ユートピアの記憶と今 映画・都市・ポスト社会主義
価格:3,740円 (消費税:340円)
ISBN978-4-8140-0164-4 C1036
奥付の初版発行年月:2018年06月 / 発売日:2018年06月上旬
かつての「抑圧的」な社会主義体制に対する強烈な批判と同時に存在する、過去の時代への切実なノスタルジア――「社会主義の記憶」をめぐる現代ポーランドの錯綜した言説を、いかにときほぐすか? 社会主義時代の映画表現と、社会主義建設の象徴とされた製鉄都市ノヴァ・フータをめぐる人々の語りの中に、そのヒントを探る。「ユートピアの記憶」を鍵にポーランドの過去と現在に寄り添うことで、後期近代の矛盾に晒された人々の、失われたものへの追憶と未来への希望をめぐる心の奥底に迫る。
菅原 祥(スガワラ ショウ)
京都産業大学現代社会学部講師
1981年生まれ。2005年から2007年まで, ポーランド政府奨学金留学生としてヤギェウォ大学(クラクフ市)に留学。2012年, 京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員(PD), 開智国際大学リベラルアーツ学部講師などを経て, 2017年より現職。博士(文学)。
主要論文 「社会主義文化における非行少年へのまなざし―『雪どけ』期のポーランド映画における『ちんぴら』像の検討から」(『ソシオロジ』第53巻3号, 2009年), 「ポスト社会主義期における社会主義的『ユートピア』の記憶と現在―ポーランド, ノヴァ・フータ地区を事例として」(『社会学評論』第64巻1号, 2013年), 「労働英雄を思い出すということ―アンジェイ・ワイダ監督『大理石の男』を中心に」(『スラヴ学論集』第18号, 2015年)など。
目次
はじめに 社会主義の過去を「掘り返す」
第1章 社会主義の過去を現在において考えるということ
1 「全体主義」か「古き良き社会主義」か?
2 第1部への覚え書き
(1)「全体主義批判」を超えて
(2)戦後ポーランド小史――「雪どけ」への着目
(3)映画――「もっとも重要な芸術」
3 第2部への覚え書き
(1)ポスト社会主義と後期近代の受苦
(2)場所と記憶――計画都市における社会主義の記憶とポスト社会主義
4 ユートピアという視点の導入
(1)ポスト・ユートピア研究の可能性
(2)ユートピアからポスト・ユートピアへ
5 各章の構成と内容
第1部 ポーランドの雪どけと社会的想像力――映像文化を中心に
第2章 ポーランドの「雪どけ」――社会的想像力の変容
1 「スターリニズム」から
2 社会主義的近代と「自己」
3 「雪どけ」――「意味づけられない」領域の発見
4 「女生徒の日記」――私的な「声」の侵入
5 「雪どけ」の社会的想像力――「性愛関係」と「少年非行」
第3章 「雪どけ」と性愛の表象――映画『地下水道』を中心に
1 はじめに――性愛へのまなざし
2 社会主義リアリズムと映画
(1)社会主義リアリズムと私的領域――欲望の置き換えと働く女の形象
(2)ユートピアと性愛
3 雪どけと性愛関係
(1)ポーランド派と『地下水道』――大義と性愛
(2)「大義」と「性愛」をえぐって――観客の反応から
4 性愛への「まごつき」――「性の解放」の隘路
5 性愛関係の表象と「ポスト・ユートピア」
第4章 「雪どけ」と非行少年へのまなざし――映画における「ちんぴら」像
1 はじめに――若者と近代
2 スターリニズムから「雪どけ」へ
(1)スターリニズムと若者、「ちんぴら」
(2)「雪どけ」――「ちんぴら」への新しいまなざし
(3)ドキュメンタリー映画と「ちんぴら」
3 ドキュメンタリー映画――非行の社会学的説明
(1)気をつけろ、ちんぴらだ!
(2)空白地帯の人々
(3)二つのまなざしの錯綜
4 長編映画――『夜の終わり』と『夢遊病者たち』
5 「雪どけ」から「小康状態」へ
第5章 ドキュメンタリー映画と「現実」――ユートピアとポスト・ユートピア
1 はじめに
(1)ドキュメンタリー映画と社会主義のユートピア像
(2)「構築されたドキュメンタリー」と「想像された現実」の違い
2 社会主義リアリズムのドキュメンタリー映画(一九四九ー一九五五)
(1)「生産映画」と社会主義建設のユートピア像
(2)短編映画『針路、ノヴァ・フータ!』――「新しい製鉄所」とユートピア的想像力
(3)「優先された現実」は何だったか
3 「雪どけ」と「黒いシリーズ」(一九五五〜)
(1)「黒いシリーズ」と現実の暴露
(2)短編映画『居住の場所』――ディストピアとしてのノヴァ・フータ
(3)「暗部の暴露」とユートピアのゆらぎ
4 「新たな現実」と創造的な想像力
5 「雪どけ」とポスト・ユートピア
第2部 ポスト社会主義時代におけるユートピアの記憶――「ユートピア都市」の過去と現在
第6章 社会主義的ユートピアの理想と現実――製鉄都市ノヴァ・フータの歴史から
1 はじめに――ノヴァ・フータと「社会主義建設」
2 ノヴァ・フータ概要
3 「社会主義建設」のプロパガンダと若者
4 混沌と犯罪の町
5 近代化と生活レベルの上昇
6 反体制運動から体制崩壊へ――ユートピアの終わり
7 ユートピアへの熱望、ユートピアへの幻滅
第7章 ポスト社会主義時代におけるユートピアの記憶――ノヴァ・フータでの調査から
1 はじめに――ノヴァ・フータの現在
2 ノヴァ・フータの記憶とポスト社会主義――住民の語りから
(1)Rさんの語り――社会主義体制と生活の向上
(2)Mさんの語り――「団地」の暖かなコミュニティ
(3)Fさんの語り――社会主義体制下の文化振興
3 記憶と表象――ノヴァ・フータへの錯綜するまなざし
4 ある映画製作の実践から
終章 新たなユートピア的想像力の復権に向けて
1 総括――「雪どけ」のポーランドを現在と重ね合わせるという試み
2 結論――ユートピアから未来へ
参考文献
あとがき
索引