力学の誕生 オイラーと「力」概念の革新
価格:6,930円 (消費税:630円)
ISBN978-4-8158-0920-1 C3040
奥付の初版発行年月:2018年10月 / 発売日:2018年10月上旬
ニュートン以後、自然哲学との決別を通して力学は生まれ直した。惑星の運動から球の衝突まで、汎用性をもつ新たな学知として立ち上がる過程を丹念に追跡。オイラーの果たした画期的役割を、ライプニッツやベルヌーイ、ダランベールやラグランジュらとの関係の中で浮彫りにする。
十八世紀半ば、ベルリンの王立科学・文学アカデミーが刊行した紀要の一七五〇年度の巻に、『力学の新しい原理の発見』と題する一篇の論文が掲載された。著者は、ヨーロッパを代表する数学者の一人でアカデミーの数学部門の長でもあった、レオンハルト・オイラーである。
この論文の直接の主題は、大きさのある物体の回転運動であった。だが、オイラーはその中に「力学全体の基礎となる一般原理の説明」という一節を設け、運動方程式という名前で今日知られている力学原理の簡明な解説を与えている。現代的に述べ直すなら、それは、一つの点と見なされる物体(質点)に働く力の大きさと、それによって生じる速度の変化(加速度)との関係を、空間の三つの次元それぞれについて与えるものであった。微積分の言葉で表現された、この関係式の持つ重要性について、オイラーはこう宣言している。「今しがた私の打ち立てた原理は、ただそれだけで、あらゆる物体――それがどのような性質のものであれ――の運動についての知識につながりうるような、あらゆる原理を内容している」と。
力学史上、オイラーのこの論文は、いわゆる「ニュートン力学」の理論体系が明瞭な形で提示された記念碑的著作として知られている。それは確かに、十八世紀を通じて進行した力学の解析化と体系化の過程において、一つの到達点と見なすべきものである。アイザック・ニュートンの『自然哲学の数学的諸原理』(通称『プリンキピア』、
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(「序論 力の起源をたずねて」冒頭より/傍点は省略)
有賀 暢迪(アリガ ノブミチ)
1982年 岐阜県に生まれる
2005年 京都大学総合人間学部卒業
2010年 京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学
2013年 国立科学博物館理工学研究部研究員(現在に至る)
2017年 京都大学博士(文学)
目次
序 論 力の起源をたずねて
第1章 十八世紀力学史の歴史叙述
1 解析化と体系化
2 活力論争と力の概念
3 「力学」の誕生
第Ⅰ部 活力論争と「運動物体の力」の盛衰
第2章 十七世紀の自然哲学における「運動物体の力」
1 物体の中の「力」と衝突の問題――デカルト
2 「固有力」と「刻印力」――ニュートン
3 「活力」と「死力」――ライプニッツ
第3章 活力論争の始まり
1 ドイツ語圏での支持拡大
2 オランダからの反応
3 フランスでの論戦の始まり
第4章 活力論争の解消
1 ダランベールの「動力学」構想
2 モーペルテュイの最小作用の原理
3 オイラーによる「慣性」と「力」の分離
小 括 「運動物体の力」の否定とそれに替わるもの
第Ⅱ部 オイラーの「力学」構想
第5章 「動力学」の解析化
1 活力と死力、その異質性
2 活力と死力、その連続性
3 死力による活力の生成
第6章 活力論争における衝突理論の諸相と革新
1 衝突の法則と物質観
2 ス・グラーフェサンデによる「力」の計算
3 パリ科学アカデミー懸賞受賞論文
4 ベルヌーイによる衝突過程のモデル化
5 オイラーによる「運動方程式」の利用
第7章 オイラーにおける「力学」の確立
1 活力と死力の受容
2 「動力」、「静力学」、そして「力学」
3 ライプニッツ-ヴォルフ流の「力」理解に対する批判
小 括 「力学」の誕生
第Ⅲ部 『解析力学』の起源
第8章 再定義される「動力学」と、その体系化
1 パリ科学アカデミーにおける「動力学」の出現
2 「力」の科学から運動の科学へ
3 ダランベールの「一般原理」と、そのほかの「一般原理」
第9章 作用・効果・労力
――最小原理による力学
1 弾性薄板と軌道曲線における「力」
2 「労力」の発見
3 最小労力の原理
4 二つの最小原理、二つの到達点
第10章 ラグランジュの力学構想の展開
1 「動力学」のさらなる体系化
2 「普遍の鍵」としての最小原理
3 「一般公式」の由来と『解析力学』の力概念
小 括 静力学と動力学の統一、あるいは衝突の問題の後退
結 論 自然哲学から「力学」へ
あとがき
補 遺
主要な著作と出来事の一覧
注
参考文献
索 引
関連書
H・カーオ著『20世紀物理学史―理論・実験・社会―』(上・下)