制御と「絆」
4 バイオマス成功の鍵を握る地域社会の力
5 生ごみ資源化の町、福岡県大木町における住民参加
6 地元企業の「絆」がつくるバイオマスタウン 岡山県真庭市
7 人と自然を徹底して活かす 高知県檮原町
8 市民のコミュニケーション力と環境デザイン力
ダイアローグ3
1 伝統と近代を縦断する絆
2 躍動する公共圏をもとめて
3 日本社会の困難
4 一極集中のなかで
第4部 文化財をいかに共有するか
教会建築の営繕をめぐって
1 「営繕」について
2 教会堂営繕の具体例
3 文化財制度と営繕
4 文化財価値としての営繕活動
近世の天皇と町のつながり 安政度内裏遷幸を例として
1 はじめに
2 都市・京都
3 安政度内裏と遷幸
4 遷幸の背景
5 遷幸と町
6 おわりに 絆と歴史
文化財をめぐる町の矜持
1 地方の小都市をめぐる文脈・矜持・紐帯
2 さまざまなカタストロフィ
3 学生たちに伝えた「矜持」の理念
4 文脈を甦らせ未来につなげてゆく
ダイアローグ4
1 宗教、貴人についてのコメント
2 北欧建築における引き算のデザイン
3 文化財はなにを見せるのか
4 文化財制度のあゆみとこれから
おわりに