彼女たちの文学 語りにくさと読まれること
価格:5,940円 (消費税:540円)
ISBN978-4-8158-0835-8 C3095
奥付の初版発行年月:2016年03月 / 発売日:2016年04月中旬
女性作家は 〈女性〉 を代表しない——。〈女性〉 へと呼びかけられ、亀裂の感覚を生きながら、彼女たちはいかに語ってきたのか。田村俊子、野上弥生子、宮本百合子、尾崎翠、林芙美子、円地文子、田辺聖子、松浦理英子、水村美苗、多和田葉子など、複数の読み手に曝されたマイノリティ文学として読む。
目次
序 章 〈女性作家〉 という枠組み
1 6つの前提
2 亀裂の発生源としてのジェンダー
3 主体性から応答性へ
4 被読性と読者の複数性
5 〈語りにくさ〉 の倫理性
第Ⅰ部 応答性と被読性
第1章 〈女〉 の自己表象 —— 田村俊子 「女作者」
1 自己表象のジェンダー・スタディーズ
2 男性作家の場合
3 女性作家の場合
4 書けない女たち
5 女性の自伝
6 田村俊子という例外
第2章 書く女/書けない女 —— 杉本正生の 「小説」
1 〈自己語り〉 と 「小説」
2 『青鞜』 という場
3 杉本正生という書き手
4 『京都日出新聞』 の短編群
5 〈告白〉 と 「小説」
6 読み手としての 〈新しい女〉
7 〈告白〉 の回避
8 〈語りにくさ〉 と読まれること
第3章 読者となること・読者へ書くこと —— 円地文子 『朱を奪うもの』
1 書き手にとっての読者
2 読者となること
3 読者へ書くこと
4 裂かれる主体
第4章 聞き手を求める —— 水村美苗 『私小説 from left to right』
1 声と力
2 文学テクストを書く
3 『私小説 from left to right』
第5章 関係を続ける —— 松浦理英子 『裏ヴァージョン』
1 書き手と読み手の力関係
2 『こゝろ』 のパロディ化
3 『放浪記』 という 〈表ヴァージョン〉
4 『放浪記』 のパロディ化
5 関係を欲望する
第Ⅱ部 〈女〉 との交渉
第6章 〈女〉 を構成する軋み —— 『女学雑誌』 における 「内助」 と 〈女学生〉
1 カテゴリーとその配置
2 〈賢母〉 と 〈良妻〉 と 〈女学生〉
3 〈良妻〉 から 〈賢母〉、そして 「家族」 へ
4 女学生批判と 「内助」 論
5 「内助」 論の特殊性
6 理念が生む軋み —— 「こわれ指環」 と 「厭世詩家と女性」
第7章 「師」 の効用 —— 野上弥生子の特殊性
1 女性作家と師
2 記憶の中の漱石
3 漱石の 「明暗」 評
4 「明暗」 評と 「明暗」
5 「師」 の抽象化
第8章 意味化の欲望 —— 宮本百合子 『伸子』
1 伸子という主体
2 「ごちゃ混ぜ」 な 『伸子』
3 3つの層
4 名付けをめぐる攻防
5 放置された細部
第9章 女性作家とフェミニズム —— 田辺聖子と女たち
1 多様な新しさ
2 田辺聖子の視線
3 田辺聖子と女たち
第Ⅲ部 主体化のほつれ
第10章 〈婆〉 の位置 —— 奥村五百子と愛国婦人会
1 女性の再配置
2 愛国婦人会と日本赤十字社
3 奥村五百子のジェンダー
4 慈善と良妻賢母
5 奥村五百子と 『愛国婦人』
6 〈婆〉 の再配置
第11章 越境の重層性 —— 牛島春子 「祝といふ男」 と八木義徳 「劉廣福」
1 植民地主義的越境
2 2つの 〈外地もの〉
3 満人譚の再生産 —— 八木義徳 「劉廣福」
4 典型の回避と回収と —— 牛島春子 「祝といふ男」
5 微妙な抵抗
第12章 従軍記と当事者性 —— 林芙美子 『戦線』 『北岸部隊』
1 従軍記の欲望
2 吉屋信子の従軍記
3 火野葦平 『麦と兵隊』 と林芙美子の 「宿題」
4 記述と想像
5 感傷性と当事者性
第Ⅳ部 言挙げするのとは別のやり方で
第13章 異性愛制度と攪乱的感覚 —— 田村俊子 「炮烙の刑」
1 身体的な言葉
2 姦通という物語
3 3つの手紙と異性愛的物語
4 龍子の感覚世界
5 非異性愛的攪乱性
第14章 遊歩する少女たち —— 尾崎翠とフラヌール
1 歩く少女
2 フラヌール・銀座
3 模倣と自己離脱
4 墜落する歩く女
5 ステッキガール
6 尾崎翠の歩くこと
7 歩行の運動性
第15章 言葉と身体 —— 多和田葉子 『聖女伝説』 『飛魂』
1 「沈黙」 への期待
2 『聖女伝説』 の 「被害者」
3 媒体となること
4 「抵抗」 の 「術」
5 「全然違う身体」
6 『飛魂』 の弟子たち
7 「理解」 と独創
8 方法としての体感
9 言葉の可動性