生態人類学は挑む SESSION6
たえる・きざす
価格:3,520円 (消費税:320円)
ISBN978-4-8140-0440-9 C3339
奥付の初版発行年月:2022年12月 / 発売日:2022年12月上旬
現代の「人間」の輪郭を浮かび上がらせる試みは、人類が葛藤のなかで培った「耐える」力を探ることから始まる。絶滅の危機にある種と感染症との闘い、焼畑農耕による森の破壊と再生の連関、変動する島環境のなかで移住によって命をつなぐ人々——積み重ねてきた知恵を足場に自らを改変するダイナミズム。
伊藤 詞子(イトウ ノリコ)
京都大学アフリカ地域研究資料センター研究員.京都大学大学院理学研究科博士課程修了,博士(理学).主な著作に,「第7章 共存の様態と行為選択の二重の環―チンパンジーの集団と制度的なるものの生成」(『制度―人類社会の進化』京都大学学術出版会,2013年),「第7章 出会われる「他者」―チンパンジーはいかに〈わからなさ〉と向き合うのか」(『他者―人類社会の進化』京都大学学術出版会,2016年)などがある.
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
序 [伊藤詞子]
第Ⅰ部 アウター・ワールド再考
第1章 環境の生成と消滅—人新世とエスノプライマトロジー[足立 薫]
はじめに
1 生態と人類の間
2 霊長類学の「約束」
3 アフリカから香港へ
おわりに
第2章 アグロフォレストリーとともに生きる—チャ・コーヒー・カカオ栽培の事例より[四方 篝,藤澤奈都穂,佐々木綾子]
はじめに
1 東南アジア・タイ北部のチャ栽培
2 中米・パナマ中部のコーヒー栽培
3 中部アフリカ・カメルーン東南部のカカオ栽培
4 考察―3 つのアグロフォレストリーに通底する特徴
第3章 タンザニア農村における家畜飼養のこれから—家畜感染症の流行に学ぶ[勝俣昌也,神田靖範,伊谷樹一]
1 家畜の大量死
2 牛耕の重要性
3 2016年のウシの大量死
4 ひろがるブタ飼養
5 2017年ブタの大量死
6 牛耕とホム
7 アフリカ農村でできること
第Ⅱ部 反転するインナー・ワールドとアウター・ワールド
第4章 つながりを維持し,葛藤を引き受ける—フィジー・キオア島における変化にたえることの歴史と現在[小林 誠]
はじめに
1 自然の歴史と文化の歴史
2 別の島へ
3 新たなつながりと新たな葛藤
4 ツバルとフィジーの間で
5 さらなる変化
6 変化にたえる
おわりに
第5章 霊長類の社会変動にみるレジリエンス[竹ノ下祐二]
はじめに
1 群れの「危機」と個体の葛藤
2 「危機」における個体の創造的行動
3 人工哺育された飼育ゴリラの群れ復帰
まとめ
第6章 「互恵」と「共感」にもとづく正義の実現—共同体ガバナンスと葛藤解決における普遍的道徳基盤のはたらき[竹川大介]
1 はじめに 葛藤をのり越える
2 調査方法と地域概要
3 葛藤の事例
4 葛藤解決あるいは正義の実現
5 人間性のきざし
[補論]普遍的道徳基盤とその生物学的背景―互恵的利他行動と心の理論から生じる「互恵」と「共感」
第Ⅲ部 渾沌を生きる
第7章 国境を越えた集団移住と「環境難民」—歴史経験が生み出すバナバ人の怒りと喪失感[風間計博]
はじめに
1 サンゴ島の環境条件と集団移住
2 バナバ人の歴史経験―島の荒廃と強制移住
3 移住後の経済生活―環境への順応と困窮化
4 フィジーにおける集団移住者の法的位置
5 考察―集団移住モデルの有効性
おわりに―過酷な「理想郷」の生成
第8章 個の死と類の亡失をめぐる人類学的素描[内堀基光]
1 個の死と類の存続
2 死ぬことの人称性
3 「死者」の誕生
4 自己の死の生成と不死
5 個体の向こうと手前
6 類の存続
7 類の亡失
8 保存される種
9 生まれること
終章 カソゲの森にきざすもの—ヒトがもたらす攪乱と生成[伊藤詞子]
はじめに
1 アウター・ワールドとしてのヒト
2 インナー・ワールドの住人たち
3 渾沌を生きる
4 おわりに―クッシー再び
索 引
執筆者紹介