地域研究叢書34
娘たちのいない村 ヨメ不足の連鎖をめぐる雲南ラフの民族誌
価格:4,400円 (消費税:400円)
ISBN978-4-8140-0143-9 C3336
奥付の初版発行年月:2018年04月 / 発売日:2018年04月中旬
一人っ子政策と漢民族特有の男児優遇の結果,中国では男女比が大幅に歪み,その歪みを背景に,少数民族の暮らす地域から文字通り「女性が消えて」いる。正式な求愛や仲介による結婚はもちろん,時に自ら望んで,時に騙されて,未婚の娘や若い妻たちが忽然と姿を消す。漢族男性との豊かな結婚生活の夢,都会への憧れ,貧しさ故の娘達の幻想と幻滅の一方,深刻な嫁不足に悩み,なんとか結婚相手を確保しようと奔走する男たち。彼らに寄り添いながらもこうした現実を冷静に記述することで,女性やマイノリティの他者化を乗り越え,既存研究が取りこぼしてきた女性の送り出し社会の現実を炙り出す。日本にも訪れるかもしれない「女性のいない社会」への警告と準備をも促す意欲作。
堀江 未央(ホリエ ミオ)
1983年大阪府生まれ。2015年,京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了,博士(地域研究)。京都大学東南アジア研究所連携研究員を経て,現在,名古屋大学高等研究院特任助教。
主な著作に,「中国雲南省ラフ族女性の遠隔地婚出―ラフ社会における結婚との関わりに着目して」『東南アジア研究』52巻1号(2014年),「ヨメ不足の連鎖がもたらす女性の移動と越境―中国・ミャンマー国境域におけるラフ女性の事例から」『旅の文化研究所研究報告』No. 26(2016年)など。
目次
若い女性はどこ? ―「蜂を焼いた村」で
第1章 女性が流出する社会
1 流動する中国と〈若い女性がほぼいない社会〉
2 女性の移動を生み出す社会、社会の編み目を移動する女性―研究史に見る〈構造―個人〉の構図
3 人の所在に注目した送り出し社会への参与的アプローチ―本書の視座
4 「ヘパとポイする」(遠隔地婚出)/ヨメ探し漢族男性―本書で用いる基本概念
5 本書の構成
第2章 ラフ村落の空間秩序と婚姻慣行
1 ラフとは
2 村/家の空間秩序
3 結婚がつなぐ関係性
第3章 遠隔地婚出の登場と変遷
1 現代中国における女性の婚姻移動
2 雲南省における婚出状況
3 P村における女性の遠隔地婚出の変遷
4 仲介者の役割
第4章 遠隔地婚出をめぐる村人たちの語り
1 遠隔地婚出の時期とその特徴的な語り口
2 女性の婚出をめぐる責任と交渉
3 不可解な婚出と性愛呪術の語り
4 遠隔地婚出をめぐる原因・意図・エージェンシー
第5章 逡巡するラフ女性たち
1 漢族の村での暮らし
2 婚出先での女性たちの葛藤
3 「里帰り」か「逃げ帰り」か? 帰ってくる女性たち
4 逡巡から、頻繁な心変わりへ
第6章 女性の属する家はどこか
1 父母にとっての遠隔地婚出女性の所在
2 ラフ女性の戸籍をめぐる交渉
3 未婚女性の配偶者選びと性規範からの逸脱
4 結婚証のジレンマ―ラフ同士の結婚の締結をめぐる交渉
5 国家制度と女性の「ハイブリッド」化
第7章 結論 移動する女性の主体と所在
1 移動する女性についての語りと場 エスノ・エージェンシー論に向けて
2 ラフにおける人格―魂・家・結婚
3 秩序に編み込まれる国家制度
4 未来へ―終わりに
参考文献
謝辞
索引