カンボジア農村に暮らすメマーイ(寡婦たち) 貧困に陥らない社会の仕組み
価格:4,070円 (消費税:370円)
ISBN978-4-8140-0062-3 C3336
奥付の初版発行年月:2017年02月 / 発売日:2017年02月上旬
寡婦の貧困は現代の深刻な問題である。しかし,東南アジアでは寡婦が特に貧困だとはいえない。もともと東南アジアには貧困を顕在化させない経済関係があったが,急速な市場化の中でそうした仕組みは消滅したとされる。にもかかわらずなぜ寡婦はなぜ守られるのだろう。緻密なフィールドワークと女性の視点による参与的分析で,先進国では崩壊しつつある再生産の領域こそが,人々の安全を保障する核となることを示す。
佐藤 奈穂(サトウ ナオ)
金城学院大学 国際情報学部 講師
大阪府生まれ
2003年 龍谷大学大学院 経済学研究科 修士課程修了 修士(経済学)
2010年 京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科 博士後期課程修了 博士(地域研究)
2010年 京都大学東南アジア研究所 機関研究員
2012年 京都大学東南アジア研究所 研究員
2015年より現職
共著書
『(講座 生存基盤論3)人間圏の再構築―熱帯社会の潜在力』(2012)京都大学学術出版会.
The Family in Flux in Southeast Asia: Institution, Ideology, Practice. Silkworm Books, Kyoto University Press. 2012.
目次
口絵
序 アジアの豊かさを想う―夫を失くしたカンボジア女性たち「メマーイ」の実態
第1章 夫を失くした女性たちは貧困か?
1.夫を失くした女性たちの貧困
2.東南アジア農村の貧困に陥らない仕組み
2.1 東南アジア農村の「貧困の共有」と互助性
2.2 カンボジア農村の互助性―カンボジアの農村社会は個人主義的か?
2.3 ルースだが貧困が顕在化しない社会
3.開発経済論における夫を失くした女性たちの貧困
3.1 発展途上国を対象とした貧困研究
3.2 貧困とは何か
3.3 貧困ターゲティングと女性の貧困
3.4 リスクに対する脆弱性
4.アジアにおける夫を失くした女性たち
5.東南アジア女性の地位と役割
5.1 東南アジアの女性たち
5.2 カンボジアの女性たち
6.カンボジア農村に暮らすメマーイ分析の枠組み
6.1 資産・所得・ケアの3つの視点
6.2 東南アジアの急速な変化の中で
6.3 本書の構成
【コラム “かわいそう”の背後に―私の中の〈メマーイ〉①】
第2章 カンボジアの社会・経済と調査村の概要
1.カンボジアの地勢と気候
2.経済状況
3.人口
3.1 カンボジア内戦と混乱の歴史
3.2 国全体の人口の男女比と婚姻状況
4.教育(学校制度)
5.世帯・親族・婚姻
5.1 世帯
5.2 親族
6.調査村の立地
7.調査方法
8.調査村の人口
8.1 労働力
8.2 教育状況
9.家事労働における女性の役割
10.調査村の婚姻・離婚・再婚
11.調査村のメマーイ
第3章 資産所有と相続による資産の獲得
1.土地制度と土地分配
1.1 土地所有制度の変遷
1.2 T村の水田面積の変化
2.地価と稲作による収益
2.1 近年の地価の上昇
2.2 稲作による収益
3.土地の世帯内における所有認識
4.農地(水田)の所有と獲得経緯
4.1 所有状況
4.2 獲得経緯
5.屋敷地の所有と獲得経緯
5.1 所有状況
5.2 獲得経緯
6.牛・水牛の所有と獲得経緯
6.1 所有状況
6.2 獲得経緯
7.離別・死別時の資産分割
7.1 東南アジアにおける離別による財産分割
7.2 T村における離別による財産分割
7.3 死別後の夫婦の財産
8.資産の分与・相続
8.1 子への分与・相続
8.2 屋敷地の相続
8.3 水田の分与・相続時期
8.4 牛・水牛の分与・相続時期
9.小括―娘として,妻として獲得される土地資産
【コラム 幸せな家族像が強いるもの―私の中の〈メマーイ〉②】
第4章 所得と就業構造
1.メマーイ世帯の労働力
1.1 世帯構成
1.2 世帯周期
1.3 世帯人数
1.4 有業者と被扶養者数
1.5 メマーイ世帯の有業者
1.6 世帯内の家事労働力
2.メマーイの生業変化と就業選択
2.1 T村の生業
2.2 T村の所得構成
2.3 村民の就業選択
2.4 兼業状況と性別による就業選択の違い
2.5 年齢による就業選択の違い
2.6 経済環境の変化と女性の生業の変遷
2.7 メマーイ世帯の再編成と生業変化
2.8 メマーイ世帯の生業選択
2.9 幼い子を抱える母子世帯
3.小括―世帯を超えたつながりとメマーイの生業選択
第5章 子どもと老親のケア
1.子の移動に関する先行研究
2.子の世帯間移動
2.1 子どもの生活
2.2 子の世帯間移動の分類
2.3 養育責任を伴う移動
2.4 養育責任を伴わない移動
2.5 移動が行われるボーン・プオーンの範囲とその特徴
2.6 メマーイ世帯の子の世帯間移動
3.高齢者の世帯間移動
3.1 移動する高齢者
3.2 高齢者夫婦の別居
3.3 頻繁な移動
3.4 メマーイ世帯の高齢者の世帯間移動
4.小括―共有される子どもと高齢者のケア
【コラム 母を探す旅―私の中の〈メマーイ〉③】
第6章 メマーイの暮らし
1.ボーン・プオーンの互助関係と子の移動の事例
2.姉妹のメマーイの事例
3.メマーイの一生
3.1 事例①:73歳のメマーイ
3.2 事例②:50歳のメマーイ
3.3 事例③:47歳のメマーイ
終章 生を支える社会の仕組み
1.所得貧困
1.1 女性に開かれた経済環境
1.2 労働力の確保
1.3 資産の所有
2.リスクに対する脆弱性
2.1 資産権利の確保
2.2 リスクに対応するボーン・プオーンのネットワーク
3.親族ネットワークによる互助・支援機能
4.カンボジア農村の柔構造性
5.貧困と生を支える基盤
6.貧困に陥らない仕組みの限界
おわりに
参考文献
索 引