環境マインドで未来を拓け いのちをまもる工学の60年
価格:2,200円 (消費税:200円)
ISBN978-4-8140-0177-4 C1051
奥付の初版発行年月:2018年08月 / 発売日:2018年08月下旬
◉山極壽一氏(京都大学総長)推薦
「環境××学」というような,環境の文字を冠した研究が流行する昨今,自分たちこそ体を張って<環境マインド>を育んできたと自負する人たちがいます。かつての衛生工学の流れをくむ,環境工学者たちです。文字通り「生を衛る」(いのちをまもる)学問として誕生し,時には,危険な物質を垂れ流す者たちと身を張って闘いながら,安全・安心な社会基盤を作ってきた人々です。中でも京都大学の環境工学は,大気・水問題から放射能汚染まで,すべての環境問題を扱える,唯一無二の研究・教育システムを作り上げました。机上で,評論家的に環境を論じるのではない,現場で問題と格闘し解決の術を探ってきた科学者たちの心意気を,この本から掴んでください。
目次
環境工学に若い力を ─ 刊行にあたって
第1部
座談会 産・官・学それぞれの中での挑戦
〈環境マインド〉を育み,社会に実装する
環境工学は「不人気学問」か?
行政マンとして,難しいが社会に活かせる環境工学
環境工学という〈マーケット〉は確実に広い
問題への「予防接種」のように効いてくる環境工学
「終わった分野に何故?」という変化球で考える
公害国家からの脱却をリードした環境工学出身者
社会(マーケット)の要求と環境工学
「環境オリエンテッド」の中で,環境工学の特色を出す
現実の問題に,科学的根拠を持って向き合う力
「環境屋で生きるんだ」という意欲をどう集めるか
学部時代に基礎的トレーニングを積むことの大切さ
コラム 溶融
コラム 上下水道のアセットマネジメントと PPP/ PFI
コラム 水循環基本法
第2部
人は環境問題とどう闘ってきたか
環境工学の歴史と課題
はじめに─ 衛生(命を衛る)の思想
1 人類史の中で捉える環境工学の課題
1-1 産業革命による人の生の大変革
1-2 産業革命がもたらす環境変動
1-3 地球規模の環境問題と,それを解決する国際社会の取り組み
1-4 脱炭素革命のはじまりとSDGs達成に向けた課題― これからの地球環境問題と国際社会
ティータイム 日本のCO2排出量
コラム 社会・科学・地球環境政策の橋渡しをする環境システム学
2 日本の環境問題との闘い
2-1 日本における〈環境問題と政策〉の推移
2-2 大気汚染,騒音・悪臭の歴史
2-3 水質汚濁・土壌汚染
2-4 廃棄物
2-5 放射能汚染
2-6 地球規模での環境問題
コラム 膜ろ過
ティータイム 大気中のCO2濃度
3 京都大学衛生工学科の設立とその後の展開
3-1 衛生工学科の創設
3-2 学部教育プログラムの変遷
3-3 教育研究組織の変遷
3-4 大学院教育プログラムの変遷
3-5 社会的活動と卒業生の動向
3-6 国際化と国際協力
第3部
Invitation from Pioneers
先達からの招待状
〈強制〉から生まれる新分野への挑戦 [末石 冨太郎]
大転換期に環境問題を研究する者の使命 ─ 弱者優先の技術開発と自然共生文明の創出 [内藤 正明]
世界の廃棄物処理の潮流 [田中 勝]
私の『環境学』講義 [稲場紀久雄]
私立大学での研究・教育に従事して [山田 淳]
エコトキシコロジーの世界へ [青山 勳]
将来世代に優しい社会・環境を [笠原 三紀夫]
初心忘れがたし [松井 三郎]
PC から離れてフィールドに出よう,通説も疑ってみよう,環境は変わる [海老瀬潜一]
生物工学のすすめ ─ 個人史から [塩谷 捨明]
変容する課題に惑わされない武器をもつ─ 多様な学問の知見という拠り所 [芝 定孝]
環境放射能安全研究に従事して [福井 正美]
衛生工学研究の真髄と本懐 [森澤 眞輔]
循環型社会研究の経験から再考する持続可能性─ 環境学の変遷と課題 [盛岡 通]
生命危機の総合的な把握と管理─ 私の研究史と水環境の将来 [河原 長美]
水質保全を担う環境工学 [津野 洋]
社会システム論としてみた環境問題と環境学の未来 [岡田 憲夫]
快適環境研究と途上国での技術実装─ 一卒業生の経験と若い力への期待 [河村 清史]
時を超えて人類に貢献する環境工学─ 断片的な研究の記憶から [小山 昭夫]
衛生工学の面白さに魅かれた人生 [松下 潤]
難しくて面白い環境技術の世界 [竺 文彦]
研究と技術を最適化する若い力への期待─ 水環境に関する水工学的アプローチの経験から [松尾 直規]
閃きと感動─ 渦の発生数研究に取り組んで [八木 俊策]
4大学を渡り歩いて [石川 宗孝]
工学のコアとしての環境工学 [松岡 譲]
これから環境学を学ぶ若い人たちへ─ 環境学を開発途上国で実践する [酒井 彰]
大きな責任と学問的妙味 [細井 由彦]
公害・環境問題の社会・経済性 [若井 郁次郎]
環境工学への誘い [市川 新]
リスクマインドが開く環境工学の明日 [内山 巌雄]
持続可能な環境の創成を担う [中西 弘]
第4部
研究室紹介
京都大学の環境工学の現在
循環型社会における,廃棄物の有効利用および適切な管理を目指して [環境デザイン工学講座]
環境からの健康リスクの低減を求めて [環境衛生学講座]
健全な水環境の保全と創造を目指して [環境システム工学講座 水環境工学分野]
ひとと環境の健康・安全を科学する [環境システム工学講座 環境リスク工学分野]
統合評価モデルを用いた地球環境シミュレーションと政策提言
[環境システム工学講座 大気・熱環境工学分野]
都市・地域への水供給問題を通じ,生を衛る「衛生」理念の実現へ向けて
[環境システム工学講座 都市衛生工学分野]
分子レベルから流域レベルまでの環境質管理を研究
[物質環境工学講座 環境質管理分野(流域圏総合環境質研究センター)]
環境質の向上と評価,環境汚染の防止と環境の修復のために
[物質環境工学講座 環境質予見分野(流域圏総合環境質研究センター)]
廃棄物から社会を視る,その知見を循環型社会形成へ
[物質環境工学講座 環境保全工学分野(環境科学センター)]
安全で安心な職場を支える新技術を探究する [物質環境工学講座 安全衛生工学分野(安全科学センター)]
放射能等の汚染物質の環境動態・安全評価・環境浄化の研究
[物質環境工学講座 放射能環境動態分野(複合原子力科学研究所)]
放射性廃棄物管理に関する工学的研究 [物質環境工学講座 放射性廃棄物管理分野(複合原子力科学研究所)]
水環境の保全・管理,物質の循環利用の促進,省エネルギー産業の構築
[地球環境学堂 地球親和技術学廊 環境調和型産業論]
大気環境科学と L C T に基づく人間活動の環境影響評価
[エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 エネルギー環境学分野]
〈環境マインド〉のルーツと京都の知の伝統─ あとがきに代えて
索引
編者略歴